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ロリコンな保護者兼お師匠様に溺愛される  作者:
十歳編~波乱の幕開け~
2/34

第一話 転生した先の保護者は犯罪者レベルのロリコンだった



 


 ――と、いった感じで乙女ゲーム『終焉の魔王と正義の魔法使い』の冒頭を思い出し、窓に映る自分の姿に絶望する一人の少女がいた。


 

「う……そ……」


 

 テレビ画面越しから見た光景がやけにリアルだなと感じれば、プレイヤーだった筈の自分がそのキャラクターになっていた。青みがかった銀髪、くりくりの大きな青い瞳の美少女。主人公とメインキャラクターの前に立ちはだかる終焉の魔王の転生者ーエヴェリーテ=ナノ=ディグレット。

 

 事実は小説よりも奇なり。と言うが、全年齢版乙女ゲームの中でも最も過激で糖度が高い作品の――寄りにもよって――世界に終わりを齎す“終焉の魔王”の転生者に転生するなんて……。と起きて早々頭を抱えた。

 元の自分の名前は忘れてしまったが、死んだ原因だけは覚えていた。金槌のくせに、川で溺れていた子供を助けた代わりに流されてそのまま死んだのだ。

 もしも、此処が本当に乙女ゲームの世界なら、エヴェリーテとして生まれ変わった自分は、これから破滅への道を突き進む事になる。どうにかして回避しなければ、主人公とメインキャラクター達に討たれるか、バッドエンディングの世界を滅ぼす魔王になるかしかない。



「起きたか?」

「あ……」



 ノックもなしに部屋に入ってきたのは、冒頭の最後、死んだイーリスをエヴェリーテへ転生させた色気たっぷりの低い声の美青年。彼はエヴェリーテを見て怪訝な顔を、エヴェリーテは彼を見て顔を真っ青にした。何故なら、複数いる攻略対象全てのルート、スチルを解放しなければ攻略出来ない隠し攻略対象だからだ。全年齢版でも十七歳以上を対象にした大きな原因は、目の前の男にある。十八禁一歩手前のルートの彼とのやり取りは、何人ものプレイヤーを腰砕けにした挙げ句、イヤホンを付けて音量を大きくして楽しみたくてもあまりの色気っぷりに誰もが無音でプレイする始末。



「ほう……お前、イーリスじゃないだろ」

「!?」



 起床の確認の次の言葉がまさかの中身の否定とは。ぶんぶんとエヴェリーテが首を振っても、一目見ただけで別人と見抜いた男を騙せる筈もなく。顔を青くしたまま、エヴェリーテは静かに頷いた。



「ふん。長生きはするもんだな。駄犬への復讐心で一杯のイーリスの相手は、正直面倒だったからな。丁度良い。名前は何がいい?」

「……エヴェリーテ=ナノ=ディグレット」

「……中身が違っても、その名になるのか」

「?」



 最後、何と言ったのか分からないが男の表情は、一瞬だけ――哀れみに染まった。が、また普通に戻り。ベッドに腰かけたままのエヴェリーテの側まで来ると見下ろした。

 背が高い上に、美形だから威圧感が半端ない。



「な、なんですか」

「いや? 俺好みの容姿をしてるなと思ってな。俺が作った器なのだから、当然だが」

「は?」



 エヴェリーテの姿は約十歳位の少女だ。好み? ……嫌な予感を抱いたエヴェリーテは、口元を引き攣らせた。



「……好みって、何ですか」

「そのままの意味だが?」

「きゃっ」



 片手で容易く押し倒された。抗議の目を向けるも超絶美しい青年の顔が間近にあって息を呑む。恐怖と緊張で体を強張らせたエヴェリーテは、唇に温かく柔らかい何かが押し付けられているのに気付く。至近距離にある青い瞳と目が合う。



「ん……!?」



 微かに開いた口内へ間髪入れずに舌が送り込まれた。驚いて自分の舌を奥へ引っ込むも男の舌が逃がさないと絡まれた。

 約十歳の見た目をした少女に大人のキスをする男は、紛れもない――ロリコンだ。犯罪者レベルの。

 転生したて、子供、相手は大人の男。抵抗出来る筈もなく、男の気が済むまで大人のキスは続いたのであった。


 終わったのは数分後。顔を真っ赤に上気させ、呼吸を整えるのに必死なエヴェリーテを見下ろす青い瞳には、明らかに小馬鹿にしたようなからかいが含まれていた。



「はあ……はあ……っ」

「くく……どうだ。気持ち良かっただろ?」

「っ~~~!!」



 子供に何て事を教えようとしてるんだ!! ――と。怒鳴りたいのに、すっかりと体から力が抜けてしまったせいで声も出ない。出来るのは、睨み付けるだけ。体温が集中する頬に冷たい手が触れた。保冷剤みたいで丁度良いのに、相手がロリコンなので全然嬉しくない。



「おっと、俺の名前は必要か?」

「……当たり……前よ……」

「ふん……。ウェルギリウス=アルシュタート=セルディオスだ。そのちっちゃな頭で覚えられるか?」

「覚えられるわよ!」



 それ以前に知ってるわよ!

 そう叫べたらいいのに。世の中は理不尽だ。

 エヴェリーテは涙目でウェルギリウスを睨み続ける。

 触れるだけのキスを送ると「朝食だ」とだけ言い残し、部屋を出て行った。



「……」



 隠れ攻略対象にして、この乙女ゲームの世界最強の魔術師。“人外”の魔術師の名を欲しいままにしているあの男の方が自分より魔王として相応しい。と、エヴェリーテが実感するのはまだ先のお話。

 始まったばかりの新しい人生初日からファーストキスをロリコンに奪われたダメージは大きかったらしい。深いふかーい溜め息を吐いてエヴェリーテはベッドから降りて部屋を出た。

 出てすぐに思ったのは、ここ――もしかしなくても大豪邸でない? だった。

 長い廊下の左右には幾つもの扉があった。飾られている装飾品はどれも高そうで触らずにしておこうと堅く誓う。良い匂いを辿って歩いているとウェルギリウスがやって来て、食事の場所まで案内してくれた。……手を繋いで。


 どうして、こんな、見た目美青年で色気たっぷりの声の持ち主がロリコンなのか。そして、その対象が自分なのは何故か――。



「気が重いわ……」

「何か言ったか?」

「いいえ」





読んでいただきありがとうございました!

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