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やっぱり気弱な白崎さん  作者: 君野旬
4/6

4 気弱な脅迫者

「でもその棚橋って人面白いな」


昨日の出来事を話すと光希は終始笑っていた。俺も当事者だから笑わないが客観的に見ればかなり変わった体験だったのではないだろうか。でも思い出せば思い出すほど棚橋さんは変わっている。あの紳士なオーラで見えなかったが冷静に考えれば赤の他人の高校生のAVを借り、さらにお金まで出すのはもう変人そのものだ。


「確かに今思えば相当変わってるな」


「普通に一緒にいた時に気づけよ」


「近くにいると当てられるんだよオーラに」


「オーラって?」

光希は野菜ジュースのストローに口を付ける。


「なんかそうゆうところも気づかないくらいカッコいいんだよ」


光希は本人を見たわけではないから変人としか思わないだろうが確かに棚橋さんはダンディーな紳士だった。


「今度会ってみたいな。棚橋さん」


あのレンタルショップに行けばまた会えるんじゃないか。そんな気がした。


「あっそうだ。昨日撮った美優の写真見せてやるよ」

光希はそう言ってスマホをいじり出す。

光希と美優は自他共に認めるバカップルでお互いに絶対の自信を持っている。


「見なくていい。てゆうかさっき見た」


一つ前の十分休みに美優はこの教室に来ていた。二人は顔もよく明るいので学校が始まってまだ二ヶ月も経っていない今でもかなり知られている有名カップルだ。二人が何の躊躇もなくイチャつくのも彼等の知名度を上げた要因だろう。


「写真で見るとまた違うぞ」


「スマホのカメラだと画素数が少ないから現物よりボヤッと写るらしいよ」

何かのサイトで見た情報をそのままいう。


「マジで?それは分からなかったわ。でもやっぱ写真もいいな」


昨日遊んだと言っていたからその時に撮ったものだろう。私服の美優が笑っている写真だった。


「俺どう反応すれば良いの?」


「可愛すぎて死にたいとかそんな感じだろ」


全力の片言で言ってやった。

「ウワー。カワイスギテシニタイ」


「わかった。今すぐ東京湾に沈めてやるからちょっと待ってろ」


「何年前のドラマだよ」


喋っていると急に光希は次の授業である古文の教科書がないことに気づいたようで他クラスの友達に借りに行った。


席に座って暇を持て余していると高橋歩から話しかけられる。


「ねえ。桐谷君てもう今週の『アストラの戦士』見た?」


高橋は俗に言うオタクという分類に入るタイプで本人たちも認めていた。彼等とは違い、フィギュアやグッズなどは買ったことはないが、普通に深夜アニメは見る俺はたまたま見ているアニメが被ったことから意気投合し、割とよく話す仲だ。


『アストラの戦士』はアストラに選ばれた人間たちが魔物たちと戦うというシンプルで分かりやすいストーリーや作画、演出のクオリティの高さ、散りばめられた伏線の回収が見どころのアニメだ。

高橋が言うには今期のアニメランキングでどのサイトでも上位を獲得しているらしい。


「昨日見たよ。めちゃくちゃ面白かったわ」


「だよね。僕もう漫画買ったんだけど全巻読んだし、今度貸すよ」


「おっ、マジ。サンキュー。正直アニメ待つの限界だからぜひ貸してくれ」


「うん、分かった。明日持ってくるよ」

高橋は自分の席に戻っていった。


授業が終わり、眠気に抗うことなく机に突っ伏し、目を瞑ると肩をちょこんと触られる感触があった。絶対に光希ではない。光希が俺に話しかけるときは肩なんて叩かない。それに光希にしては圧倒的に力が弱い。


「だ……白崎さん」


相手は俺の隣の席の女子、白崎さんだった。


「あ、あの」

緊張しているのか若干上ずった声だったが問題なく聞こえたから、素の声が綺麗なのだろう。

白崎さんの声を聞いたのは入学当初の自己紹介以来だ。授業中はおろか十分休みですら声を聞いたことはなく昼休みになるとそそくさとどこかへ行ってしまう。


無口で不気味な人。それがクラスメイトの白崎さんへの印象だ。一部では座敷わらしなんて呼ばれていたりする。


白崎さんは手が震えているのか慌てながらリュックからスマホを取り出し、俺に画面を向ける。


「……何で」


そこには熟女モノのAVを持って暖簾を潜る俺がバッチリ写っていた。


「ひ、昼休み。別棟の2Bで待ってます」

2Bは確か使われていない特別教室だったか。入学当初に暇つぶしに光希と校内探検で通ったはずだ。


そう言って白崎さんは教室を出ると、授業開始直前まで戻ってくることはなく何も聞くことはできなかった。


俺はただひたすらあの写真が拡散された末路が頭から離れなかった。あの写真が拡散されればまず間違いなく大多数の生徒からは『熟女好き』とか『常連さん』などとからかわれ長い高校生活を人の目を気にして生きていくことになるのは間違いない。

友人から頼まれて大人の国に行ったというのが事実だが苦しい言い訳にしか聞こえない。中には信じてくれる人もいることはいるだろう。だが、そんな人間はごく少数だ。


これからの学校生活が昼休みにかかっている。


考えているうちに授業は終わり、白崎さんはそそくさと教室を出て行ってしまう。白崎さんが出て行って3分ほど経った後に意を決して俺も2Bに向かった。



別棟はそもそも特別教室か空き部屋が多く、昼休みはほとんど使われないため人もいなかった。早足になっていたのかあっという間に2Bのドアの前に着く。


深く深呼吸し、心を落ち着かせてドアを開くと、奥の方で白崎さんが立ち上がったのが見えた。どうやら驚かせてしまったらしい。


教室の机とは違い、講義用の机椅子がいくつも並んでいた。白崎さんに近づいて話しかけようとした時、白崎さんはまるで俺が上司かのようにしっかり頭を下げた。

「あ、あの、ほ、ほんとに……す、すすすいません……」


普通じゃないテンパり具合に俺は思わず口を挟んだ。

「まず落ち着いて。ゆっくり座って話そう」


高圧的に脅してくるのかと思っていたからある意味で拍子抜けな状況だし、第三者が見たら白崎さんが脅されているように見えるかもしれない。



俺は一人分の間をとって同じテーブルの椅子に腰かけた。何故かテンパっている白崎さんが落ち着くのに2分ほどかかった。

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