第41話 元奴隷は焼き狂う
俺は村を奔走する。
感知に従って、ひたすら駆け回った。
そうしてヒューマンの戦士共を殺し、まだ生きている村人を救う。
戦士達は、やはり卓越した技術を持っていた。
あの手この手で俺を翻弄しようと行動してくる。
しかし、そのすべてが無駄だった。
俺の能力の前では、熟練の戦士もただのヒューマンに成り下がる。
彼らの反撃を許さず、繰り返し燃やして殺していった。
そのたびに村の皆の命は助かる。
「まだ、残っているな……早く、早く……」
俺は夜の隠れ村を徘徊する。
両手にはそれぞれ剣と斧を握っていた。
どちらも戦士達から奪ったものだ。
先ほどから武器を使い潰しながら戦っている。
高熱で燃えてしまうか、俺の膂力に耐え切れずに壊れてしまうためだ。
それでも無いよりはましであった。
(奴が見当たらないな……)
俺は周囲に油断なく視線をやる。
探しているのはガルスだ。
あの男が、生命感知に引っかからないのである。
いや、正確には引っかかっているのだろう。
他の戦士達との区別が付かないのだ。
おかげで居場所を特定できない。
ガルスは使徒としての経歴が長い。
おそらく力を抑制して、気配を周りに馴染ませる術を習得している。
初めて会った時も、ガルスが使徒であると分からなかった。
雷を目にして初めてそうだと分かった。
現在は隠密状態で、彼がどこにいるのか不明だった。
たぶん俺の行動を監視しているのだろう。
向こうからはしっかりと感知できているに違いない。
俺はこの村における最強の戦力だ。
彼からしても、敵対する使徒は無視できない存在のはずだった。
(ガルスの目的は何だ……?)
俺は遭遇した戦士を殺しながら考える。
炎の使徒である俺に用件があるのは確実だった。
ガルスはわざわざ隠れ村で俺の帰還を待ち、そして寝込みを狙って虐殺を開始した。
こうして俺が走り回っているのも、彼の中では想定の範囲なのだろう。
狡猾な性格で、戦い慣れた雰囲気だった。
策略に関しても、俺の何倍も優れているに違いない。
そういった方面は、ずっと村長のロビンに任せきりだった。
今更ながらも後悔する。
嫌がらずにもっと勉強しておけば、この状況を打破する手がかりになったかもしれない。
ただ、ここで悔いても意味がない。
どれだけ嘆いたところで、今持っている武器で戦わねばならないのだから。
そうして俺が辿り着いたのは、村の中央部だった。
そびえ立つ基地は、木の柵で防衛を行っている。
包囲するのは戦士達だ。
彼は下卑た笑みを浮かべて、木の柵を破壊しようとしている。
中にいる村人達は、槍で対抗していた。
放たれた刺突は、しかし戦士達に受け流されている。
「あ……っ」
俺が駆け付けた時、村人の一人が外に引きずり出された。
その村人は、袋叩きにされた末に剣で斬り殺される。
だらりと倒れる死体と目が合った。
一部始終を目にした俺は、頭が真っ赤になる感覚に陥った。
もう我慢の限界だった。
歯を割れんばかりに食い縛り、戦士達に向けて叫ぶ。
「クソが! 殺してやるッ!」
戦士達がこちらを向くも、なぜか逃げない。
数人の手には、松明が握られていた。
彼らは、嬉しそうにそれを放り投げる。
松明の落下する先には、木の柵と基地があった。
瞬く間に火が移り、室内から悲鳴が上がる。
立派な佇まいの基地が、徐々に燃えて崩れていく。
戦士達は喝采を上げた。
対する俺は、狂いそうな怒りを感じる。
目から熱い何かが流れ落ちた。
見なくても分かる。
それはきっと真っ赤な血液だった。
「この野郎ォ……ッ」
殺戮衝動に駆られながらも、俺には僅かながらも理性が残っていた。
おかげで、次にどうすべきかを直感的に悟る。
「ううおおおおおおおおおッ!」
俺は戦士達へと突進していく。
その途中、使徒としての力を発動し、柵と基地に燃え広がる炎を支配する。
「――死にやがれ」
制御可能となった炎を空中に持ち上げると、そのまま戦士達に叩き付けた。
戦士達は、途端に恐慌状態に陥る。
彼らは炎を浴びて苦しみながら倒れていった。
逃げようとする者も、炎に絡め取られて転倒する。
俺はそこに跳びかかって剣と斧を振るう。
戦士達の焦げた首が宙を舞った。
刃の切っ先が彼らの心臓を貫き、引き抜くと同時に血飛沫を上げさせる。
俺は血みどろになりながらも暴れ狂った。
やがて、その場の戦士を一人も逃がさずに殲滅する。
「はぁ、はぁ……」
辺りには焼死体と、斬り飛ばされた人体の一部が散乱していた。
俺は生命感知を使用する。
付近に敵はいない。
ひとまず安全となったようだ。
基地内にはまだ生き残りがいる。
早い段階で火を移したため、被害が少なくて済んだのだ。
とにかく、彼らの救助が最優先だ。
敵をどれだけ殺そうと、皆が生きていなくては意味がない。
俺は半壊した武器を捨てると、ふらつきながらも基地内へ入った。




