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反逆奴隷の炎使い ~それでも俺はエルフの森を焼き続ける~  作者: 結城 からく


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第15話 元奴隷はエルフの内情を知る

 俺は森の中を移動する。

 背後には味方の襲撃部隊がいた。

 彼らは揃って緊張している。

 背中を向けた状態でもよく伝わってきた。


(そうなるのも仕方ない、か……)


 俺達の前後には、先ほど遭遇したエルフ達がいた。

 武器を携える彼らは、絶えず俺達の動きを見張っている。

 少しでも怪しいと感じれば、容赦なく武器を向けてきた。

 お世辞にも友好的な態度ではない。


 場には独特の緊張感が漂っていた。

 双方から殺気が蔓延している。

 今にも殺し合いが始まるのではないか。

 そう錯覚させるような空気だった。


(……いや、錯覚でもないか)


 俺は冷静になって評する。

 何かの拍子で殺し合いにまで発展するだろう。

 そして、互いに無視できない損害が発生する。

 気の抜けない状況の中、俺は少し前の出来事を思い出す。


 エルフの隊長である男は、俺に風の使徒の暗殺を頼んできた。

 さすがに即答はできず、詳しい事情を聞いた。


 彼の話すところによれば、近頃はエルフ同士の戦争が過激化しているらしい。

 前々から仲は良くなかったのだが、それが顕著になったという。


 関係が急速に悪化した原因は判明している。

 風の使徒の出現だ。

 あの緑髪の得た能力は、エルフ全体にとっても一大事だったのである。


 考えてみれば当たり前のことだろう。

 緑髪は、エルフの信奉する女神の加護を授かった。

 そのままの意味で使徒なのだ。

 到底、無視できることではない。


 問題なのが、他の大多数の勢力の心境だった。

 彼らは自勢力以外で使徒が誕生したことが許せなかった。

 俺達に同行するエルフの勢力も、その一つらしい。


 彼らはすぐさま風の使徒の引き渡しを要求した。

 女神に選ばれた使徒は、自分達の勢力に属するのが正しいのだと主張したのである。

 とんでもなく身勝手な話だが、エルフの中では当然の話らしい。


 無論、使徒の属する勢力はこれを断った。

 すると他の勢力は、加護を授かる方法を開示するように迫った。

 しかしその要求も無視された。

 そんな方法があるのか知らないが、とにかく要求は通らなかったのである。


 結果、勢力間の関係に決定的な亀裂が走った。

 ここ数日間、エルフ達は毎日のように小競り合いを行っているらしい。

 互いの勢力圏に忍び込んでは、陰湿な殺し合いを繰り返す日々なのだそうだ。

 先ほど見つけた死体も、その中で生まれたものらしい。

 現在、風の使徒の属する勢力は、他のエルフから睨まれている。


 争いが強まる中、同行するエルフの勢力が一つの案を閃いた。

 それは、炎の使徒に風の使徒を殺させるという作戦だ。

 自勢力に属さないのならば、使徒など不要という考えである。

 新たな使徒が、自勢力から誕生するのではないかという期待もあるらしかった。


 風の使徒は強い。

 エルフ達にとっても簡単に殺せる相手ではない。

 それどころか、風の魔術は問答無用で無効化される。

 ほぼ絶対に勝てないのだそうだ。

 だから彼らは、俺に殺害を依頼してきた。


 今回、森の中で出会ったのはまったくの偶然らしい。

 数日以内に、荒野の隠れ村にやってくる予定だったそうだ。

 これがエルフの隊長から知らされた内情であった。


 エルフの勢力については詳しくなかったが、まさかそのようなことになっているとは思わなかった。

 想像以上に酷すぎる。

 同じ種族なら、争わずに仲良くすればいいのに、どうしてそれができないのだろう。


 風の使徒の扱いについてもそうだ。

 エルフ達の崇める女神なら、使徒についても信奉すべきだと思う。

 なぜ取り合ったり、妬んで殺そうとするのか。

 俺にはとても理解できない。


 とは言え、エルフからの暗殺依頼は、こちらにとって悪いものではなかった。

 元々、風の使徒は殺すつもりなのだ。

 依頼を承諾することで、一時的にエルフ達と協力関係となり、道中を邪魔されずに済む。

 さらには暗殺に必要な物資の支援も受けられるらしい。

 良いこと尽くめである。

 そういったことも部分を考えて、俺は暗殺依頼を受けた。


 現在は、エルフ達の住処に移動中である。

 そこで待つ他のエルフに事情説明をし、暗殺に際して具体的な計画を練るそうだ。

 だからこうして大人しく付き従っている。


(まあ、油断はできないが)


 別にエルフ達を信頼しているわけではない。

 協力はあくまでも一時的なものだ。

 互いに利用し合うだけである。

 それを忘れてはならない。

 状況が少しでも変われば、たちまち殺し合いになるだろう。


 暗殺が終われば、協力したエルフの勢力も皆殺しにするつもりだ。

 向こうもそう考えているはずなので、なんとか先手を打てるようにしようと思う。


 エルフ達は風の使徒を殺したい。

 だがそれ以上に炎の使徒の死を望んでいる。


「もうすぐ着く。私語は慎め。余計なことをするな」


 先頭を進むエルフの隊長から警告が飛んできた。

 誰も喋ってなどいなかったが、念押しだろう。


「…………」


 俺は気を引き締める。

 前方にたくさんの生命反応があった。

 大半がエルフで、その一部が奴隷に違いない。


 その光景に感情的になりそうだが、ここは抑えなくてはならない。

 すべては目的の為だ。

 軽率な行動は皆の死を招く。

 あとでいくらでも機会は巡ってくるのだから、ここは我慢しなくては。


 自分に言い聞かせながら、俺は森の中を黙々と進む。

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