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31-35


―――31


 眞子は見た。

 本当の魔法を見た。

 変化していく様子を見た。

 手を重ねたクマと鵺に変化が現れたのはすぐのことだ。

 鵺の茶色の髪はもっと明るい色に、鵺の藤色の瞳は漆黒に。背丈こそ変わらないが、眞子を見て浮かべた微笑に眞子は心底驚いた。

 そして一番驚いたのは、

「おい、成功したのか?」

「はい」

 クマから鵺の声がしたことである。



―――32


「うわー、クマちゃんが喋ってる!」

 思わず眞子がクマの体を持ち上げると、クマは体を暴れさせる。

「こら、眞子! クマじゃねえ、俺だ。鵺だ。今こいつに体を貸してるんだよ」

 クマを抱きすくめようとした眞子は行動をとめた。

「そっか、そういえばそうだったね。じゃあ、えっと今鵺さんの中にいるのがクマちゃん?」

「はい」

 にっこりと微笑む鵺に若干眞子は頬を赤らめた。

「こんにちは、眞子さん。僕はセロイア=フォン=カルツォーネ。先読みの魔女をしています」

「こ、こんにちは。鵺さんなのに別人の声が聞こえる。すごーい。それに格好いい~」

「おい、眞子。それは俺の体だぞ」

 クマ、もといクマの中にいる鵺が言うと、眞子は怪しい笑いをする。

「そうだけど~、鵺さん笑わないんだもん。この笑顔でこそ鵺は相応しいんだよ」

 にまにまと顔の筋肉を緩めた眞子にセロイアはやさしく笑う。それは鵺の体ではあるが、中身が異なると表情も違うものになるらしい。

「あ、でも、魔女って言ってたのに、男の人なんだね」

「ええ。魔女というのは僕たちの総称なんです」

「へえ、えっとそれで……」

「おーい、それよりも次を早くしないといつまでその姿になれるかわからないんだぞ」

 鵺が二人の下から叫ぶ。クマのぬいぐるみから聞こえる鵺の声に、眞子とセロイアは顔を見合わせて笑った。

「そうでした。では、次に行きましょう」

 そして鵺の姿をしたセロイアはクマになった鵺を手にとって、肩に乗せた。



―――33


「次に、この体を夢から覚まします」

 肩に乗った鵺さんが首をもたげた。

「もう結構時間が経ってるけど、大丈夫だろうな」

「ええ。おそらく。眞子さん、貴方は此処に居てください。ええと……シュバイトさん、これを借ります」

 セロイアが鵺の体から上着を脱いで眞子に渡した。

「持っていてください。貴方と僕たちを繋ぎます。それではお願いします」

 セロイアが深く頭を下げる。その拍子に落ちそうになった鵺が必死で本来の自分の体によじ登る。眞子はその様子に笑って、手を振った。

「いってらっしゃい」



―――34


 夢と現実の挟間には濃い霧がある。セロイアは霧の中に手を突っ込んだ。だが、ピリリと痛みが走り霧の中に手を入れることが出来ない。

「どうした。何故通れないんだ」

 鵺が問うと、その頭をセロイアは撫で付ける。

「魔力があるから通れない。この体に魔力はないけれど、中身は僕だ。それでは駄目らしい」

「駄目らしいじゃない、どうするんだ」

 セロイアの耳元で鵺が叫ぶ。だが動じた風もなく、魔女は霧を見つめた。鵺は自分の体に誰かが呼びかけているのを感じた。それは鵺の体に入っているセロイアにも感じられているはずだ。

「……リリンが呼んでる」

「……そのようですね」

「手はあるのか」

 セロイアは霧に指を一本差し込んだ。

「あっ!」

 その指からセロイアは魔力を外に流す。ほんの微量、余程注意していないとわからない量の魔力を外へ流し込む。

「手はありますよ。内から開かないなら外から開けさせます」

 鵺に向ってセロイアは悪戯っ子のように片目を閉じて見せた。



―――35


 眞子はウサギのぬいぐるみを抱きかかえていた。鵺もセロイアもいなくなってしまった。物音がしない。それが妙に寂しくて、眞子を不安にさせた。

 一人はいやだ。

 一人は怖い。

 ぬいぐるみを握る手に力がこもる。

 鵺の上着に袖を通すと眞子はふいに笑いがこみ上げてきた。

「おっきい……」

 大丈夫、まだ繋がってる。

 眞子は祈るようにして手を組んだ。



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