第四話 面倒臭がり
話を元に戻し、世話係の話になった。
「具体的に、どういったお世話を?」
「エヴェリーテの世話全部だ。食事、着替え、その他諸々」
「お屋敷の掃除は?」
「二、三日に一度頼んでる分で十分だ。色は……そうだな、エヴェリーテどれがいい?」
「え?」
色とは、妖精のランクを指す。急に話を振られたエヴェリーテは、えーと、えーと、と目を忙しなく泳ぎ、白を選んだ。白は六段階あるランクの中で下から二番目。まだまだ半人前の妖精しかいないランクだ。それでいいの? と顔にありありと書いている妖精に頷いた。
「構いません。それに……」
自分の髪を一房手にした。青みがかった銀髪。陽の当たり具合によっては、白にも見える。親近感を込めて白を選んだ。妖精は、机の下から白いファイルを取り出した。白のランクの妖精リストを開き、彼女の世話係にぴったりな人材を探していく。あるページで止め、二人に見せた。
「この子はどうです? 白のランクになってまだ日は浅いですが、働き者で仕事意欲も充分にあるので、きっとお役に立てるかと」
名前はララ。葡萄色の髪と瞳が特徴な、垂れ目がちな女の子。経歴を見ると、主に子供の面倒を見る仕事が多い。子守には打ってつけという事か。
ウェルギリウスの視線を受け、この子にするとエヴェリーテは決めた。
また違うページをぱらぱらと捲っていき、次のページを見せた。
「この子も白になって日は浅いですが、家事全般だけでなく、お仕事の方も任せられますよ」
「仕事ってどんな?」
「バージル様を例に挙げるなら、錬金術で使用する素材集めでしょうか。まあ、この方の場合、第六超度の魔術師でさえ、単独踏破は不可能とされている遺跡まで行っちゃう人だから、滅多に依頼はしてこないんですがね……」
「うるせえ。エヴェリーテ、どうする?」
「うーん」
名前はアイ。蜂蜜色の髪に澄んだ空色の瞳の活発そうな女の子。……妖精が勧めてくるのが二人とも女の子なのは、只の偶然だと思いたい。しかも、目の前の妖精もだが、年齢は書かれてないが皆見た目が幼い。
この子にするよとエヴェリーテが判断すると、申し込み書の記入を頼まれた。羽ペンで必要事項をウェルギリウスが記入していく。全て書き終えると妖精にペンを返した。
妖精は、書類に不備がないか確認すると「確かに」と受け取った。
「では、二人は明日から見習いとして、バージル様のお屋敷に派遣させて頂きます」
「見習いなの?」
「どのランクの妖精でも、最初の一週間は見習いとして現場に派遣されます。使えそうと判断されれば正規雇用され、されなければ仕事の話は白紙となります」
「そうなんだ。ウェルギリウスが掃除を頼んでる妖精さんは固定なの?」
「いいや。掃除専門のプロに頼んでる。来るのも、毎回同じとは言えん。今度、タイミングが合えば会うだろうよ。じゃあ、頼んだぞティポ」
「はい! またのご来店をお待ちしております!」
ティポの笑顔の見送りを受け、二人は求人所を出た。
「楽しみだねえ。どんな子達かな」
「さあな。さて、これからどうする?」
「うーん……街に行ってみたい。駄目?」
「構わんが、先に俺の用事を済ませてからでいいか?」
「うん。全然大丈夫だよ」
「なら、手を出せ」
エヴェリーテの手を握り、転送方陣を用いて妖精の里を出た。
次にウェルギリウスが選んだ場所は、ソゥ・オノール城がある王都。上から王城、貴族界、平民界、貧民界の四つの階層に分かれた街なのだ。貴族界とは、その名の通り貴族が住んでいる階層。平民、貧民も同様。そして、王城も王族が住む場所である。
ウェルギリウスが移動したのは、平民界でも特に活気溢れるフィオーレ街。道端のど真ん中に現れても通行人を驚かせるだけなのは、何度も体験して理解しているので二人が出現したのは路地裏。そこから、外に出た。様々な商店が並び、人通りも多い。
「わあ!すごーい!」
「後で好きな店に連れて行ってやる。先に用事を済ませるぞ」
「用事って何なの?」
人が多いので迷子にならな様にしっかりと手を繋いで見上げれば、着けば分かると返された。
歩いてすぐに、青い屋根のお店に入った。ちらっと服の看板が見えた。
店内に入ると店員らしき女性が近付いて来た。
「いらっしゃいませ。本日は、どの様な服をお探しですか?」
「この子に合う服を。ほら、エヴェリーテ」
