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第34話 元奴隷は隠れ村に辿り着く

(落ち着け。慌てるべきではない)


 俺は自分自身に何度も言い聞かせる。

 そうでもしなければ、今にも飛び出してしまいそうだった。

 先ほどから鼓動がうるさくて煩わしい。

 握り潰して止めたい衝動に駆られるほどであった。


 知らない反応が隠れ村にいるなど、今まで起きなかったことだ。

 一体何があったのか。

 能力で確認したというのも、未だに信じられない。


 幸いなのは、他の皆がまだ村にいる点だろう。

 リータの反応もしっかりと存在している。

 殺されたり、略奪を受けたわけではないようだ。

 そのことに俺は安堵する。


 しかし、まだ決して油断はできない。

 相手の素性は依然として不明だ。

 何のために隠れ村にいるか分からない。

 もしかすると、村の皆を人質にしているという可能性もあった。

 だからここは冷静になるべきだ。


 後ろの馬車に乗る襲撃部隊の皆は、疲労困憊といった有様だった。

 とても戦える状態ではない。

 無理をさせると、傷が開いてしまうだろう。

 つまりまともに動けるのは俺だけだった。


(くそ、どうするべきなんだ……)


 馬車を曳く俺は、歯噛みしながら判断を迷う。

 状況が把握できていない今、何が最適解なのか分からなかった。

 偵察に向かうにしても、炎の使徒である俺は隠密行動を不得手とする。

 きっとすぐに見つかってしまうだろう。


 何より襲撃部隊の皆を放置することなんてできない。

 だからと言って、状況が不明である隠れ村に連れていっていいのかと言えば微妙だ。

 あまり好ましくないのは確かである。


 もっとも、ここで立ち止まって時間経過を待つのは論外だろう。

 何にしても、隠れ村の状態は絶対に知っておくべきである。


 様々な可能性を考えた結果、俺はこのまま隠れ村へ入ることにした。

 馬車の皆も一緒に連れて行く。

 結局はこれしかない。

 何かあった際は、俺が全力で守ってみせよう。


 エルフの住処に滞在する間、俺は風の能力を扱う練習を行っていた。

 それによって他人を守ることも多少はできるようになっている。

 少なくとも遠距離から矢を射られるような状況なら、全員を無傷で守り切れるだろう。


 風の能力は、炎では対処できなかった攻撃にも有効だ。

 万が一の時は練習の成果を信じるしかない。


 無論、戦いに突入しないのが一番だ。

 穏便に済ませていきたい。

 まずは村に残る皆の安否を確認し、そして見知らぬ反応達の正体を突き止める。

 それからどうするのかは、状況に応じて考える。


 決心をした俺は、以降は迷いのない歩みで進む。

 速度を崩さずに歩き続け、やがて岩山に到着した。

 決まった道のりで乗り越えて、村に続く地帯を上がっていく。


 すると前方に見慣れた男の姿があった。

 それは村長のロビンだった。

 彼は手を振りながら駆け寄ってくる。


「アレク!」


 ロビンは俺の前で立ち止まると、安堵した様子で微笑む。


「おかえり。よく帰って来てくれた。風の使徒は倒せたのかい?」


「ああ、殺した。だけど、仲間が何人か……」


 脳裏を死んでいった者達の顔が過ぎる。

 痛みを伴う記憶だ。

 俺の選択の過ちが起こした犠牲である。

 自然と気分が落ち込んでくる。


 そんな俺の肩に、ロビンは手を置いた。

 いつもの彼からは想像もつかないほどの力強さだった。

 ロビンは断固とした口調で述べる。


「悲しいのは分かる。悔やむのも仕方ない。でも君はやり切ったんだ。仲間として誇りに思うよ」


 ロビンは俺に語りかける。

 その目には涙が滲んでいた。

 ただの慰めではない。

 本気で言っているのだ。


 彼が村長で本当に良かった。

 犠牲が出たことを悲しみながらも、目的を果たせたことを喜んでいる。

 ただ悲観するだけの男ではない。

 後ろ向きな考えに浸る俺より、よほど人格者だった。


 目元で拭ったロビンは、気持ちを切り替えて話題を転換する。

 彼は少し抑え気味の声で俺に囁いた。


「それともう気付いているだろうが、村に来客だ。帰ってきたばかりで悪いけど、君にも会ってほしい」


 やはり知らない反応はここにいる。

 ただ、ロビンが自由に行動できていることを考えると、事態はあまり切迫していないようだ。

 彼の表情は、少し困惑している程度である。

 あまり悪い出来事ではないのかもしれない。


「俺も相手の顔を見たいと思っていたところだ。会いに行こう」


「案内するよ」


 俺はロビンの先導に従って移動し、隠れ村の内部へと至る。

 基本的には見慣れた光景だった。

 皆が相変わらず畑仕事を行っている。


 しかしその中央部には、大型の馬車と人だかりがあった。

 俺は足を止めて注視する。

 そこに集まるのは、見慣れない風貌をしたヒューマンの集団だった。

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