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第11話 元奴隷は村長から進歩を聞く

 作業を終えた俺が荒野から戻ると、村長のロビンが待ち構えていた。

 彼は一目散に駆けて来て、嬉しそうに話しかけてくる。


「アレク。君に見てほしいものがあるんだ」


「何だ」


「それは実際に見るまでのお楽しみだよ。警戒しなくていい。別に悪いものじゃない」


 ロビンは笑顔で言う。

 彼がこのようなことを言うなんて珍しい。

 よほどの朗報なのだろうか。


「ついてきてくれ。場所を用意している」


「分かった」


 頷いた俺はロビンに連れられて移動する。

 そこは村の端の空き地だった。

 剥き出しの地面には、ぽつぽつと岩が置かれている。

 木も何本か生えていた。


 彼は周囲を見回すと、満足そうに頷く。

 そして懐を漁り始めた。


「これが見てほしいものだ」


 彼が取り出したのは、布包みだった。

 開くと丸い物体がいくつか入っている。

 その物体は、薬草に包まれていた。


(何だ……?)


 隙間から中身が覗いている。

 黒い泥のような物体で、指先で触れてみると少し粘り気がある。

 あまり気持ちの良いものではなかった。


 俺はそれを服に擦り付けながらロビンに尋ねる。


「……草に包んだ泥団子か?」


「違う。泥団子じゃない。もっと良いものさ」


 ロビンは布包みを地面に置くと、団子もどきの一つを掴んだ。

 彼は腕を軽く掲げる。


「そら、行くぞ」


 ロビンは団子もどきを岩へと放り投げた。

 それは岩に当たる。

 次の瞬間、団子もどきは大きな音を立てて燃え上がった。


 炎はすぐに消えた。

 命中した岩には、表面に黒い粉のようなものが付着している。

 団子もどきの残骸だろう。


 俺はロビンの顔を見る。

 彼は満足げだった。

 こうなることを分かっていたのだ。


 俺は真っ先に思い付いたことを彼に訊く。


「リータから加護を授かったのか?」


 ロビンは首を横に振った。


「まさか。彼女は君だけを気に入っている。仲良くやっているつもりだが、加護を貰えるほど親密じゃない」


「それなら今のは何だ」


 俺の問いかけを受けて、ロビンは残った団子もどきを拾い上げた。

 それを俺に見せてくる。


「新しい武器さ。前から製造していたが、ようやく形になってね。成果が出たから君に見せたかったんだ」


「なるほどな……」


 俺は団子もどきを受け取る。

 薬草が巻いてあるのは、投げやすいためだろうか。

 臭いを嗅いでみると、思わず顔を顰めてしまう。

 吐き気のする類だ。

 あまり顔を近付けたくなかった。

 嗅いでいるだけで食欲が失せそうだ。


「岩山の鉱石を砕いて脂と混ぜ込んで、燃えやすい薬草で包んでいる。衝撃を与えると火が点く仕組みだ。配合次第で色々な工夫ができると思う」


 ロビンは得意げに説明する。

 簡単そうに言っているが、あっさりと作れるわけがない。

 彼は陰ながら努力し、ようやく披露するだけの段階に漕ぎ着けたのだろう。

 その姿勢には尊敬する他なかった。


「僕らも努力はしているが、それでもエルフ達に対抗するのは難しい。闇雲に鍛練するだけだと、いつまで経っても勝てないだろう。だからこそ、こうした手段を増やしていかなくてはいけない。君の足手まといになるのではなく、一つの戦力になるんだ」


「ロビン……」


 俺は真剣に語る彼を見る。

 ロビンは現実を冷静に観察していた。

 そうして目標に向かって困難を打破するための方法を模索している。

 彼の視野は、俺よりずっと広い。

 比べるまでもなかった。


 改めてロビンのすごさに驚いていると、彼は苦笑して肩をすくめる。


「まあ、僕は戦えないから補助しかできないけどね。その分、頑張らせてもらうよ」


「……頼りにしている」


 そういった会話をしていると、空き地に向かってリータが歩いてきた。

 彼女はロビンに向けて拍手を送る。


「見てたわよ。上手くできてるじゃない」


「ありがとうございます。おかげさまで、なんとか成功しました」


 ロビンは綺麗に礼をする。

 俺は彼の言葉に気になる点を見つけた。


「おかげさま?」


「最適な鉱石を見つけるのに、リータさんには協力してもらったんだ。自力で探していたら、あと半年は作業が遅れていたよ」


 顔を上げたロビンが事情を語る。

 俺の知らない間にそのようなことがあったとは意外だった。

 思わずリータに視線を向ける。


「すまない。助かった」


「……ちょっとした気まぐれよ。さっさと忘れてね」


 リータはふいを顔を背けてどこかへと歩き出した。

 そのままどこかへといなくなる。

 不機嫌そうではなかったが、この話題に触れてほしくないのかもしれない。

 照れ隠しだろうか。


 俺はふとロビンと顔を見合わせる。

 ロビンは苦笑いを浮かべていた。


 邪悪な炎の女神にも、良心は残っているようだ。

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