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反逆奴隷の炎使い ~それでも俺はエルフの森を焼き続ける~  作者: 結城 からく


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第33話 元奴隷は故郷に帰る

 二日後、俺は襲撃部隊の皆と共にエルフの住処を出発した。

 このような場所はすぐにでも出て行きたかった。

 出発に間を開けたのは、負傷した皆の回復を待った結果である。

 瀕死だった状態から長時間の移動は厳しいだろう。


 それでもたった二日である。

 ほとんどの者が、傷を耐えながら辛うじて行動できる程度だった。

 決して無理はさせられない容態だ。


 俺はエルフ達から大型の馬車を拝借し、そこに皆を載せて運ぶことにした。

 これなら皆の負担を減らすことができる。

 揺れが大きいので怪我に響くが、それだけは我慢してもらうしかない。


 彼らからも、早くこの地を離れたいと言われたのだ。

 故郷とも言える隠れ村に帰りたいのだろう。

 襲撃部隊の間で意見は一致していた。


 大勢のエルフ達が俺達の見送りに来た。

 いや、厳密には見送りなどではない。

 彼らは遠巻きにこちらを無言で睨んでいるのだから。

 そこに別れを惜しむ感情など微塵もなかった。


 誰もが俺達に憎悪を抱いている。

 今にも魔術を使いそうな者も少なくなかった。

 しかし、そういった者は周りに止められていた。


 おそらく俺達を攻撃するなとエルフの王から命令が下されているのだろう。

 彼らは高い忠誠心を持っている。

 だから王の命令に背くことはない。

 感情に負けそうになっても、なんとか堪えてみせる。


 それを抜きにしても、不用意に魔術を放つのは論外だった。

 言うまでもなく、俺からの反撃があるからだ。


 エルフ達の間でも、俺が風の力を得たことは広まっている。

 暗殺時、生き残ったエルフ達が証言したのだ。

 別に隠したいことでもないから別にいい。


 エルフ達の向けてくる目が、とても複雑な感情を覗かせていた。

 崇拝する風の神の加護を、炎の使徒であるヒューマンが奪い去ったのだ。

 心情的に許せないことに違いない。

 可能ならば俺を袋叩きにして嬲り殺しにしたいだろう。


 しかし、現実にそれは不可能である。

 俺が彼らを凌駕するほどの暴力を有しているからだ。

 エルフ達は、歯痒い思いで見送らねばならない。

 こちらからすれば、ざまあみろといった気分だった。


 俺は馬車を曳きながら森を出る。

 少し振り向くと、襲撃部隊の皆は横になって沈黙していた。

 たまに水を飲んで空を眺めている。

 傷と疲労感が深刻そうだが、死にそうな者はいない。

 それが幸いだった。


(もう誰も、死なせたくない……)


 今回、こうして付いてきてくれた皆には感謝している。

 だがしかし、犠牲者が出るのはやはり辛い。

 これから同じようなことがあったら、俺一人で片付けるべきではないか。

 そう思ってしまう。


 今回の戦いで、俺はさらなる能力を得た。

 事前にしっかりと計画を立てれば、同行者など不要かもしれない。

 俺が俺の判断で傷付くのは構わないが、仲間がいなくなっていくのは心が痛む。


(俺だけですべて問題を解決できるほどの力があれば……)


 二年前からそうだ。

 いつでも力を求めている。

 きっとこれからもそうなのだろう。


 俺が暴力という手段しか知らない。

 それが最適解だと思っている。

 力だけで押し進めれば、いずれどこかで破綻する。

 なんとなくそれを察しているから、徐々に変えていきたかった。

 その努力ができずにいる自分に嫌悪感を抱いてしまう。


 理想と現実はどちらも大切だ。

 俺はそれらを時と場合に応じて選び取らねばならない。

 他者を圧倒するだけの力は必須だが、それ以外の解決方法も求められてくる。


 俺は成長していくのだ。

 歴代の炎の使徒のように、道半ばで死ぬわけにはいかない。

 必ず世界に変革をもたらしてみせる。

 エルフが一強として支配する流れを正すのだ。


 そのために何ができるのかを模索しなくてはいけない。

 俺は難しいことを考えるのが苦手だ。

 だから村の皆の知恵を借りて、答えを探していく。

 一人では叶えられないことでも、大勢で協力すればきっと実現できるはずだ。

 確かな希望を予感しながら、俺は馬車を曳き続ける。


 そうして荒野に夜が訪れた。

 遠くに岩山が見える。

 隠れ村がある地点だった。

 俺は安堵しかけて眉を寄せる。


「……ん?」


 炎の能力で生命感知を行った。

 どくん、と自分の心臓が跳ねる音がする。


(何だ、これは?)


 俺は動揺する。

 しかし、それを隠して足を動かし続ける。

 馬車に乗る皆に悟らせてはいけない。

 余計な不安を煽るだけだ。


 もう一度、念入りに生命感知を行うも、結果はやはり同じだった。

 俺は静かに深呼吸をして、平静を保つ。

 そして感じ取った事実を見つめ直す。


 ――隠れ村には、知らない反応がいくつも存在していた。

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