第43話 元奴隷は雷の使徒と対決する
ロビンと他の村人達は、リータのもとへ発った。
基地に残された俺は保管された武器を漁って武装を整える。
片手に鉈、腰にはいくつかの爆弾を吊るした状態だ。
戦士を抹殺するだけならば、これだけで十分であった。
足りなければ奪い取ればいい。
俺は生命感知を駆使すると、救うべき者、或いは殺すべき者を探して徘徊を始める。
それからは、ほとんど同じことの繰り返しだった。
残虐の限りを浮くす戦士共を、ひたすら燃やして斬り殺した。
たまに爆弾を使って殺害する。
悲鳴や命乞いも無視し続けた。
エルフを殺すための力を、ヒューマンを相手に振るい続ける。
「…………」
そうして返り血で染まり切った俺は、折れた斧を握りながら進む。
村にいた戦士のほとんどは殺し切った。
あとはもう数えるほどしかない。
村人達だけでも勝てるくらいの人数だった。
無論、一人の例外を考慮しない場合の話ではあるが。
俺は真っ直ぐに村の中を移動する。
唐突に強い力を感知したのだ。
その反応がこの先にいる。
辿り着いたのは、村の端だった。
岩山を背にした位置で、瓦礫に座り込むのはガルスだ。
彼は俺を見て腰を上げる。
「ようやく来たか。待ちくたびれちまったぜ」
「…………」
俺は無言でガルスを睨み付ける。
勝手に踏み出しそうになる脚を、意識的に力を込めて留めた。
そうでもしなければ、走り出しそうだった。
こちらの様子を眺めるガルスは、愉快そうに口元を歪める。
「どうした。何か言いたいことがあるんじゃないかい」
「お前……最初からこうするつもりだったのか?」
俺の問いかけに、ガルスはすぐさま頷いた。
「もちろん。炎の使徒の噂を聞き付けて、はるばるやって来たんだ。その能力を奪うためになァ……」
「知っていたのか」
「直感的な理解だがな。俺以外の使徒に会うのは初めてだが、こういうことは分かる」
使徒にそういった力があるのは知っている。
俺自身、不思議な直感が働くことがあった。
そしてガルスの目的が判明した。
彼はさらなる能力を求めている。
新たな虐殺と蹂躙を生み出すための力だ。
そこに崇高な動機など一つもない。
一連の出来事により、ガルスの本質を垣間見ることができた。
彼はただ殺し回りたいだけなのだ。
そのためには部下も使い捨てにもできる。
戦いそのものに価値を置いていた。
そのような最低な思想を前に、村の皆は犠牲になったのだ。
「炎は強い。お前さんのようなガキには勿体ない能力だ。俺に寄越してくれよ」
「断る。お前は、ここで殺す」
俺は体内の力を高めながら宣告する。
ガルスは怯むことなく笑った。
「ははは、おっかねぇな。本気でやれると思っているのか? そこら辺の死体の仲間入りをさせてやるよ」
挑発が耳に入った瞬間、俺は理性が食い破られる音を聞いた。
炎を吹き出しながら叫ぶ。
「この野郎がァ……ッ!」
「おっ、激昂するか。使徒にとっちゃ基本だな。存分に怒り狂うといい」
「黙れェッ!」
俺は片手から炎を飛ばす。
ガルスは寸前で地面を転がって回避した。
立ち上がった彼は、焦げた地面を見て文句を洩らす。
「危ねぇなおい。当たったらどうすんだ」
「殺す!」
俺は炎の矢を連射し、回避不可能な密度で叩き込んでいく。
ガルスは回り込むように疾走を開始した。
迫る炎の矢を両腕で防御していく。
その際、青白い光が瞬いていた。
おそらくは雷の力で炎を相殺しているのだ。
自身に燃え移らないように工夫していた。
しかし、矢の一本が彼の防御をすり抜けて、ガルスの脇腹を掠めた。
彼は顔を顰めて跳び上がる。
「うぉあっち! やってくれるじゃねぇか!」
ガルスは慌てた調子で脇腹を撫でる。
ほんの僅かに焦げているが、致命傷ではない。
すぐに持ち直したガルスは、俺に向けて腕を突き出した。
その指が弾くように動いて音を鳴らす。
「こっちからも反撃してやる。そらよっ」
ガルスの手先から雷が放たれた。
瞬きの間に、眼前まで到達する。
これは避けることなど不可能だった。
それを理解した俺は、全身から炎を出すと、頭部を抱えるようにして防御態勢を作る。
直後、腹に衝撃が炸裂した。
その衝撃波、全身へと拡散して頭の中を真っ白に染め上げる。
俺は歯を食い縛って耐える。
「ぎぃ……っ!?」
「どうだい、痺れるだろう。使徒の保護がなければ、黒焦げになっていたところだ。おら、まだまだ行くぜッ」
ガルスは軽口を叩きながら雷の連打を浴びせてくる。
俺は炎で必死に防御した。
その中で両手を使って雷を押さえ込み、強引に上空へと受け流そうとする。
雷はだんだんと軌道がずれてゆき、それに合わせて俺の負担も軽減する。
ついには雷を打ち上げることに成功した。
雷は迸る光で夜空を彩る。
それを目撃したガルスは苦笑いを浮かべた。
「おいおい、正気かよ。さすがは炎の使徒といったところか。こいつを凌がれたのは初めてだ」
「……何度でも、弾いてやる。そして、焼き殺す」
俺は焦げた両腕を振りながら笑う。
対するガルスも、獰猛な笑みを披露した。
「ははっ、上等だ。もう少しだけ試してやる」