軽く手を引っ張られて前へ出された。平民界の服屋の中では、一番品揃えの良い店だ。大人だけでなく、子供服も充実しているのでエヴェリーテに似合う服も見つかる。店員と共に子供服売り場へ行ったエヴェリーテを見つめるウェルギリウスの瞳は、幼女趣味な危険人物の瞳じゃない。父親が娘を見守る優しい瞳だった。
それから暫く――。
店員と長く吟味していたエヴェリーテは、ちょくちょくウェルギリウスの元へ戻っては、どれが似合うか意見を聞いた。最初は真面目に対応していたが、次第に面倒になってきたので――。
「選んだやつ全部寄越せ」
「え!?」
「ありがとうございます!」
エヴェリーテが持ってきた服を全て買い取った。
ほくほく顔な店員に見送られ、紙袋三つ分の衣服を購入した。勿論、片手で紙袋を三つ持ち、もう片方の手はエヴェリーテの手を繋いでいる。
値段は決して安くなかったのに……。お金の心配をしたエヴェリーテが漏らすと、金は腐る程あると即答された。乾いた笑みを浮かべたエヴェリーテを余所に、次に入ったのは靴の看板を掲げた靴屋さん。店内に入るなり、子供靴が置いてある一角を覗いた。
「靴も幾つか持っておいた方がいいだろう。好きなのを選べ」
エヴェリーテが今履いているのは、急ぎでウェルギリウスが錬金術で作った赤いショートブーツ。女の子らしさをアピールした天使の羽は可愛いが、妙に気恥ずかしい。
手を離し、気になる靴を取った。子供の姿だから、ヒールの高い靴を履く必要はない。なら、動きやすさ重視の靴にしよう。
幾つか候補を決め、最終的に三つに絞った品をウェルギリウスに見せた。
鳶色のローファー、紺色のスリッポン、最後にやっぱり少しはお洒落したいということでヒールのない赤いパンプスを選択。いつの間にか側で控えていた店員に三つを渡し、会計をして店を出た。
服、靴と共に紙袋が三つ。邪魔だと判断したウェルギリウスが収納と呼ばれる空間魔術と錬金術を用いた道具でそれらを仕舞った。
「何でも出来るのね、ウェルギリウスって」
「無駄に、長生きはしてない。俺の用事は終わった。今度はお前の番だ」
「用事って私の買い物だったの?」
「お前の服を買ってなかったからな。他に欲しいものがあるなら言え」
「じゃあ、お店を回りながら探すよ」
沢山のお店を回り始めた二人。
フルーツを取り扱うお店に、野菜を取り扱うお店。他にも、外で収穫した素材を売るお店や錬金術師のお店等もあった。エヴェリーテが立ち止まったのは、髪飾りを置く店だった。宝石が付けられた髪飾りよりも、見事な赤を発する大きなリボンに目が釘付けとなった。即座に欲しいと強請った。
「こんな安物でいいのか?」
「値段は関係ないの。このリボンがいい!」
「分かった」
店員から赤い大きなリボンを購入すると、嬉しそうにリボンを見つめた。そして、自分の髪に結び始めた。……が、上手く結べない。あれ? あれ? と手こずるエヴェリーテに溜め息を吐くとウェルギリウスはあっという間に結んでやった。頬を赤らめてお礼を述べたエヴェリーテと頭に結んだリボン……。彼の精神を大きくぐらつかせたのは言うまでもない。
ここが屋敷内だったら、思う存分口付けていた――……ふと、大事な事を思い出したウェルギリウスは散歩は終わりだと、強引に屋敷に戻った。嫌に焦るウェルギリウスを心配するエヴェリーテ。屋敷の扉の前に誰かがいた。遅かったかと一人ごちたかと思うと、あいつは無視しろと裏から回り込もうとしたら……相手に存在を気付かれてしまった。
「――おーい! 無視するなあ! 折角遊びに来たのに!」
「ちっ……」
「あの人誰?」
「お前は知らなくていい」
「ん? 何だその子? ……まさか、お前の隠し子か?」
相手は流麗な銀の髪と瞳の男性だった。かなり若い見目の男性は、興味津々とばかりにエヴェリーテを見つめる。居心地の悪さを感じたエヴェリーテは大きな背に隠れた。
「あはは! 人見知りな子だな」
「用がないならとっとと帰れ。邪魔だ」
「ある! あるから帰らん!」
「そうか。……いや、やっぱり面倒だ。後でこっちから行く。今日は帰れ」
そう言うと男性を空間魔術で何処かへ飛ばした。有無を言わせる隙も与えず。
強引な退場のさせ方。何処の誰だか知らないが、運がない人とエヴェリーテは思ったのである。
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