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反逆奴隷の炎使い ~それでも俺はエルフの森を焼き続ける~  作者: 結城 からく


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第50話 元奴隷は世界に反逆する

最終話です。

昨夜に一話投稿していますので、そちらが未読の方はご注意下さい。

 真昼の森の中。

 目の前には数人のエルフがいた。

 彼らは俺に向かって殺気を放っている。


「炎の使徒め! 貴様はここで――ッ!」


 威勢よく魔術を使おうとする一人に向けて、俺は炎の矢を撃ち込む。

 矢はエルフの片目を貫通した。

 そのまま頭部を破裂させる。

 焼け焦げた断面を晒しながら、エルフは倒れて息絶えた。


 続けて俺は熱風を送り込む。

 エルフ達は怯む。

 彼らの肌は一気に焼け爛れていった。

 詠唱の手が止まり、こちらへの攻撃が失敗する。


 俺はそこに赤い雷を浴びせた。

 木の根のように範囲を拡げて放射していく。


「ぎああああああああっぁあぁ……ッ!」


 雷撃を浴びたエルフ達は、痙攣しながら燃え上がった。

 不規則な断末魔が空に響き渡る。

 彼らは辺りを歩き回り、愛する森に火を移しながら死んでいった。


「…………」


 静寂に包まれる中、俺は腕を下ろして周囲を見る。

 辺りにはエルフの死体が散乱していた。

 少なく見積もっても四十人か五十人はいる。

 遠くには、炎上する家屋群が並んでいた。


 直前までは平穏だった場所だ。

 それを俺が台無しにしたのである。


「素晴らしい手際だな。さすがは使徒といったところか。エルフを殺し慣れている」


 背後から声がした。

 木々の隙間から顔を出したのは、エルフの王だ。

 風の使徒の暗殺を依頼してきたあの男である。


 俺は彼を睨み付けながら問う。


「世辞のつもりか?」


「ただの本心だとも。俺に褒められたのだから、素直に誇るといい」


 王は偉そうに返してきた。

 冗談めかしているが、半分は本音だろう。


(相変わらずだな)


