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男がか弱きこの世界で  作者: 水無月涼
四章 銀の鍵
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四章10話 危惧

 アリアの屋敷へとシオンを連れてきてから一夜が明けた。

 シオンはニコリとした静かな、好印象を与える笑みを浮かべ、そんな表情を前に、アリアは眠たげな表情ながら疑問符を頭上に踊らせる。

 目覚めたとの報告を受けてアリアの部屋へと赴いた俺たちは、何とも言えぬ静寂に包まれていた。



 「……何で犯罪者がここにいるの?」


 「アリアさんにだけは言われたくないかな」



 顔を合わせ、僅かな静寂の後、紡がれた第一声はそれだった。

 シオンは一切傷付く素振りもない様子で、即座にアリアへと笑顔を保って言い返す。



 「……あなたのやったことに比べれば、私のは些細なもの」


 「いやいやぁ、罪に大小なんてないでしょ」



 二人の掛け合いは終わる気配が見えなかった。

 どちらかが言葉を紡げば、片方がまた新たに言い返し、二人とも怒りなどの負の感情は見られないものの、どちらも退く気は一切見られなかった。



 「まったく……しょうもない言い争いですね」


 (いや、あんたも同類だろ……)



 そんな二人の様子を、アリアの傍らに使えるレヴィはやれやれと言わんばかりに溜め息を吐いて肩を落としていた。

 しかし、そんなレヴィも俺から言わせればアリアとシオンの二人と何ら変わりはない。

 誘拐の現場に居合わせながら止めはしなかったのだ。

 言わば共犯者みたいなもの。

 俺は無意識の内に呆れの感情が表情へと現れていた。



 「二人とも、そこまでだ。無益な言い争いをしに来たわけではないだろう? シオン、早く話を切り出したらどうだ?」


 「おっと、そうだね」



 すると、見ているだけでは更なる掛け合いが続きそうな状況を見兼ね、レンは二人の不毛な会話へと割って入る。

 シオンはすぐさま冷静さを取り戻した。

 そして、その姿を前にし、アリアは先ほどとは趣の違う疑問符を浮かべる。



 「ねえアリアさん、一つ聞きたいことがあるんだけど、この街の中に何か隠れ家となるような空き家とか、人目に付かない地下施設なんてものはあったりしない?」


 「……街の中に?」



 シオンの問いにアリアは僅かに俯いた。

 行儀良く椅子に腰掛け、腕を組むなり、顎に手を当てるなりすることなく、ただ静かに思案を巡らせる。



 「……無いわ。以前はあったけど、今はもう封鎖してある。出入り口になる場所は埋めたし、街の巡回に当たる警備たちには注意を配るよう言ってあるから、頭のネジが外れたような人物でもない限り誰も近付かないわ」



 そして、顔を上げて口を開いたアリアは自身の力で確信を得たのであろう。

 言い淀むことなくハッキリとそう言いきった。



 「そっかぁ……」



 シオンの表情は僅かに陰りが帯びる。

 頼りとしていた人物からハッキリと否定を突き付けられたのだ。

 手掛かりが完全に喪失した。

 そう考えても無理はない。



 (いや……まだ、一つだけある)



 ただ、シオンの問いを聞き、俺の中には一つだけ心当たりがポツリと浮かび上がっていた。



 「まだ、諦めるのは早いぞシオン」



 そして、どうやらそれはレンも同じようだった。

 声を上げたレンへと皆の視線が集まる中、ふと、俺の視線とレンの視線は吸い寄せられるかのようにピタリと重なる。



 「どうやら、シンジも気が付いたようだな」


 「はい……研究所、のことですよね?」


 「ああ、その通りだ」



 俺とレンは互いに小さく笑みを浮かべ、レヴィただ一人が納得した様子を垣間見せる。

 事情を露知らぬクレアとミアは話に付いていけずにひたすらに疑問符を浮かべ続け、シオンは興味はありながらも、何の事だと言わんばかりの様子で首を傾げる。



 「研究所? 何それ?」


 「今は古き、昔によく使われていたという施設だ。街の外れ……それも街道から外れた場所にあって、人が全く近寄らない。良からぬことを企む輩が隠れ蓑とするには打ってつけと言える場所だ」


 「へぇ、そんな場所が。でも、そんな場所があることをレンさんたちが知っているなら……」



 レンから詳細を聞き、シオンは関心を示しながらアリアとレヴィへと視線を傾ける。

 すると、レヴィはシオンの考えを察したのだろう。

 向けられた視線に静かに首を縦に振る。



 「ええ。以前、レン様とシンジ様にお世話になった際に、出入りの後があるとお教え頂きましたので、施設の周囲には機械兵を常駐させて警備に当たらせていますよ」



 そして、レヴィはそう、研究所の現状を口にした。

 機械兵ならば疲れは知らない。

 動力源が底を付かない限り、任務を果たし続けてくれる。

 不安など何も無いように思えた。

 しかし視線を移せば、隣にあるレンの表情は少々芳しくない様子だった。



 「レヴィ。聞くが、警備に当たっているのは機械兵だけなのか? 人間の兵士は一人も配置してはいないのか?」


 「ええ。私がここを離れる前に配置した警備のままであれば、人間は一人も」


 (この国にある技術力を考えたら、それってまずいんじゃ……!)



 俺はすぐさまレンの危惧していることを察した。

 いくら機械兵と言えども、プログラムに従い続けているだけであれば、出来ることには限度がある。

 その小さな穴を掻い潜られてしまえば、厳重にも思える警備は砂の壁ほどに不確かで脆いものだ。

 レヴィの返答を受け、レンの表情は険しさを増していく。



 「……それはちょっとまずいかな」



 そして、シオンもまた、俺と同じように問題点に気が付いたようだった。



 「機械兵だけだと乗っ取られてしまっていた時、異常を正常として報告されてしまえば異変に気が付きようがない……!」


 「……!」


 「……嫌な予感がするわ」



 シオンから危惧するものを耳にし、アリアとレヴィは共に表情を険しくさせ、そして“予感”を口にする。

 俺たちはすぐさまそこに何かがあると確信した。

 まるで号令でも発したかのように、皆一斉に顔を見合わせる。



 「レンさん、場所は?」


 「覚えている。街から落石街道まで行く道のりと距離は差ほど変わらん」


 「よし、行こう!」



 意見はすぐさままとまった。

 シオンの出発の号令に俺たちは息を揃えて同意の言葉を響かせると、屋敷を後にし、レンを先頭に研究所へと駆け出し始めた。

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