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第13話 元奴隷は森を侵攻する

 俺は襲撃部隊を率いて黙々と荒野を歩く。

 総勢二十一人の部隊だ。

 俺達はそれぞれ水と食糧を携帯し、手には得意な武器を持っている。


 誰も防具は着けていなかった。

 何人かが盾を持っている程度である。

 人数分を揃える余裕が村にはなかったことに加えて、そもそもエルフの攻撃を前に、半端な防具は意味を為さないためだ。

 動きを阻害されるだけで、ただの衣服のまま戦う方が生き残りやすい。

 その辺りの戦術はこの二年間で学び、皆の間でも周知されていた。


 ちなみに俺は片手に棍棒を持っている。

 削り出した木の棒に、金属の補強具をはめて革を巻いたものだ。

 単純な造りで、頑丈さだけを突き詰めている。

 それなりに愛用していたせいで、端々にはエルフの血がこびりついていた。

 この汚れはもう洗い落とせない。

 しっかりと染みと化している。


 襲撃部隊の中でも、棍棒を使っているのは俺一人だった。

 なぜ剣や槍を使わないのかと言えば、単純に不器用だからである。

 刃を立てるのが苦手で、切断が用途の武器が上手く扱えないのだった。

 そのため必然的に鈍器の世話になっている。


 他の武器の訓練も行ってはいるが、これがなかなか難しい。

 リータからも素質がないと断言されていた。

 情けないが否定することができない。


 一方で鈍器ならば力任せに振るうだけなので扱いやすい。

 全力で叩き付けない限りは、壊れることも無かった。

 この棍棒だけで数十人のエルフの頭をかち割っている。


 そもそも俺の場合、炎の力による遠距離攻撃や切断も可能だった。

 素手でもそれなりに戦える。

 戦場が森になるのなら、樹木を引き抜いて振り回すこともできる。


 実際問題、武器にこだわりを持つ必要性が薄い。

 風の使徒を除けば、負ける気がしなかった。


 とは言え、慢心は禁物だ。

 エルフ達がどのような策を使ってくるか分からない。

 慎重に行動すべきだろう。


 俺は襲撃部隊の命を預かっている立場だ。

 隠れ村でも人々が帰りを待っている。

 軽率な選択が皆の生死を分けるのだから、決して気を抜いてはならなかった。


 その後も俺達は移動を続ける。

 結局エルフの襲撃を受けることなく、エルフの勢力圏である森に到達した。

 茂みを分けて踏み込んでいく。


(使役された魔物くらいやってくるかと思ったが……)


 俺はここまでの道中を振り返る。

 荒野の移動中は、不自然なほど何もなかった。

 以前のように竜くらい飛ばしてくるかと思ったが、それもなかった。


 俺の反撃を警戒しているのだろうか。

 小出しで戦力を投入しても、無駄だと察したのかもしれない


(或いは戦力を温存しているのか?)


 この二年間、エルフ達にはかなりの損害を与えてきた。

 彼らにも限界がある。

 ヒューマンの勢力に手を出しているだけの余裕がなくなってきたのだろう。


 これは思ったよりも好機かもしれない。

 エルフ達が疲弊してる間に畳みかけたかった。

 形勢を有利に持ち込めば、そのまま押し切る展開も望めそうだった。


 小さな希望を抱きながら、森の中を移動する。

 罠にだけは注意しておく。

 たまに張られていることがある。

 俺はともかく、常人が食らえば即死する類も混ざっている。

 炎の感知では見つけられない点も面倒だ。

 気を付けなくてはならない。


 そうして歩いているうちに、俺は異変を感じた。

 前方から血の臭いがする。

 かなり濃い。

 近くに誰かがいるようだ。


「…………」


 俺は後続の襲撃部隊に目配せする。

 彼らは無言で頷き、周囲の警戒に専念し始めた。


 俺は棍棒を掲げて一人で前進する。

 なるべく音を立てないようにしながら、草木の隙間を縫っていった。

 途中で炎の力を発動する。


(生命反応は感じられない、が……)


 誰かがいれば、確実に察知できるはずだった。

 エルフの隠密魔術も看破できる。

 見逃すことは無い。

 反応がないということは、付近に生物はいないということだ。


(つまり血の臭いの正体は――)


 茂みを抜け出た俺は、目の前の物体に注目する。

 そこにはエルフの死体が転がっていた。

 合計十人ほどだ。

 弓が刺さっていたり、身体の一部が抉れていたりと損傷が激しい。

 後者は風魔術によるものだろう。


 食い荒らされた形跡はない。

 所持品は盗まれている様子だった。

 すなわち何者かに殺害されたということだ。


(……俺達はまだ何もやっていない)


 それなのにも関わらず、エルフ達は死んでいる。

 一体何が起きているのだろう。

 とにかく、ここを離れなければいけない。


 その時、炎の感知範囲に生命反応が出現する。

 範囲外から走ってきたのだろう。

 何人かが凄まじい速度でこちらへと接近してくる。

 それに合わせて、茂みを切り裂くように風の刃と水の球が飛んできた。


「……っ」


 俺は噴出させた炎で掻き消す。

 少し驚いたが問題ない。

 傷は受けていなかった。


 燃え盛る木々の中、前方を睨み付ける。

 そこに駆け付けたのは、武装したエルフの集団だった。

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