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反逆奴隷の炎使い ~それでも俺はエルフの森を焼き続ける~  作者: 結城 からく


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35/50

第35話 元奴隷は新たな勢力と邂逅する

 その集団は武装していた。

 革の外套を着込み、腰には剣や槍を吊るしている。

 その佇まいからは、歴戦の雰囲気が感じられた。

 たくさんの命を奪ってきた者のそれだ。

 俺にはしっかりと伝わってくる。


 この村にも戦い慣れた者はいるが、比べ物にならないだろう。

 たくさんのエルフを殺してきた俺でも、純粋な技量では敵わないに違いない。

 彼らの纏う空気感だけで、それを直感させられた。


 その時、集団のうちの一人が、こちらを向いた。

 そして野太い声をかけてくる。


「おう、お前さんが炎の使徒か」


 発言したのは、屈強な体躯の大男だ。

 膨れ上がった筋肉と禿げ頭が特徴で、頬には抉れたような古傷があった。

 おそらく刃物が食い込んだのだろう。


 大男は俺の前まで来ると、親しげに話を続けた。


「噂は聞いてるぜ。エルフを焼き殺しているんだってな。さすがじゃねぇか」


「何者だ」


 俺は警戒しながら問いかける。


 村の様子からして、あまり切迫した状況でないのは確認している。

 しかし、まだ相手の正体が不明だ。

 いくら友好的な態度だからと言って、気を抜くべきではない。


 俺からの質問を受けて、大男は自らの頭頂部を叩いて鳴らした。


「おっと、すまんな。挨拶を忘れていた。俺の名はガルス。それで後ろの連中は部下。俺達は各地を放浪する民だ。ヒューマン解放のために旅をしている」


「ヒューマン解放……?」


 大男ガルスの自己紹介を聞いた俺は、彼の言葉を反芻する。

 ガルスは嬉しそうに頷いた。


「ああ、そうだ。世界はエルフの奴らに支配しているが、おかしいだろう。なぜその他の種族が奴隷にされなければならないんだ」


 彼の主張は、俺の考えと同一だった。

 肉処理場で殺されかけたあの時から、ずっと胸に抱いていた疑問である。

 その理不尽を否定したかった俺は、炎の使徒となった。

 あれから現在に至るまで、エルフ達と戦い続けている。


「俺達は世界の常識を打ち砕くために行動している。村長さんとはもう話したが、お前さんも同じ考えなんだろう?」


「……確かに同じだな」


 俺が首肯すると、ガルスは大笑いした。


「はっはっは! そいつは最高だな! いつだって同志に会えるのは嬉しいんだ」


 彼は俺の背中を何度も叩いてくる。

 かなり力が強い。

 まるで丸太で殴られているかのような衝撃だった。

 もし使徒でなければ、骨の一本や二本は折れているのではないだろうか。

 思わず疑ってしまうほどの強さである。


(それにしても、まさか俺と同じ活動をする集団がいるとは……)


 俺はガルスとその仲間達を見て感心する。

 今まで隠れ村を率いて戦ってきたが、他にエルフに対抗する集団を見たことがなかった。

 つい最近になって発足したという感じではない。

 おそらく遠く離れた場所におり、はるばるこの地域へやってきたのだろう。


 やがて落ち着いたガルスは話題を転換する。


「俺達がこの村に来たのは昨日のことだが、明日の朝には出発するつもりだ。お前さん達の生活の邪魔はしない。すぐに立ち去るよ」


 それを聞いて、俺は密かに安堵した。

 いくら同じ志と言っても、所詮は余所者である。

 あまり長居されると、村人達との間で問題が起きる恐れもあった。


 しかも彼らは戦い慣れている。

 味方なら頼もしいが、今のところは信用できる段階ではなかった。


 そのような考えを隠しつつ、俺はガルスに質問する。


「どこへ行くつもりなんだ」


「エルフの住処に赴いて抗議をする。断られたらそれまでだが、精一杯の言葉ならきっと通じると思う」


「無理だ。エルフ達が納得するはずがない。殺されるぞ」


 俺は即答した。

 この男は、果たして本気で言っているのだろうか。

 エルフは抗議が通じるような相手ではない。

 返事の代わりに魔術か矢が飛んでくる。

 話し合いなどできるわけがない。

 俺がエルフの王と対話できたのは、あくまでも風の使徒という共通の敵がいたからだった。


 そこでガルスは、意味深な笑みを浮かべてみせる。


「心配するな。俺達にも策はある――ところで、俺を見て気付くことはないか?」


「特に無いが……」


「なるほど、感知が苦手なのか。それならもう少しだけ隠蔽を薄くしよう」


 ガルスは両拳を固めると、全身に力を込める。

 すると、彼の身体が光を明滅させ始めた。

 何かが破裂するような音も連発し、内包された力が一気に膨らんでいく。

 その勢いは衰えを知らず、無尽蔵に増大していった。


 上空の雲が渦巻き、月明かりを遮った。

 村のあちこちからざわめく声が上がる中、俺は驚愕する。


「な……ッ!?」


「さすがに伝わったようだな。これが俺達の策だ」


 ガルスは不敵に笑う。

 そんな彼は、青白い雷を全身に纏っていた。

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