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リサーチャー 第二〇八研究室  作者: 東雲あずま
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なんとなくカリスマ

 一度の乗り換えがあったが、特に問題もなく、二人は大学に到着した。

 大学は春休み期間中のはずだったが、構内には白衣を着た在学生と思われる若者たちは多く往来していた。

 ギンヤはデバイスから大学マップをアップロードし、持ってきていた携帯ディスプレイに映し出すと、集合場所である大講堂に向かって歩き出そうとした。

 その矢先、後ろでカズヤが周りを見渡してうなり声をあげていた。

 どうしたのか気になり、カズヤに声をかけた。

「どうかしたか?」

「いや、これはなかなか。」

「なにが?」

「いやぁ、右を見ても左を見ても、きれいなお姉さんがたくさんいて。

 目移りして、だれに声をかけていいものか、迷ってんだよ。」

 カズヤが楽しそうな顔でそう返答すると、ギンヤはあきれ顔で言う。

「・・・先行くから、一人でやってくれ。」

 ギンヤは関わり合いにはなるまいと、早々に講堂へ歩き出した。

「ちょ、ジョーダンだよぉ。まてよー。」

 カズヤは先に歩いて行ってしまうギンヤの背中を、慌てて追いかけ、講堂へ向かった。

 追いついてきたカズヤと一緒に少し歩くと、かなり立派な講堂が二人の目に飛び込んできた。

 講堂の入り口で少し立ち止まり、入り口を見上げる。

 ギンヤが緊張した気持ちを和らげようと深呼吸をして入り口から入っていくと、カズヤも緊張していたのか、少し遅れて同じように建物の中に入っていった。

 講堂はかなり広く、データによれば二千席以上あるらしい。

 高校では体育館で集合させられていた高校生上がりたての二人にとっては、この広さだけでも圧巻であった。

 しかも、座席の半分程度はすでに生徒で埋まっており、その人の多さにも唖然させられていた。

 前方の巨大なスクリーンに【前へ詰めて座ってください。】と表示されており、二人は前方の席に腰をおろした。

 驚くことに、映画館や電車の座席のような窮屈な感じは全くなく、十日分の合宿の着替えを持っていても、十分ににゆとりをもって座ることができた。

 二人が座席に座り、少し話をしていると、前方のスクリーンが消え、講堂内の明かりが強くなった。そして前方の教壇に何名かの白衣の教員たちが上がり、挨拶と今日から行われる合宿の説明が行われていった。

 各教員から一通りの説明が終わると、また会場は少し薄暗くなり、前方のスクリーンに一人の男性が映し出された。

 四十歳前半くらいだろうか、少し茶色がかった髪を後方に流して縛っている男性が映し出される。その男性は、大学の学長であると、ギンヤが事前のデータで確認していた。

 一呼吸おいて学長が話し始めた。

「えー、名古屋工科大学、学長のコダマです。今日は早い時間からご苦労さんです。」

 ギンヤは、学長というとかたっ苦しいイメージを持っていたが、コダマは適度なユーモアを含んだ口調で、大学の成り立ちや、現在行われている研究内容などを説明してくれたのだった。

 その話に、カズヤはもちろん、ほかにも周りの何人かの生徒は、声を出して笑いながら聴いていたのだった。

 話が終盤になると、コダマは少し真面目な表情で、みんなに語り掛けてきた。

「最後に。

 これから行う合宿では多くの出会いがあると思います。

 大学ではこれから四年、長い人では十年かそれ以上の付き合いになるでしょう。

 そのための合宿です。

 一つ一つの出会いを大切にして、有意義な研究者生活を送ってください。

 名古屋工科大学教職員、教授、先輩一同は、皆さんを歓迎します。」

 優しい口調でそう締めくくられ、スクリーンがオフになる。

 はじめは少し緊張した雰囲気に包まれていた会場は、その緊張感が和らいでいた。

 周りの生徒たちの表情も少し誇らしげに、晴れやかに見えたのは、ギンヤ自身も同じ気持ちになれたからなのかもしれないと感じていた。

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