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第12話 元奴隷は村を発つ

 数日後、俺は村人を募って襲撃部隊を編成した。

 これからエルフの住処を攻撃するのだ。

 目的は緑髪こと風の使徒の殺害である。

 彼女の逃亡した方角と付近の勢力図から考えた結果、おおよその居場所を特定できたのだ。


 そういったこともあって、こちらから攻め込む手筈となった。

 向こうは俺との戦いで負傷している。

 炎の使徒の力を浴びたのだから、無事ではないはずだ。

 回復される前に止めを刺してしまいたい。


 態勢を立て直されると、こちらの勝ち目が薄くなる。

 風の使徒を含むエルフ達が大軍となってやってきた場合、俺達は皆殺しに遭うだろう。

 今までは消耗を恐れて奴らはやって来なかった。

 しかし、現在は風の使徒が陣営にいる。

 きっと報復を企んでいるはずだ。

 彼らの誇りの高さを考えると、絶対に侵攻してくる。


(だからこそ、今回の暗殺は成功させる)


 俺は自宅で出発の支度をしながら決意する。

 衣服を纏って仮面を着けた。


 体調は万全だ。

 この日のために入念に整えてきた。

 緑髪から受けた傷も完治しており、炎の調子も良好だった。

 十分に戦える。


「…………」


 俺は深呼吸をして気を引き締める。


 失敗は許されない。

 慢心も油断も厳禁だ。

 皆の命を預かっている。


 風の使徒を殺した後は、一気に奴隷を解放する。

 ヒューマンの生活圏を拡大するのだ。


 荒野での暮らしには限界があった。

 森の中とまでは言わないが、豊かな大地に移り住みたい。

 冬に食糧の心配をしなくてもいい日々を望む。

 俺達は戦いでそれらを勝ち取る。

 生存と尊厳のための争いであった。


 俺は外套を掴んで羽織ると、自宅の外に出て村の出口へと赴く。

 そこには村人達が続々と集まっているところだった。

 片隅にはリータの姿もある。


 俺が荷物を持って近付いていくと、ロビンが駆け寄ってきた。

 彼は軽く手を上げて挨拶をしてくる。


「おはよう。よく眠れたかい」


「ああ、問題ない」


 俺は頷いて応じる。

 ロビンは懐から取り出した物を手渡してきた。


「これが地図だ。参考にしてくれ」


 地図は目的地までの経路や、森の地形について詳細に書かれていた。

 注意事項などもまとめられている。

 とても分かりやすい。

 ロビンがわざわざ作ってくれたのだろう。

 ありがたい限りである。


「食糧も準備したが、余分な量は無い。向こうで調達することも視野に入れてほしい」


 ロビンは前方を指差す。

 そこには干し肉と、穀物の練り物があった。

 村人達が手分けして容器に詰めている最中だ。

 次にロビンは食糧のそばを指差した。


「武器も人数分はある。爆弾も可能な範囲で量産したよ」


 そこには剣と槍と盾が置かれていた。

 エルフから奪ったり、この村で拵えられた物である。


 数は少ないが弓矢も用意されている。

 技術面ではエルフ達には遠く及ばないものの、貴重な遠距離攻撃の手段だ。

 先端に俺が火を灯せば、一撃必殺の威力と化する。

 俺は弓矢の扱いが絶望的に下手なので、他の誰かが放つ矢に炎を添える役だった。


 ちなみに爆弾とは、泥団子もどきのことである。

 リータが命名した。

 遠い昔、ヒューマンが使った武器に似たような物があったらしい。


 爆弾は先日の物からさらに改良されて、一つひとつに石の粒が混ぜ込まれている。

 破裂して炎を上げる際に、この粒が周りに飛び散り、それによってエルフ達を殺傷するそうだ。

 これもリータの案である。

 ロビン曰く、非常に合理的だという。

 配合を調整して火力自体も上げているそうだ。


 俺以外の者にとっては、炎による貴重な攻撃手段であった。

 きっとエルフ達を驚かせてやれる。


 そんなことを考えながら武器を眺めていると、ロビンが肩に手を置いてきた。

 彼は沈痛な面持ちで告げる。


「……目的達成も大切だが、くれぐれも無理はしないでほしい。皆の生還が第一だ」


「分かっている」


 そう答えながらも、俺は薄々ながら察していた。

 襲撃部隊は、きっと全員での生還はできない。

 今回の任務は非常に危険だ。

 以前までのように力押しで攻め切ることができず、どこかの場面で必ず無理が生じる。

 計画通りに進めず、犠牲を出してしまうだろう。


 襲撃部隊の者達は、それを理解した上で志願している。

 死を乗り越えなければ、未来を掴めない。

 人々のために、彼らは死ぬ覚悟を決めたのだ。


 ロビンも賢い男だ。

 言葉とは裏腹に、そういった事実を分かっているのだろう。

 それなのにあえて全員の生還を祈っている。


「無事に帰って来たら皆で酒宴を行おう。とびきりのご馳走を用意してね」


「それは楽しみだ」


 ロビンと笑い合っていると、横からリータがやってきた。

 彼女は俺の頭に手を載せてくる。


「別れの挨拶は済んだかしら」


「ああ、留守の間を頼む」


「仕方ないから任されてあげるわ。この利子は高いわよ?」


 リータはおどけた口調で答える。

 俺が不在となる期間、リータが隠れ村の守護を行う。

 彼女は俺に加護を渡しているので本来の力は出せないが、それでもエルフを撃退するくらいはこなせる。

 村に残る者達と共に、戦ってもらう予定だった。


 無論、そうならないのが一番である。

 村を危険に晒さないためにも、迅速に任務を終えねばならない。


 その後、準備を完了させた襲撃部隊と共に、俺は隠れ村を出発した。

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