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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
四章 銀の鍵
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四章12話 綺麗過ぎる

 機械兵の残骸を跨ぎ、俺たちは目前の研究所へと足を進めていく。

 あれだけの大きな戦闘の音が響いておきながら、新手の気配は感じられない。

 どうやら、今の三体が常駐している警備の全てと見て間違いなさそうだった。

 数瞬の時を掛け、俺は二度目となる研究所の扉を前にする。



 「……開けるぞ?」


 「「「うん(はい)……!」」」



 レンの一言に俺たちは息を揃えて覚悟を決める。

 レンの手により、重厚な金属の扉はゆっくりと開かれていく。

 隙間から覗く室内の景色に人の影は見当たらない。

 ただ、以前の時と変わりなく、室内の様子は整然としていて、人の出入りが無いとは思えないほどに清潔さに溢れていた。



 「……ここ、凄く綺麗にされてありますね。本当に、使われていないんでしょうか?」


 「いや、確実に人が出入りしているだろうな。以前は検討違いで誰にも出会うことはなかったが、今回ばかりは必ず誰かがいるはずだ」



 研究所へと足を踏み入れ、クレアが最初に放った言葉は皆が一様に感じるであろうものだった。

 俺自身も以前の時と同じように、クレアの感想と同じものを感じているところがあった。



 (確かに、人の出入りはあるんだろうけど……あまりにも、綺麗過ぎやしないか?)



 だが、以前の時とは違い、俺はその室内の様子にどことなく違和感を感じていた。



 (生活感が無い、と言うか何と言うか……モデルルームを見ているようだ。人が住める状態だと、人が住んでいるんだと、印象付けさせるためだけに綺麗にした……そんな感じがする)



 目の前にある景色はあまりにも整い過ぎていた。

 根城にしているのであれば、必ず生活の後が少なからず現れる。

 食い繋ぐために食料を求めて街へと出向けば、塵や埃を中へと連れて帰ることは確実であろう。

 しかし、出入り口の近くを注意深く見渡しても、そのような跡はどこにも見当たりはしなかった。



 「……レンさん、以前訪れたことがあるって言ってたけど、その時に見て回った場所の中で、どこか怪しい場所ってなかった?」


 「ある。地下への隠し扉が書斎にな」


 「じゃあ、まずはそこを当たろう」



 シオンは普段のあっけらかんとした調子ではない、気の引き締まるような声音でそう意向を固める。

 誰一人、異議を唱えるものはいなかった。

 レンを先頭にし、俺たちは地下へと繋がる書斎を目指して研究所内を歩み始めた。


 罠が仕掛けられているのではないか。

 どこかで待ち伏せが潜んでいるのではないか。

 そんな気掛かりが絶えず心の中に潜み、足を進めるほどに、意図することなく緊張の糸を張り詰めさせていく。

 しかし、そんな不安が現実となることはなかった。

 迷いなく足を進めた俺たちは数分と掛けることなく目的の部屋の扉の前で足を止め、警戒心を露に取っ手へと手を掛ける。



 「ここに地下へと繋がる道が……確かに、これは知らなければ気が付きませんね」


 「シンジ、手伝ってくれ」


 「はい……!」



 クレアとミアの二人が部屋の様子を興味津々といった様子で眺める中、俺はレンと共に机を持ち上げ、位置を僅かに移動させる。

 そして、敷かれてあった絨毯を捲ると、その下からは懐かしさすら覚える地下へと続く扉の姿が現れた。



 「へぇ、これが……確かに怪しさ満点だ」



 絨毯を除けた瞬間、シオンはひょこっと顔を覗かせて扉の存在に関心を示す。

 すると、それに引き寄せられるようにクレアとミアの二人も扉の元へと集まり始める。



 「……けど、ここは違うと思うな」



 しかし、関心は示したものの、シオンは唐突に異議を唱え始めた。

 扉の取っ手へと手を掛けようとしていたレンはその動きを止め、皆の視線は一斉にシオンへと注がれ始める。



 「……なぜ、そう思う?」


 「それはもちろん、明らかに誘い込まれているからさ。研究所に足を踏み入れて最初に思ったことは、あまりにも綺麗過ぎるってこと。潔癖症の人ならこれくらい綺麗にしていてもおかしくないのかな?

 とは思ったけど、自分が狙われることくらいわかっているはずなのに、あの機械兵以外に防衛手段を用意していないのは、遠隔操作で人を道連れにしようとしてきた姑息な人物にしてはあまりに無用心過ぎる。それと……そこッ!!」



 唐突な出来事だった。

 話の途中に言葉を途切らせたシオンは腰に提げていたナイフを手に取ると、振り向き様に空へと投げ飛ばす。

 すると次の瞬間、バチッという電糸が弾ける音と光が瞬き、空を切ったナイフは小気味の良い音を立てて壁へと突き立った。

 シオンは電糸が弾けた場所へと足を進めると、体を屈めて床に手を伸ばす。



 「固定の監視カメラで見張っても良いものを、こんなカメラを飛ばしてまでボクたちの動きを常に見張ってるんだ。相当に慎重な人物。本当にこの先にいるのであれば、何らかのアクションは仕掛けてきていても良いはずだからね。それがないということはここにはいないということだよ」



 シオンが手にしていたのは小さな羽虫を象った監視カメラだった。



 「あと、それともう一つ付け加えると、ズル賢い人たちと長年争ってきたボクの勘がここじゃないって言っているんだ」



 そんなカメラを指で潰しながら、シオンは笑顔でそう告げる。

 確定要素などどこにもない。

 だが、シオンの言葉にはどことない安心感のような、納得せざるを得ない雰囲気が纏っていた。



 「……それなら、ここじゃないとするならどこにいる?」


 「近くに怪しい場所があった。そこに行こう」



 シオンはどこか確信を持ったような笑みを浮かべる。

 頼るものなどない俺たちに異議はなかった。

 俺たちは揃って踵を返し、シオンの背中に付いて研究所を後にした。

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