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ロリコンな保護者兼お師匠様に溺愛される  作者:
十歳編~波乱の幕開け~
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第二十話 ぷに子の目撃情報

 

 

 今日も朝から魔力供給という名のキスをされ、終わるとウェルギリウスの日課となっている髪を梳いてもらう。何度か自分で髪を整え、リボンを結ぼうとエヴェリーテは試したのだが、彼のように上手に出来ない。コツを聞いても楽しみが減ると秘密にされたまま。髪を梳き、リボンを結ばれるとタイミング良く扉がノックされた。どうぞ、と返事をすると何時もの様にララが「おはようございます。お嬢様、バージル様」と朝の挨拶をした。

 


「おはよう! ん? それ何?」


 

 ララが持っている白い紙が目に入った。


 

「あ、今朝スカーレット公爵家の使用人の方が来られまして、是非お嬢様に渡してほしいと」

「スカーレット?」

「ああ、シリウスの所か。エヴェリーテ、読んでみろ」

「うん」


 

 ララから手紙とペーパーナイフを受け取り、慎重に封を切った。中に入っていた手紙を広げ読んだ。


 

「ええっと……今度、スカーレット公爵家の庭園でお茶会を開くから来てほしい、ってお手紙だね。差出人は……アリシア=スカーレットって書いてる」

「ああ、シリウスの娘の名だ」

「何で私に招待状を?」

「大方、シリウスから話を聞いて会いたくなった、って辺りだろうよ」


 

 行くか、行かないかはエヴェリーテの自由。どうする? とウェルギリウスに問われ、幾何か悩んだ末。


 

「行く。交流を広げるのも必要だと思うから」

「そうか。返事は俺から出しておこう」


 

 初めてのお茶会への招待に興味と緊張と楽しみな気持ちが混ざり合い、今からそわそわし出すエヴェリーテが可愛い。日時は二日後。それまでに準備しないと、と慌てだす青みがかった銀糸の頭に手が乗った。


 

「落ち着け。まずは朝食を食べよう。それから、街へ買い物へ行くか」

「朝食の準備は出来ています」


 

 食堂へ向かう傍ら、今日のメニューをララに聞いているとウェルギリウスの掌にいつの間にか、白い塊がいた。ふわふわもこもこした丸い塊がもぞもぞと動き出す。謎の生物を歩きながら凝視するエヴェリーテとララに前を向いて歩けと注意する。


 

「それ何?」

「手紙の返事をこいつに届けさせる。行け」


 

 ウェルギリウスの言葉に反応して白い塊が本格的に動いた。純白の翼を広げ、黄色い嘴の鳥が「くえ~」と鳴いた。やる気の、やの字もない声に青い瞳と葡萄色の瞳が点になった。

 

「くえ?」はて? とした顔でウェルギリウスを見上げる。

「はあ。行ってこい」

「くえ!」

 


 再度、謎のやる気の無さげな鳥に指示すると鳥は了解したと鳴き、開いた窓から外へ飛んで行った。

 


「……可愛いけど、なんていう鳥?」

「フレスベルクっていう、鳥の雛だ。王国の飛行部隊が主に乗る鳥だよ」

「あんなやる気のない鳥が……」

「大人になれば、そうだな……ダチョウの2倍はある大きさになる」

「そんなに大きいの? 大きくてやる気のない鳴き声の鳥……」

「言っとくがアレはあいつだけだ。他のフレスベルクの雛はもっと溌剌とした鳴き声を発する。まあ、鳴き声はともかく、ちゃんとお前の返事をスカーレット邸へ届けるから心配するな」

「うん……」

 


 些かの不安を残し、食堂へ入って行った。


 


 ◆◇◆◇◆◇

 ◆◇◆◇◆◇

 


「フレスベルク? ああ、飛行部隊が飼育している飛行鳥の事ですね。知ってますよ」

 

 食事の席にて、王城に住むセストならフレスベルクがどんな鳥か知っていると考え、フレンチトーストを綺麗な動作で一口サイズに切るセストに興味本位で訊ねた。ウェルギリウスの放ったフレスベルクはもう戻っており、主の肩に座って大きな欠伸をした。

 

「こんな鳥なのですか?」

「雛鳥は見たことありませんが、成長した親鳥はとても凛々しい姿をしていますよ」

「凛々しい……」

 

 ウェルギリウスの肩に座っている眠そうな雛鳥が大人になれば凛々しくなる。成長した姿が想像出来ないのか、疑惑の眼差しを雛鳥へ向けるエヴェリーテ。

「心配無用ですよお嬢様」助け舟を出すように皿から顔を上げたぷに次郎曰く、フレスベルクは成長するにつれ徐々に顔つきも体も大きく変化していくのだとか。

 


