第45話 元奴隷は憤怒の炎を上げる
接近してきたガルスが、おもむろに両肩を掴んでくる。
彼はそのまま加速し、俺をどんどん押していく。
「……ッ」
背中に衝撃を受ける。
どこかの家屋を突き破ったらしい。
それが連続して発生した。
軌道上の建物を次々と破壊しながら、俺とガルスは村を一直線に突き進んでいく。
俺はガルスのやりたいことを直感で理解した。
おそらくこのまま俺を岩山に叩き付けるつもりなのだろう。
そして雷の力で一方的に嬲り殺しにするのだ。
岩山まで追い込めば、俺が燃やすものはない。
ガルスにとっては有利な環境である。
村の中は家屋が点在しており、燃やすことで俺の力とすることができる。
基地で披露したように、燃えた物体を操ることも可能だった。
ガルスはそれを先んじて防いだのだ。
掴まれた両肩で断続的に雷が発生する。
痺れるような痛みだ。
引き剥がそうとするも、びくともしない。
「おいおい、嫌がるなよなァ! もっと楽しんでいこうぜ!」
ガルスは凶悪な笑みを浮かべていた。
意地でも放さないつもりらしい。
彼は全身が青白く発光していた。
雷が迸り、ガルスの姿を覆い尽くそうとしている。
(ついに全力を出したか……)
人型の雷と化しつつあるガルスを見て、俺は苦い顔をする。
彼はここが正念場と判断し、一気に決着させようとしていた。
身体能力も明らかに向上している。
長年に渡って使徒を続けている者は、やはり格が違うらしい。
やがて俺達は、村の外れまで到達した。
俺は依然としてガルスに押されている。
そのうち背後に岩山が見えてきた。
このままだと受け身も取れずに衝突する羽目になるだろう。
ガルスの攻撃は強烈だ。
このまま叩き付けられた場合、畳みかけられて終わる。
そうなれば、反撃する余地はないだろう。
かと言って力任せに引き剥がせる気配はない。
(その前に何とかしなければ……!)
俺は大急ぎで懐を漁る。
掴み取ったのは爆弾だ。
基地から持ち出したもののうち、これが最後の一つである。
(頼む、効いてくれよ……!)
俺は爆弾に炎の力を圧縮して注いでいく。
すると爆弾は赤熱し、今にも破裂しそうな状態になった。
そこからどんどん力を高める。
俺はそれをガルスの顔面に押し付けた。
ガルスは驚いた顔をするも既に遅い。
直後、目の前が真っ白に染まり、俺の身体は吹き飛ばされた。
長々とした浮遊感を経て、やがて落下を始める。
間もなく地面にぶつかる衝撃に襲われた。
俺は暗闇の中を転がり、しばらくして止まる。
(随分と吹っ飛ばされた気がするが……)
耳鳴りに顔を顰める。
しばらくは、まともに音が聞こえそうになかった。
小さな音は判別できないだろう。
俺は全身の痛みに辟易しながら立ち上がる。
そこは隠れ村の外に位置する荒野だった。
村の外れで起きた爆発で、ここまで吹き飛ばされたらしい。
予想以上に馬鹿げた威力だ。
咄嗟の判断でやってみたが、ここまでの効果とは思わなかった。
(そうだ、ガルスは……)
俺は周囲に視線を巡らせる。
前方に倒れる人影があった。
うつ伏せだが間違いなくガルスだ。
近付こうとしたその時、ガルスの身体から雷が発せられた。
彼はゆっくりとした動きで身体を起こして立ち上がる。
ガルスは満身創痍だった。
全身に傷ができて、大量の血を流している。
顔の半分は焼け焦げている。
片目が潰れていた。
至近距離で爆弾を受けたせいだろう。
当然の怪我である。
ガルスは引き攣った笑みを作る。
目は極大の怒りを湛えていた。
「やってくれたなァ……そんな玩具を持っているとは、思わなかったぜ。おかげで酷い顔になっちまった……」
「安心しろよ。今の方が十分に男前だ」
髪を掻き上げた俺は、雷の使徒に向けて皮肉を口にした。




