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反逆奴隷の炎使い ~それでも俺はエルフの森を焼き続ける~  作者: 結城 からく


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第49話 元奴隷は帰還する

 それなりの時間をかけながらも、俺は隠れ村の自宅に到着した。

 荒い呼吸を整えてから、入口の扉を開ける。


 そこに立っていたのはリータだ。

 腕組みをした彼女は、俺の姿を見て薄い笑みを浮かべる。


「おかえりなさい。だいぶ苦戦したようね」


「まあな……それだけ強敵だった」


 俺は血と泥に塗れた顔で頷く。

 虚勢を張るだけの余裕もなかった。

 既にどうしようもない疲労感に襲われている。


 村人達の気配は、自宅の奥に集まっていた。

 皆で固まって一つの部屋にいるようだ。

 寝息が聞こえてくる。

 どうやら彼らは眠っているようであった。


 その時、奥の部屋の扉が開いた。

 現れたのはロビンだ。

 彼は真っ先に俺のもとへ駆けてくる。


「アレク!」


 汚れるのも構わず、ロビンは俺の手を掴んだ。

 彼は深々と息を吐いて安堵する。


「よかった……君が犠牲になったら、どうしようかと思っていたんだ」


「心配性だな。そんな簡単に死んでたまるかよ。まだやり残していることがたくさんあるんだ」


「ははは、そうだね。君らしい答えだ」


 ロビンは笑うも、唐突によろめいた。

 彼は壁に手をついて転倒を免れる。

 しかし、顔色があまりよくなかった。

 俺はロビンに肩を貸して体勢を直してやる。


「おい、お前こそ大丈夫か?」


「すまない。安心して気が緩んでしまったみたいだ……少し、休んでくるよ」


「そうするといい。諸々の話は起きてからだ」


 ここで無理をすることもない。

 あのような騒動があった直後なのだ。

 心身の疲弊は計り知れないものであった。

 すぐにでも眠りたいだろうに、ロビンは俺の帰還を待っていたのだろう。

 つくづく優しい男である。


 ロビンはふらつきながらも別室へ戻っていった。

 その姿を眺めていたリータは微笑する。


「彼、頑張ってたわよ。とにかく皆が落ち着いて眠れるように仕切っていたわ。一番疲れている癖してね」


「そうか……」


 村人達が眠っている理由が分かった。

 確かに落ち着かない状態で隠れるくらいなら、いっそ眠ってしまった方がいい。

 もっとも、それは俺が敵を全滅させると信頼した上での行動である。


 きっとロビンは生き残った皆を説得したのだろう。

 自身の不安を押し殺して、村長の役目を果たしたのだ。


 肩をすくめるリータは苦笑する。


「無力なヒューマンなのに、よくやると思わない? 戦いが得意なヒューマンなんていくらでもいるけど、彼のような逸材は滅多にいないわ。出会えて良かったわね」


「まったくだ。ロビンには何度も助けられている」


 俺は頷く。

 リータの言う通りだった。

 所詮、俺は暴力を振るうことしかできない。

 それ以外はロビンに丸投げしてきた。

 こうして隠れ村を築き上げることができたのも、彼の努力によるものが大きい。


 それからしばらく沈黙が続いた。

 やがてリータが少し呆れた口調で話しかけてくる。


「正直、よく勝てたものだと感心しているくらいよ。さすがに死んじゃうかと思ってたもの」


「……俺が死んだら、どうするつもりだったんだ」


「どうするも何も、また何十年か眠るだけよ。力が集まったら契約をして、新しい使徒を作ろうと思っていたわ」


 リータはあっさりと答える。

 冗談を言っているわけではない。

 彼女は本気でそうするつもりだったのだろう。

 それを躊躇いなくやりかねない女神である。


「薄情だな。残った皆を助けてはくれないのか」


「今更でしょう? 使徒を失ったヒューマンに力を貸すほど、私もお人好しじゃないの」


「知っている」


 確かにリータには、優しい一面もある。

 しかし、本質は人間ではなかった。

 過度な肩入れは期待できない。

 彼女はあくまでも自分が楽しむために動いている。


「そもそも、こうして現界して協力している女神が珍しいのよ。他の使徒は単独だったでしょ?」


「確かにそうだな……」


 あまり考えていなかったが、確かに女神が同行する使徒は俺だけだった。

 他の使徒は、契約してその能力だけを獲得していたらしい。


「それなら、なぜあんたは俺の近くにいるんだ。歴代の使徒の時もそうだったのか」


「ええ、もちろん。私はあなた達が足掻き、そして死ぬ様を間近で見たいの。神界から傍観するだけなんて勿体ないわ」


「悪趣味だな」


「失礼ね。好奇心が旺盛なだけよ」


 リータは平然と言葉を返してくると、話題を転換した。


「ところで、これからどうするつもり? このまま村での暮らし続けるつもりなのかしら」


「いや、村は捨てる。ここは危険だ」


 俺は即答する。

 隠れ村での暮らしを続けるべきではない。

 外敵からの守りが、あまりにも脆弱だった。

 今回の一件で深く学んだ。


「じゃあどこへ行くの? まさか村人を見捨てるつもりじゃないとは思うけど」


「俺に考えがある。たぶん上手くいくはずだ」


「ふーん……楽しみにしておこうかしら」


 リータは意味深に目を細める。

 おそらく彼女は、俺の考えを察している。

 あえて説明する必要もなさそうだった。

 話に区切りが付いたところで、彼女は俺に告げる。


「あなたも今夜はもう寝なさい。死にはしない程度だけど、少し回復した方がいいわ」


「……分かった」


 実際、こうして立っているのも限界だった。

 ここは大人しく従った方がいい。

 俺は最後の気力を振り絞って自室を目指す。

 その際、背中に声がかかった。


「アレク」


 俺は振り向く。

 リータが、じっとこちらを見つめていた。

 表情からは何も窺えない。


「何だ」


「お疲れ様。まだまだ未熟だけど、あなたは世界を変える使徒よ。私が保証してあげる」


「――女神に認められるなんて、光栄だ」


 意外な称賛を受けて、俺は笑った。

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