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やっぱり気弱な白崎さん  作者: 君野旬
1/6

1 早速ですがフられました

「俺と付き合ってくれ!」


 俺は手を伸ばし、その手が握られることを強く願いながら目を瞑る。


 きっと大丈夫。俺が盲目的に続けてきた筋トレも勉学もスポーツもきっと今この瞬間のためにある。


 思い返してみればおかしな話だ。誰に言われたわけでもなくそれをする理由もないのに小学生の頃から筋トレと勉学を毎日欠かさなかった。


 幼い頃から筋肉を鍛えると身長が伸びないという迷信に内心怖がりながらも腹筋、腕立て伏せ、スクワット。早朝のランニングは成長とともに距離も長くなり今では一日5キロは走るようになった。


 将来の夢はおろか志望校さえ大してないくせに毎日コツコツ続けてきた勉学のおかげでこの私立高校には受験勉強もせずに入れた。まあ担任からはもっと偏差値の高い高校を受けろという説得を近くて便利だからの一点張りで断り続けるのは多少骨が折れたが。


 そんな理由のない行動が身を結ぶ時が遂に来たんだ。


「ごめんなさい!」


 目を開けると申し訳なさそうな目で俺をみる彼女。

 負けを認めろと自分に言い聞かせるがどうしてもこれだけは聞いておきたかった。


「理由を聞いてもいい?」


「……私ってなんていうかこう全体的にダメな人が好きなんだけど拓海くんて顔もいいしスポーツもできるし、勉強も出来て私のタイプとはかけ離れてるっていうか。だからうんそうゆうこと」


 彼女はダメ系な男が好きで俺はその条件に見合わなかったってことか。


「まあでも拓海くんは引く手数多だろうし、私なんかにフラれても気にすることないよ」


 フォローになってない。俺は君が好きなんだから他は関係ないだろ、といおうとしてやめた。


 俺はいわば敗残兵。負け犬の言葉はどこまでいっても醜い。ここは潔く潔く。


「そっか。はっきりいってくれたおかげで踏ん切りがついたわ」


 彼女は俺があまり傷ついていないと判断したのか少し安堵の表情を浮かべてその場を離れて行った。


 精一杯笑顔を作り、彼女が気にならないようにしたが、当然、俺は傷ついている。


「はぁー」


 ため息も出る。これで三度目か。




「またフラれたのか」


 俺がフラれたと聞いて大して驚いた様子もなくコーラを飲むのが深田光希。中学からの友人で家も近いため二人の家に近いこのハンバーガーショップで飯を食ったら駄弁ったりする。


「フラれた言うな。傷つくだろ」


 悲しいかな。どんな時でもハンバーガーはうまい。俺はせいぜい3種類をずっと食べ続けているが光希は同じ種類を連続で食べないという謎のルールを課しているらしく今日もそのルールに則り新商品のレッドホットバーガーなるものを食べている。


「でもこれで4回目だろ、フラれるの」


「3回目な」

 話の途中で間違いを訂正する。


 中学の時に二回と今日の一回。今日はダメンズ好きという理由でフラれたが1回目は毛深い人が好き。2回目はバンドマンみたいな髪の長い人が好きという理由で玉砕した。


「なんて言ってた。女は」


「佐々木さんな。ええと......ダメンズが好きだから」

 ええと......なんて言わなくても当然覚えている。ただ言うのが辛いだけだ。


「はっはっは。また拓海とはかけ離れた趣味だな」

 理由がツボにはまったのか知らないが光希は遠慮なく俺の前で爆笑した。


「殺されたいのか。そうなんだな」

 ありったけの殺意を込めた目で光希を睨む。


「いやー悪い悪い。だって前もなんか変なフラれ方してたじゃん。なんだっけ。......あーんとそうだバンドマンが好きだ」


 こいつは人を気遣うということを知らないのか?藤沢にフラれた時も記憶が正しければ光希は笑っていたはずだ。


「バンドマンくらい長い髪が好きなんだ。別にバンドマンが好きなわけじゃないらしい」


 半年以上も前のことだがまだ鮮明に覚えている。あの時もしばらく動けなかった。


 流石に心配になったのか光希が案を出した。

「もういっそのこと次告白してくれた子と付き合うとかした方がいいって。広瀬だってお前に言い寄ってたじゃん」


「......もうフッた」

 2分程度のLINE電話だった。フった後少しだけ話したが話し声の奥にかすかにすすり泣くような音が聞こえて胸が痛んだ。


「へぇーマジか」

 そう言いつつも光希は特に驚いた様子もなくハンバーガーを頬張る。光希は普段からよく食べるがその分口も開くから一口が大きいのだ。


「お前は彼女とどうなん。いい感じなの?」


 光希は自慢げな笑みを見せたので速攻で遮る。


「もういいもういい。何も言うな」


「そう言うなって。気になったから聞いたんだろ。俺たちは……」


 答えは分かっている。浮かんだ疑問を声に出すべきか考えなかった俺が悪い。誰かこいつの口をガムテープで塞いでくれ。


 そこまで言って光希は口を開けたまま止まる。しばらくの沈黙の末、予想通りの答えを言った。

「……めっちゃラブラブ」


 ハンバーガーを頬張り興味がないことをアピールする。


「拓海もこの前会ったばっかじゃんか。聞かなくても分かるだろ」


 よく考えたら1週間前にこの店で会ったばかりだ。


「聞かなきゃよかったと思ってます」


 光希の彼女、朝倉美優は俺と光希の中学からの同級生だ。ルックスもよく明るいためかなりモテたのだが、射止めたのは光希だった。まあ光希も美形で根が明るいので納得といえば納得のペアではある。


「ま、頑張れ」



 こんな話をしていられるのも今のうち。三日後俺は人生最大の失敗を犯すことになる。

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