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第4話 元奴隷は村を開拓する

 間もなく村人達が駆け寄ってきた。

 彼らは竜の死骸を見ると、目を丸くして驚く。


「ほ、本物の竜だ……」


「すごいじゃねぇか! これだけあれば飢えずに暮らせるぞ!」


「やった! さすがアレクだぜ!」


 彼らは笑顔で喜んでいた。

 この隠れ村では、肉が貴重なのだ。

 竜肉など宝石以上の価値がある。

 加工すれば長期保存も可能だ。

 それが大量に手に入ったのだから、これだけ盛り上がるのも仕方ない。


 季節も冬に近付いてきた。

 この地域は寒さが特に深刻で、雪も容赦なく降り積もる。

 今のうちに食糧を増やしておかなければ、辛い日々を送ることになるだろう。


 幸いなのは凍死する心配がほとんどないことだろうか。

 寒くなったら炎を使うだけだ。

 それで皆を温められるし、温かい食事ができる。

 この能力は本当に便利であった。


 俺は竜と荷馬車を空き地に運び込む。

 それを村人達に丸投げした。

 荷物の仕分けや、竜肉の切り分けは彼らに任せる。


 俺は不器用で頭が悪い。

 そういった仕事は、他の者の方が得意なのだ。

 下手に手伝おうとしても、邪魔するだけになってしまう。


 物事は役割分担で成立する。

 以前、リータに教えられた言葉だ。

 得意なことは積極的に引き受けて、苦手なことは誰かに頼めばいい。

 本当にその通りだと思った。


 俺とリータは村の中を歩いて移動する。

 ここに暮らすのは、ほとんどがヒューマンだった。

 一部、他の種族も混ざっている。

 ドワーフや獣人達である。


 俺はこの二年で様々な地域のエルフを襲撃した。

 彼らはそこで解放した奴隷のうち、俺に同行すると決めた者である。


 始めの頃は、種族的な衝突もあったが、最近ではそういったこともない。

 厳しい生活の中で、種族の垣根を越えて仲良くなったのだ。

 今ではある程度の余裕もできて、誰もがのびのびと生活している。


 俺はこの村の在り方が好きだった。

 エルフの支配下だった頃では考えもしなかった光景である。

 誰もが皆のために働いて、笑い合える。


 決して裕福とは言い難く、まだまだ足りないものがたくさんある。

 それでも乗り切ることができるのは、幸せを感じているからだろう。


 手ぶらになった俺は、よく整えられた畑の間を進む。

 元は荒れ地だった場所を、皆で丹念に耕したのだった。

 今では貴重な食糧源となっている。


 村の中央に赴くと、そこには大きな木造の建物があった。

 三階建てで、他の家屋に比べても造りがしっかりとしている。

 ここは隠れ村における軍用基地だった。

 小規模だが、資料や武器を貯蔵している。

 重要な会議等もここで行うようにしていた。


「眠くなっちゃったから、少し休んでくるわね。」


「ああ、分かった」


 欠伸をするリータと別れ、俺は基地内の会議室へ向かう。

 雑多な室内にて、机に広げた地図に目を向けた。

 色別に区分けされた上に木製の駒がいくつも置かれている。


 俺はそれらを参照にしながら思考を巡らせる。


(次はどこに攻め込もうか)


 世界は広い。

 俺達が把握できている範囲でも、大半がエルフの支配地だった。

 地図として見ると、その事実を改めて突き付けられる。

 この中を俺達は戦っていかねばならなかった。


 とは言え、それほど絶望はしていない。

 エルフは世界の支配種だが、勢力単位で捉えると一枚岩ではないためだ。

 世界の各地にはエルフの王がおり、彼らはそれぞれ領土を治めている。

 一方で王同士の小競り合いは頻繁に起きていた。


 そのため俺達が介入するだけの隙があった。

 動き方次第ではどうとでもなる。

 実際、この二年間は上手く翻弄できていた。


 敵対種族がいなくなったエルフは、同胞で争っている。

 一見すると愚かなことだが、リータによるとかつて他の種族も同じような調子だったらしい。

 各地をそれぞれの王が統治して、時に戦うことで領地を広げて繁栄してきたのだという。

 その果てに辿り着いたのが、エルフという単一種族の勝利なのだそうだ。


 元奴隷である俺達は、その世界で一つの勢力になりたいと考えている。

 現在、森ではなくなったこの荒野が支配地域だ。

 エルフは俺達の大まかな居場所を突き止めているだろう。

 しかし、彼らは決して侵攻してこない。

 なぜならば、甚大な被害が予想されるからである。


 こちらの陣営には、炎の使徒――彼らの呼び方を借りるのなら炎の魔人がいる。

 炎の女神の加護を起源とする力は、エルフ達にとって最悪の相性なのだ。

 基本的にどのような魔術でも対抗できず、とにかく俺を消耗させるしか手段がない。

 その間に被害は膨らむ一方となる。


 エルフ達にとって避けたいのは、俺との戦いで弱ったところを、他の王に攻撃される展開だろう。

 彼らは自らの領地を守り抜けなくなる。

 邪魔なヒューマンの殺害よりも優先しなければならない事項だった。


 第一、俺達を殺してもエルフ達の旨みは僅かである。

 不毛の荒野を支配する意味もなく、ただ純粋に死傷者が出るだけだ。


 そういった事情もあり、エルフにとって俺達は間違いなく目障りなのだが、軽率に攻め込めない状況が生み出されていた。

 この隠れ村は、危うい均衡の中で平穏な暮らしを営んでいる。

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