 俺はため息を洩らす。

 慣れたやり取りなので、今更言うこともない。

 彼の性格はよく知っている。


 雷の使徒ガルスを殺してから、およそ半年が経過した。

 結論から述べると、隠れ村の住人は森へと移り住むことになった。

 一度は断った同盟の誘いだが、俺はこれを承諾したのである。

 王も歓迎してくれた。

 彼との関係は対等で、それは今も継続している。


 王が統治する領土のうち、俺達は使われていなかった放置区画を貰った。

 現在はそこで細々と暮らしている。

 荒野よりも豊かな環境で、生活における不自由は解消された。

 冬も食糧に困ることはなく、皆も満足している。


 ちなみにここは敵対勢力の住処だ。

 前々から争いが絶えなかったため、今日は襲撃に来たのであった。

 結果は見ての通りだった。


「おい、あまり燃やし過ぎるなよ。貴重な領地なんだ……って、全然消えねぇなおい」


 王は炎上する森の木々に水をかけていた。

 しかし、ほとんど効果がない。

 火はどんどん燃え広がっていく。


 王は水の使徒の末裔で、その能力を受け継いでいる。

 もっとも、俺の炎に比べれば、微々たる力に過ぎなかった。

 相性的には水の方が強いが、隔絶とした差がある。

 もはやエルフが束になったところで、俺の炎は消せないものと化していた。


 やがて王は消火活動を諦めた。

 意味がないと悟ったらしい。

 俺はその背中に尋ねる。


「それよりいいのか」


「何がだ?」


「この場にいることだ。王が勝手に外出したら困るんじゃないのか」


 エルフの王は居場所を隠蔽するのが基本である。

 そうしなければ真っ先に命を狙われるためだ。

 ところがこの王は、配下も連れずにこんな場所にいる。

 俺が単独で襲撃に行くと言ったところ、なぜか付いてきたのだ。


 すると王は、嫌な笑みを浮かべる。

 彼はここぞとばかりに指摘を入れた。


「それを言うなら、お前もだろう。なあ、ヒューマンの王よ」


「…………」


 俺は黙り込む。

 反論の言葉はなかった。


 彼の言う通り、現在の俺は王の肩書きを持っている。

 ヒューマンとしては、世界で唯一だろう。

 皆で話し合い、名乗ることにしたのである。


 なぜかと言えば、ヒューマンという種族の未来のためだ。

 俺はヒューマンの尊厳を取り戻すのが目的だった。

 王という身分がエルフのためだけではないと知らしめたかった。

 まずは根底にある意識を変えるところから始めるべきだと思ったのである。


 俺自身、王の肩書きは特に気に入っていなかった。

 ただ、目的のために必要だと考えている。

 王として活動し続ければ、ヒューマンの地位は自ずと変わっていくだろう。


「既存の王の型に囚われる気はない。俺はヒューマンであり、炎の使徒だ。エルフの王とは性質が異なる」


「それなら俺も水の使徒の末裔だ。他の王と違うから、好き勝手に外出する。どうだ?」


「……知るか」


 俺は再びため息を吐いた。

 この王との会話はやけに疲れる。

 向こうは楽しそうだが、俺はできるだけ喋りたくなかった。


 こうして襲撃にも同行してくることを考えると、かなり気に入られているのだろう。

 本当に厄介な男である。


 しばらく笑っていた王だが、ふと思い出したように話題を変えた。


「ところで使徒はエルフを食うことで力が増すのだろう。燃やしていいのか?」


「誰から聞いた」


「炎の女神様だよ。雑談の中で教えてくれた」


 王はあっさりと白状する。

 確かにリータなら言いそうだった。

 彼女は口が堅くない。

 大切なことでもすぐに暴露してしまう。

 そのため普段から秘密は話さないようにしていた。


「俺はエルフを食わない。あんたらとは違うんだ」


「そうか。まあ、食事なんて個人の自由だ。とやかく言うつもりはないさ」


 王はそう言って踵を返すと、来た道を戻り始めた。


「先に帰る。報酬は後日渡そう」


「分かった」


 王の背中がどんどん離れていく。

 そのまま木陰に消えるかと思いきや、彼は途中で振り向いた。


「そうそう、寄り道するなよ? そっちの村長から釘を刺すように言われているんだからな」


「ロビンか……」


「よし、ちゃんと伝言したからな。今度こそ帰るぞ。また後でな」


 王は満足した様子で歩き、やがて見えなくなった。

 最後まで軽かった足取りを見るに、同胞が殺戮される様を満喫していたようだ。

 やはりよく分からない男である。


(まあ、気にするほどでもないか)


 取り残された俺はエルフの死体を引きずり、一カ所に集めていく。

 山のように積み上げたそれらを、炎で包み込んだ。

 エルフの死体は燃え上がり、黒煙を青空に昇らせていく。


 俺はそれを眺める。

 特に何かを感じるということもなかった。


(奴隷だった俺が王となり、エルフと手を組んでエルフを殺すか……)


 冷静になって考えると、かなり滅茶苦茶なことをしている。

 無論、必要な行為であった。


 俺の目的は、ただエルフを殺すだけではない。

 その先の未来を見据えなくてはいけないのだから。

 感情に任せるばかりでは、やっていけない部分だった。


 今後も俺は殺戮を展開していくだろう。

 世界を衝き動かすには、やはり力が求められる。

 その上で変革を起こすのだ。

 どうなっていくか未知数であるが、俺自身がやらねばならない。


 与えられた力を、自らの使命に従って振るう。

 きっと今まで以上の危険や困難が待っているはずだ。

 犠牲だって当然のように出る。

 世界はどこまでも残酷なのだ。


 常に完全な勝利を実現できるわけではない。

 さらに苦しみ、悩むこともきっとある。

 立ち止まりたくだってなる。


 だけど、決して許されない。

 俺はその道を捨てた。

 果てしない苦痛を味わいながら、進まねばならなかった。


 故に自らの意志を何度も確認する。

 ひたすら繰り返すことで、心に刻み込んでいく。

 とても大事で、根源的な宣言だ。


 ――それでも俺は、エルフの森を焼き続ける。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


新作を始めました。

よろしければ、読んでもらえると嬉しいです。

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