「この子は生まれてどれくらい経つの?」

「まだ、二週間程度しか経ってない。フレスベルクは世界最大の鳥類と言われているが、その分成長が普通の鳥より遅い。こいつが大人になるまでにはそれなりの時間が掛かる」

「そっか。あ、ねえ、名前はつけてるの?」

「一応、アルファと名付けている」



 アルファと呼ばれたので「くえ!」と返事をするも、どうも声に覇気が感じられない。でも、とエヴェリーテは思う。ずっと見ていると愛嬌のある顔だと見え始めた。恐る恐る手を伸ばし、頭に触れると嫌がる素振りもなく撫でさせてくれた。お尻をエヴェリーテに向けた。撫でろということなのか、また恐る恐る撫でると喜んでくれた。見た目通り、ふわふわもこもこしていて触り心地が抜群だ。ララとアイも触りたいのか、そわそわしている。ウェルギリウスの許可を貰ってアルファを両手でしっかりと抱き上げ、二人の前へ出した。はて? と首を傾げるアルファの体を慎重に触るララとアイ。アルファも嫌な気持ちはないらしく、二人に撫でられる。



「ぼくも触ってみて良いですか?」

「くえ!」



 皆が触れているのを眺めているのも飽きてきたセストが名乗りを上げれば、いいよとアルファが鳴いた。覇気のない声で。お礼を述べ、ふわふわもこもこな体を撫でたのであった。




 ◆◇◆◇◆◇

 ◆◇◆◇◆◇



 二日後。天気が生憎の雨となってしまい、招待された本日のお茶会は中止となってしまった。折角、今日の為に新しいドレスを用意したのに。室内の窓から外を眺めるエヴェリーテの隣にセストが来た。



「残念でしたね、エヴェリーテ嬢」

「はい……」

「しかし、ウェルギリウス様なら雨を晴れにするのは容易だろうと思うのですが」

「へ? 天気を変える事って出来るのですか?」

「錬金術で雨を晴天へと変える道具を作れると聞いた事があります。また、その逆もまた然り。ですが、肝心のウェルギリウス様が今外出中なのでお話を聞けませんが」

「あ……」



 今日が雨と知るとウェルギリウスは朝食後すぐに屋敷を出た。行き先も告げず出掛けたウェルギリウスを心配しなくても、北の大陸最高峰と名高いあの男が簡単に危険な目に遭うとは思えない為、雨を降らせる雲に恨みの籠った眼差しを向けていた。



「今日は何をしましょう? 魔力操作(コントロール)の練習でもしますか?」

「そうですね。あ」

「ん?」



 エヴェリーテの視線の先が気になったセストが同じ方を見るとぷにぷに三兄弟が雨の降る外で酷く落ち込んでいた。二人は顔を見合わせた後外へ出た。ぷにぷに三兄弟がいたのは庭。傘を差して外へ出てきたエヴェリーテとセストがぷにぷに三兄弟が落ち込んでいる訳を訊いた。



「何かあったのですか?」

「はい……。実は、今アイさんから聞いた話なのですが」

「うん」

「僕達が探しているぷに子らしきぷにぷにがフィオーレ街にいるという、情報を貰ったのです」



 ぷに次郎から聞かされたのは、ぷにぷに三兄弟がヴォルティス王国へ来た本来の目的ぷに子の捜索。ぷにぷにが街に出るのは危ないので、街での情報収集は主に買い物へ出掛けるアイとララが率先して行っていた。モヨリの森やその他の素材採取地へはぷにぷに三兄弟が行っていた。ぷにぷに三兄弟曰く、ぷに子はぷにぷに界で一番可愛いぷにぷにでアイドルのような存在らしい。この話を最初に聞いたエヴェリーテや後から聞かされたセストは、頑張って可愛くてアイドルのようなぷにぷにを想像したがどう頑張っても普通のぷにぷにしか想像出来なかった。



「アイさんは何処でその情報を?」

「はい。エヴェリーテお嬢様が好きな果物を売っているフルーツショップで店員が話しているのを聞いたと言っていました」とぷに三郎。

「本当にぷに太郎さん達が探してるぷに子さんなの?」

「はい! アイさんも気になって店員さんに話を聞いてくれたのですが、そのぷにぷには紅い口紅をして長い睫毛の水色のぷにぷにだったのです。ぷに子も紅い口紅を塗っていましたし、睫毛も長かったです!」

