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第39話 元奴隷は惨劇に見舞われる

 リータとの会話で心が落ち着き、ようやく眠気がやってきた頃、家の外から物音がした。

 それは何かが倒れるような音だった。

 重ねて誰かの悲鳴のような声が混ざる。

 さらに下卑た笑い声も聞こえてきた。

 その連鎖が繰り返され、村はあっという間に騒がしくなる。


(何だ……?)


 ベッドから起き上がった俺は、炎による感知を発動した。

 あちこちを村人達が逃げ回っており、そして連続して死んでいる。


 彼らを追いかけるのは、ガルス率いる戦士集団だ。

 戦士集団は隠れ村を包囲している。

 逃げ道を無くした状態で皆の命を奪っているのである。


「――嘘、だろ」


 俺は呆然と呟く。

 吐き気が込み上げてきて、堪らずその場に床に吐いた。

 しばらく動くこともできず、何度も咳き込む。

 喉が酸っぱくて痛い。

 涙が出て目も眩んでくる。


 そうしている間にも、村人達は次々と殺されていた。

 動かねばならないと分かっている。

 しかし、身体が動かない。

 なぜか分かっている。

 既に多大なる犠牲が出たことで、心が折れかけているのだ。

 怒りより深い絶望が、俺の心を満たしていた。


 動けない俺の横では、リータが肩をすくめていた。

 彼女は軽い口調でぼやく。


「あーあ、最悪の展開ね。これじゃあ村は――」


 俺は反射的にリータの首を掴むと、壁に叩き付けた。

 凄まじい音と共に、壁に亀裂が走る。

 リータは顔を顰めた。


「何をするの。痛いわ」


「こうなると分かって、奴らを招き入れたのかッ!」


「そんなわけないでしょ。私だって村を守るつもりだったわ。その結果、こうなっちゃっただけよ。本当に悪気はないから」


 リータは冷静に語る。

 嘘を言っている様子はない。

 だが彼女の態度を許せるほど、俺は寛容ではなかった。


 前々から知っているが、リータにとってヒューマンの運命など興味に値するものではないのだ。

 命についても同様である。

 守るつもりになってそれが失敗しても、ほとんど気にしていなかった。

 興味がないものが壊れたところで、心が痛まないのだ。


 相手は女神だ。

 超常の存在である。

 こちらと同じように物事を捉えていなかった。

 それをここでよく理解した。


「この手を放して。アレク、あなたは私を殺したいの?」


「……くっ」


 毅然と言うリータを前に、俺は彼女の首から手を放す。

 沸き上がる衝動のまま、ベッドを蹴り飛ばした。


「畜生がッ!」


 真っ二つに折れたベッドは、壁を突き破って炎上した。

 飛び出したベッドに驚いて動きを止める影が見える。

 それは戦士集団の男達だった。

 血染めの槍や剣を持つ彼らは、こちらを見て驚いたような顔をする。

 そして即座に逃亡した。

 彼らは遮蔽物を利用しながら姿を消す。

 こちらの炎を警戒した動きだった。

 立ち回りからして、徹底的に対策を練っているようである。


「う、ぐぅ……」


 激情で視界が真っ赤になる。

 俺は全身から炎を散らしながら前へと進んだ。

 壁を乗り越えようとした時、後ろからリータが尋ねてくる。


「行ってくるの?」


「当たり前だ。皆を見殺しになんてできるか!」


「あの使徒、強いわよ。あなたが勝てるかは怪しいと思うけど」


「――何が何でも焼き殺す。奴の首を村に飾ってやる」


 俺は宣言する。

 リータに八つ当たりしている場合ではなかった。

 この突然の殺戮の元凶を殺さねば。

 それがこの場における最善策だった。


「皆をここに匿ってくれ。頼む」


「……いいわ。任せられてあげる」


「助かる」


 極大の復讐心を抱えながら、俺は夜闇に飛び込んでいった。

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