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36-40

―――36


 セロイアと鵺は霧の端でじっと待っていた。

 魔力を外へ流していくセロイアを鵺は肩に登って見ていた。もうどれほど経ったかわからない。もしかしたら既に夜も明けているかもしれない。けれど霧の夢から出る為だ。仕方がない。鵺は固唾を呑んでセロイアの行動を見守っていた。



―――37


 動きがあった時、鵺は半分眠りかけていた。セロイアの顔を見上げるとじっとりと汗が浮んでいる。鵺はのん気に今何時だろうかと考えていた。

「ク……」

「シュバイトさん、釣れましたよ」

 何が、と問う前に鵺とセロイアは霧の向こうへ引っ張られた。

 鵺は霧を抜ける時に奇妙な感覚に捕らわれた。普段なら抜けると同時に現実に戻っていく。だがクマの中に入っている為なのか、鵺は意識がはっきりしないまま霧の中を抜けていった。



―――38


 鵺の上着を羽織ったまま、眞子はいつの間にか眠りについていた。目を覚ました時には周囲に何も音がなく、色もなく、一瞬自分が何処にいるのかを忘れた。

「……二人はちゃんと目的を果たせたかなあ」

 ぼんやりと靄がかかった思考の中で、鵺とセロイアを思った。それから自分はどれくらい夢の中にいるのだろうということだった。いつもなら既に現実へ戻っている時間だ。眞子は誰かが自分を奥底から呼んでいるのを感じていた。だがそれに答えるわけにはいかない。

 少なくとも今はまだ。

「鵺さん。セロイアさん。……頑張ってね」



―――39


 声が強く、強く響いている。

 眞子の名を呼ぶ声がする。

 拒絶しなくちゃならないと眞子はその声に背を向けた。今、彼女がするべきことは、しなくてはと思うことは鵺とセロイアの世界を救うことだ。


 握ったぬいぐるみからも声は響く。

 眞子の許へ届けられるその声は、鵺の硬質なもの。

 あちらの世界に無事渡れたらしい二人を心配して眞子はウサギの耳をくしゃくしゃに握る。次に呼ばれるまで、眞子は大人しく一人、その場で待ち続けた。



―――40


 眞子を呼ぶ声が薄れた頃、夢から出た鵺たちにも進展があったようだ。眞子は呼び声が掛かるのを待ちながら、かすかに聴こえてくる二人の声に耳を澄ました。

 鵺ではなくセロイアの声が響いてくる。別の魔女に会って、しかもすぐに臨戦態勢に入ったようだ。姿は見えないけれど、眞子には何故か現場の様子が手に取るようにわかった。それもウサギのぬいぐるみが媒体となっているのかもしれない。

 セロイアはクマに身をうつした鵺を手にしているらしい。愚痴を言う声が眞子の耳に届く。鵺らしいと眞子が笑みを浮かべると、突然名前を呼ばれた。

『眞子さん』

「わ!」

『あなたの力を貸してください』

 セロイアの声が霧の其処かしらに響いた。驚く眞子に、セロイアは静かに続ける。

「な、何をしたらいいのかなあ」

『僕の言葉を復唱してください』

「それでいいの? もっと複雑なことがあるのかと思ってた」

『緊張しなくてもいいんですよ。ただ、人形をしっかり持っていてください』

「うん、わかったよ」

 眞子は深呼吸をすると、響いてくるセロイアの言葉を一言一句間違わないように復唱し始めた。



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