表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/50

第16話 元奴隷はエルフの住処に立ち入る

 ほどなくしてエルフの住処に到着した。

 そんな俺達を迎えたのは、無数の殺気だった。


(これは……)


 幾人ものエルフ達が、俺達を取り囲むようにして集結している。

 彼らは携帯する武器を向けてきていた。

 樹木の上に隠れている者もいる。

 少なく見積もっても、数十人のエルフが俺達を待ち構えていた。


(なかなかの歓迎だな)


 感心する俺は、エルフ達の動きに注目する。

 何かの拍子に攻撃を仕掛けてきそうだった。

 憎悪が空気に滲んでいる。

 よほど俺達を殺したいらしい。

 その気持ちだけはしっかりと伝わってくる。

 とても気を抜ける状況ではない。


 中央に立つエルフの老人が、前に進み出てきた。

 白髭を蓄えたそのエルフは、枯れた声でこちらに告げる。


「そこで止まれ。誰も動くな」


 俺達に同行するエルフ達は黙っている。

 この様子からして、老人はそれなりの地位にいるらしい。

 向こうのエルフ達も一目置いているような気がした。

 その老人は、エルフの隊長を睨み付ける。


「……これは一体どういうことだ。説明しろ」


 命令を受けた隊長は、淡々と経緯を話す。

 俺達と遭遇してから共に行動するまでの流れだった。

 それを聞いた老人は、深々と唸る。


「なるほど。偶然出会った末、使徒暗殺の協定まで結んだとは……」


「あの状況ではそうするしかなかった。俺達全員に焼き殺されろとでも言うのか?」


「ぬぅ……」


 隊長の反論に、老人は苦々しい顔になる。

 住処にヒューマンが来たことを煩わしく思っているようだが、こうするしかなかったと理解している。

 だから隊長にそれ以上の叱責が与えられない。

 次に老人は俺のことを見てきた。


「炎の使徒。ここまでの話に異論はあるか?」


「特にない。その男の言った通りだ」


 俺は正直に答える。

 隊長の話には、変に印象を操作する表現もなかった。

 ありのままの事実を語っていた。

 その辺りはとても誠実だった。


 老人はしばらく黙り込む。

 やがて彼は踵を返した。


「――そうか。では付いてこい」


 老人の言動から察するに、ひとまず住処に立ち入ることは認められたらしい。

 いきなり殺し合いが始まるような事態は避けられたというわけだ。

 その証拠に、俺達を包囲していたエルフが殺気を解いて散開していく。

 あっという間に場からいなくなってしまった。

 老人が俺達に付いてこいと言った以上、手出しはできないということなのだろう。

 上下関係は徹底されているようだった。


 残された俺は、老人の背中を追いかける。

 襲撃部隊もそれに追従してきた。

 振り向いて確認したところ、彼らは落ち着きがない。

 一連の状況に緊張しているようだった。


 隊長を始めとする同行してきたエルフ達は、どこかへと立ち去った。

 彼らには彼らの仕事があるのだろう。

 住処に着いた時点で、俺達に同行する役目が解けたらしい。


 前を進む老人のそばには、数人のエルフがいた。

 おそらく護衛担当に違いない。

 こうして背中を見ているだけで、相当な実力者だと分かる。


 俺が突然暴れ出した時、殺戮を阻止できるようにいるのだろう。

 さすがに負けないと思うが、気を抜けば致命傷を受ける予感があった。

 少なくとも襲撃部隊を守りながら戦える相手でないのは確かだ。


(使徒以外の敵も油断できないというわけか)


 老人が向かった先は、木造の大きな家屋だった。

 やや古びているが、隠れ村の建物より立派な外観である。


「空き家だ。僅かな間だろうが好きに使え。食糧は勝手に調達しろ。過剰な量でない限り、森の恵みを採ることも許す」



 老人は口早に説明する。

 俺達と話したくないという態度があからさまに出ていた。

 こちらも同じ気持ちなのでそれを批難するつもりはない。


 その時、老人が俺の目の前に歩んできた。

 彼はじっと睨み上げてくる。


「くれぐれも我らの居住区には近付くな。射殺されても文句は言えないと思え」


「陰湿な嫌がらせを受けたら、こちらも命の保証はできない。他のエルフ達にも伝えておいてくれ」


「何、を……ッ」


 俺の返しに老人が歯噛みする。

 護衛のエルフ達も鋭い殺気を帯びていた。

 だから俺は、畳みかけるように言葉を重ねる。


「当然だろう。俺達は対等な立場だ。まさか奴隷のままだと思っているのか」


「…………」


「ここで争いたくないのはお互い様だ。そうだろう?」


「ぐ、ぐぅ……」


 激昂する老人だが、なんとか怒気を抑える。

 彼は舌打ちでもしそうな顔で頷いた。


「……そう、だな。他の者達にも、ここへは近付かないように厳命する」


「すまないな。感謝するよ」


 俺は満足して言う。

 とりあえず互いの立場を知らしめることができた。

 最初なのだからこれくらいで上出来だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