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やっぱり気弱な白崎さん  作者: 君野旬
2/6

2 田中はやっぱり頭おかしい

 事の発端は中学の同級生で今は県二位の高校に通う田中健斗、通称バカと遊んでしまったことだろう。


 田中が県二位の高校に通いながらこんなにも分かりやすいあだ名を付けられた理由は一つ。勉学という点を除いてあまりにも行動が愚かだからである。



 分かりやすいのは交番前自販機事件だ。


 このバカは近所の交番前で真面目な警官が立っている交番のすぐ横にある自販機を見てこう言った。


「あそこにお宝がある」


 バカは俺の横からいきなり猛ダッシュで自販機に近づくと、警官が見ている最中、なんの躊躇もなく自販機下に手を突っ込み、五百円を空にかざしていった。


「海賊王に俺はなった」


 まず理解不能な点は20メートル近く離れていた自販機の下に五百円玉が落ちていることになぜ気づいたのかだ。日常的な行為で自販機を見たら必ず下を探るならまだわかる。だが下校が一緒だった俺は一度も健斗がそんな行動を取ったことを見たことがなかった。


 俺の仮説は二つ。


 一つは全くの偶然。俺を驚かすか笑かそうとして手を突っ込んだらたまたま見つかったという説。


 もう一つは健斗が自販機の下にお金があるかないかを見分けることができるスタンドを持っているという説だ。


 もちろん俺はことの真相を健斗に聞いた。すると彼はこう言ったんだ。


「本家の決着がついたら教えてやる」


 本家とは恐らく大好評連載中の漫画のことだろうから真相を俺が聞けるのは数年後、下手したら十年後かもしれないし、未来で俺がこのことを覚えている確証もないため真相は高確率で闇に沈むだろう。


 話はまだ終わらない。目の前で軽犯罪を犯した健斗を警官が見逃すはずもなく田中に声をかけた。


「君。今何したの?」


 田中は警官と軽犯罪というダブルパンチをもろに受けながらも堂々としていた。


「宝探しです」


 予想を超える返しに警官は困惑した様子だった。


「ええと宝っていうのは」

 警官が真面目に話を続けたのは田中の顔が真剣そのものだったからだと思われる。


「これのことです」

 田中は警官に五百円玉を見せる。


「ええとそれは」

 警官は田中のあまりに堂々とした姿に押されているようだった。そんな警官を見て何を勘違いしたのか田中は五百円玉を警官に無理やり握らせた。


「これはあなたが大切に使ってください」


 全ての予想を四次元的に上回った田中にとうとう警官は何も言えなかったようだ。


「分かった。使いはしないけどちゃんとこのお金は交番に預けるよ」


 警官の言葉は聞こえていなかったのか田中の最後の言葉はこうだ。

「祭りのわたあめはピッタリ五百円だよ」


 もしかしたら田中には警官が貧乏な物乞いに見えていたのかもしれない。



 これが今俺とレンタルショップ前にいるバカこと田中健斗である。


「それで何の用?」


 一時間前、家に着いたばかりの俺に電話が入った。

 まとめるとお前の力が必要だから私服でレンタルショップに来いという旨の電話でよく分からなかったが暇だったのでゆっくり時間をかけ着替え、ゆっくりと自転車を漕いでここまで来た。


「お前に超重大任務を与える」


 田中は俺にレンタルカードを渡し、スマホを操作すると俺のスマホが振動した。


「これを手に入れてくること。それがお前の任務だ」


 田中が送ったのはとあるAVの表紙だった。ちなみに熟女モノ。俺は任務の内容を理解し、呆れた。


「自分でやれ」


「俺はとっくにここで捕まってる。もう俺はダメだ」

 

 恐らく一度か二度注意を受けていたのだろう。


「ネットで見ればいいだろ。つうか熟女モノって」


 田中は大げさにため息をつく。

「はぁー。タク、お前は本当にないな。熟女の良さが分からないなどお前は半人前以下だ」

 田中は人のことを二文字に約して呼ぶ。俺のことは名前を約してタク。光希のことは光から取ってヒカと呼ぶ。


「タクみたいなやつがいるからAVスペースが未だに小さいんだ」


 全くその理屈は分からないが田中とは『分からない』を固めて作ったような人間であり、理解しようとするだけ無駄だ。


「それでこのカードは誰のなんだ?」


「これはマサさんのだ」


「たまに話に出るけどマサさんって誰なんだ?」

 何度か田中の話にはマサなる人が出てくるが未だによくわからない存在だ。


「マサさんはマサさんだろ」


 これ以上深掘りしても意味がないと思い話を進める。

「とにかく俺はしない」


 俺がそう言うことは織り込み済みだったのか田中はニヤッと笑い、背中に背負ったリュックサックからあるものを取り出す。


「それどこで」

 それは俺がずっと探し続けてきたもの。一ヶ月に一回は必ず思い出し食べたくなるもの。

 冷や冷やアイス。俺的NO.1お菓子でありながら店頭からもネット通販からも消えた幻。


「あーんとね。ここで見つけた」

 ここで平気で教えるのが田中という男である。WEBのスクリーンショットで名前と住所さらに店の景観が映った画像が送られてくる。


 不可解なのはそのみせがここから20キロほど離れたところの駄菓子屋だったことだ。なぜそんな店から冷や冷やアイスを見つけ出すに至ったのか。


「どうやって見つけた?」


「ずっと前にめちゃくちゃ食べたいけど見つからないって言ってたでしょ。僕、なんでもないところをサイクリングするのが好きだから駄菓子屋とか見かけたら一応寄ってみたりしてたんだよ。そしたら昨日偶然見つけてさ。安かったしめちゃくちゃ買っちゃったよ」


 田中は冷や冷やアイスを投げてよこす。サイズは昔と変わらず、小さいパッケージの中に2つの小さな玉状のガムが入っている。


「いいのか。もう渡して。店も分かったし、受け取らないで帰っちゃうかもよ」


 田中は最初は意味がよく分からなかったようだが、しばらくして言った。

「あーこれの代わりに行けって俺が言ってると思ってんのか。違うよ。この菓子を上げるのが第一目標でAVは第二。別に無理に頼んでるわけじゃない」


 田中はパンパンに冷や冷やアイスが入ったビニール袋を俺に手渡す。レンタルショップの前、俺は少し泣きそうだった。


 やっぱりこいつは策士だ。そんなことをされたら行くしかないじゃないか。


「ありがとう。でもこれはまだ受け取れない。こいつは成功報酬ってことにしてくれ」


 自分でも恥ずかしいことを口走ってしまった自覚はあった。そして田中に読める空気は存在しない。


「何言ってるの?」


 恥ずかしさから逃げるために俺はレンタルショップに足を踏み入れた。

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