「紅い口紅に……」

「長い睫毛な……」


「「ぷにぷに……」」



 エヴェリーテとセストは口にした特徴のぷにぷにを想像した。水色のぷにっとした球体、口に塗られた紅い口紅に長い睫毛なぷにぷに……。



「「……」」



 何とも言えなくなった二人に気付かず、ぷにぷに三兄弟は熱く語る。



「ぷに子と思われるぷにぷにの傍には、高価な服を着た貴族風の男性がいたとも言っていました」とぷに三郎。

「しかも、ぷに子は鎖で体を縛られていたとも……!!」とぷに次郎。

「きっと、酷い目に遭っているに違いありません! ですが、助けに行きたくても何処にいるのかが……っ」とぷに太郎。


 三兄弟の想いぷにを探し、助けてあげたい気持ちがエヴェリーテとセストにはある。あるが、肝心の居場所やその貴族風の男性の正体も不明となると探し様がない。

 彼等が遠い場所から大事なぷに子を探してモヨリの森へ来たのを知っているエヴェリーテは、このまま見過ごす事は出来ない。

 今日は雨のせいでお茶会が中止になって落ち込んでいたが、逆に雨が降ってくれて良かったと感謝する。



「ぷに太郎さん! ぷに次郎さん! ぷに三郎さん! 私に任せてください!」



 これから大きくなる予定の胸を張り、堂々と宣言したエヴェリーテは急いで屋敷の中へ戻った。慌ててセストやぷにぷに三兄弟もエヴェリーテの後を追う。

 エヴェリーテが飛び込む勢いで入ったのは食堂。昼食の準備をしているララとアイは突然の乱入者に驚く。



「エヴェリーテお嬢様? どうされました?」

「まだ昼食は出来ていませんよ?」

「うん。まだお腹空いてないから平気。アイに教えてほしい事があって」

「何ですか?」



 ジャガイモの皮剥きを一旦止めてエヴェリーテの話を聞く状態を作ってくれた。



「アイがよく行くフルーツショップって何処にあるの?」

「フルーツショップですか? フィオーレ街の中心部にありますよ。屋根に大きなリンゴの看板があるのですぐに見つけられます」

「ありがとう!」



 それだけ聞くとエヴェリーテは飛び出して行った。「エヴェリーテ嬢! ぼくも行きます!」とセストはエヴェリーテを追い掛けて行った。エヴェリーテの行き先を知ったぷにぷに三兄弟も後を追う。

 一緒にジャガイモの皮を剥いていたララがどうしたのかなとアイに訊ねるも、さあ……としか言えなかった。



「待ってください! エヴェリーテ嬢!」



 屋敷の門の前でエヴェリーテを捕まえれたセスト。早く行って詳細な情報を求めるエヴェリーテに落ち着くよう告げる。



「エヴェリーテ嬢は、ぷに子さんの目撃情報を持つフルーツショップに行くつもりですよね?」

「私も店員さんに話を聞きたいんです」

「ぼくも同じです。だから、ぼくも行きます」

「ええっ」



 セストは王国の第二王子。平民界でも、彼の顔を知っている者は少なからずいる筈。姿を見せれば混乱になる可能性が否めない。だから、エヴェリーテは一人で行こうとした。

 ぷにぷに三兄弟も二人に追い付いた。



「あの! ぼく達もお供します!」



 代表してぷに太郎が同行を希望するも、彼等が来る方がもっと混乱になる。最弱の水色のぷにぷにと言えど彼等は魔物。魔物が街の中にいるとなると『騎士団』を呼ばれる可能性がある。

 混乱を避ける為にも、エヴェリーテは一人で行きたい。


 駄目です、行きます、と攻防を続けていると――。



「よしっ! おれに良案があるぞ!」



 ――!?



 突然、第三者の声が大きく響いた。


 屋敷の方からした聞き覚えのあり過ぎる声に一斉に振り返れば……



「ち、父上!?」

「王様!?」


「セスト! エヴェリーテ嬢! 今から準備をしよう!」



 セストの父親であり、ヴォルティス王国の国王ゲオルグが何故かいた。


 きっと、この場にウェルギリウスがいたら有無を言わさず城へ強制送還されていたであろう……。






 ――一方、用事で出掛けているウェルギリウスはというと。



「……」



 謎の白い空間にいた。

 床も、壁も、天井も全て白一色に統一された空間に於いて、他の色を持つのはウェルギリウスともう一つ。

 何かを抱き締めるようにして作られた巨大な女神の石像。抱いていたモノがない。そこにないという事は、一つの事実を突き付ける。



「ちっ……」



 ウェルギリウスは舌打ちすると踵を返した。

 思っていたよりも早く次の器を見つけ出してしまったらしい。

 名前のない物語に登場する聖なる女神“イーサ”の転生者が既に生まれしまっていたらしい。

 女神の転生者がこの世界の何処かにいるという事は、例の四人の転生者も生まれている筈。


 “終焉の魔王と正義の魔法使い”に登場するあの四人の……。






読んでいただきありがとうございました!


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