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第24話 元奴隷は風の使徒と再戦する

 俺は近くにいた味方を掴んで引き倒す。

 さらに押し退けながら前へと駆け出していった。


 エルフ達は風魔術で加速し、横に飛び退いて攻撃を回避する。

 何人かが避け切れていないが、その詳細を確かめている余裕は無かった。


(強引だがやるしかない)


 俺は炎の力を解放すると、片腕に圧縮させる。

 そして拳を固めて、風の刃に叩き込んだ。


 直後、片手の皮膚と肉の裂ける痛みが走る。

 軌道のずれた風の刃は、斜め上へと向かってゆき、木々を切断しながら空へと消えていった。

 なんとか打ち上げることに成功したようである。


 俺は手の傷を確かめてから緑髪を睨み付ける。

 木々に隠れて全身が見えないが、術を撃った腕は火傷痕に覆い尽くされていた。

 俺から受けた傷はまだ癒えていないようだ。 


(小癪な女だ……)


 おそらく気配を隠蔽して接近してきたのだろう。

 風魔術に使徒の力が加わったことで、こちらが気付かないほどの隠密能力を発揮したのだ。

 結果、この距離まで気付けなかった。


 前方では、生き残った奴隷達が驚きと恐怖で騒いでいる。

 右往左往しながらこの場から逃げようとしていた。

 その向こうに潜む緑髪は、姿を見せないようにしながら風の刃を連射する。

 軌道上の奴隷を解体しながら、刃はこちらへと迫ってきた。


 俺は炎の出力を引き上げる。

 両腕に纏うと、不可視の刃を殴っていった。

 そうして向こうの攻撃を逸らし、背後の仲間達を守る。


 風の刃を弾くたびに、両手に細かい傷が増えていった。

 僅かに肉が裂けている。

 たまに弾き損ねた分が胴体に命中した。

 しかし、それらは誤差の範囲に過ぎない。

 この程度では死なないと直感している。

 俺の身体なのだから、どのような具合なのかは分かっていた。


「…………」


 緑髪の猛攻を凌ぎつつ、俺は背後を確認する。

 襲撃部隊の皆は、既に散開していた。

 彼らは木々を盾にして前進し、緑髪を襲うための位置を探っている。

 それが成功するか否かは関係ない。

 どちらにしても、緑髪の注意を割くには十分な効果がある。

 その隙を俺が突けばいい話だ。


 すぐそばで魔術が発動した。

 エルフ達が水や風の魔術を行使し、或いは得意の矢を放つ。

 しかし、それらは緑髪に命中する寸前で弾かれた。

 風魔術に至っては、跳ね返って俺に命中する。


(やはりエルフの魔術は通用しないか……)


 相性が極端に悪いのだ。

 向こうの力は完全な上位互換である。

 エルフ達では敵わないというのも納得だった。

 いくら数を揃えたとしても、これでは絶対に勝てない。


 しかし、今回は違う。

 炎の使徒である俺がいるのだ。

 純粋な力の強さでは、俺が圧倒している。

 技では負けているものの、そこは気合を押し通してやろう。


(住処を捜索して暗殺するつもりが、向こうから姿を現してくれたんだ。やってやるさ)


 付近に敵のエルフはいない様子だった。

 さらに遠くから駆け付けようとしているが、まだ時間がかかる。

 この上なく好都合だった。


 よほど俺のことが憎く、一人で慌ててやってきたのだろう。

 復讐してくるとは思っていたが、ここまで大胆かつ短絡的に仕掛けてくるとは予想外である。

 それだけ身体と心に負った傷が大きかったに違いない。


 だがしかし、憎しみを覚えているのはこちらも同じことだ。

 彼女は俺達の隠れ村を襲撃しようとした。

 敵であることに間違いはない。

 同情はできなかった。


 俺は炎を全開にして身体を包み込むと、地面を蹴って突進する。

 その最中、炎の矢を飛ばした。

 矢は樹木を貫通し、緑髪はそこから飛び出す。


 彼女の顔は、仮面で覆われて見えないようになっていた。

 質感からして石だろうか。

 奇しくも俺の着けた仮面と似た形状をしている。


 緑髪が風の刃を連射した。

 俺は身を屈めて回避していく。

 背中や髪を切り裂かれた気がしたが、大した痛みはなかった。


「はあっ!」


 俺は両手から炎を放ち、前方一帯を燃やし尽くすように拡大する。

 緑髪は跳躍し、木々の上を跳ねながら回避していった。


(何……っ)


 俺は彼女の動きに驚く。

 風魔術の応用であるのは分かるが、以前に戦った時より動きが洗練されている。

 彼女の復讐心が成長を促したのだろうか。


 俺は炎で飛行で追跡して、一気に距離を詰めていく。


 緑髪は一瞬の溜めを挟み、轟音を立てて風を飛ばしてきた。

 もはや刃という規模ではない。

 滅茶苦茶に渦を巻くそれは、枝や葉を粉々にしながら迫る。


 対する俺は、心の内の激情を燃料に炎を膨らませた。

 際限なく上がり続ける熱を右手の指先に集め、突きの形で打ち放つ。

 極限まで高められた炎は、一本の赤い線となって緑髪の風と衝突する。


 ――次の瞬間、目も眩むような大爆発が周囲に炸裂した。

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