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26-30

―――26


 一人になったクマはやはり、ぴくりとも動かなかった。

 それは電池の切れた玩具のようにも思えた。けれどクマは全く動いていないわけではなかった。眞子や鵺がいなければクマは体は動くことが出来ない。しかしクマの心は動いていた。

 表情からは到底窺えないクマの感情が、その内面には渦巻いていた。

 クマは知っている。鵺が何者で、彼の世界で本当の意味で何が起こっているかを知っている。眞子が別の世界の人間で、けれどクマには必要だということを知っている。

 クマは、霧の中で一人闘っていた。



―――27


 その日、眞子が顔を出すと鵺とクマが話し込んでいた。と言っても、クマの方は筆談なので喋っているのは鵺の方だけだが。

「二人ともなんのお話?」

 眞子がひょっこり顔を出すと、鵺は少し表情を固くした。聞かれたくないことだったのかと眞子は思い、二人から距離を取ろうとしたがそうではなかったらしい。クマが眞子の手に触れた。

「居ていいの?」

「居ていい。眞子にも手助けしてもらわないといけないんだ」

 鵺がおいでおいでをする。眞子は嬉しくなって笑顔になった。

「眞子、今から俺達は俺達の世界の均衡を戻す為に夢から出なくてはならない。だけど、このクマは今それが出来ない」

「うん」

 クマが申し訳なさそうに項垂れる。鵺はクマを横目にまだ説明を続けていく。

「だからこいつを夢の外に一時的に出して、こいつに掛かっている魔法を解くことにする」

「そんなこと出来るの?」

 眞子は目を大きく開いて驚いた。クマは魔女だと聞いたが、今は使えない状態だと聞いたばかりだ。鵺に魔法が使えるとも聞いたことがない。もちろん眞子にも使えない。

「普通は出来ないが、試してみたいことがある。眞子、手伝ってくれないか」

 鵺が眞子の頭にポンと手を置いた。



―――28


 鵺の秘策、それは手の中にあった。

「鵺さん、そんな痣あったっけ?」

 鵺の掌には奇妙な紋様があった。そんなものがあっただろうかと眞子は首を傾げたが痣ではないと鵺が眉を顰めた。

「これは夢の外、現実から持ち込んだ魔方陣だ。クマの娘が今、俺の家にいるんだよ。話をして策がないか訊ねたらこの魔方陣をくれたんだ」

 鵺がクマを盗み見ると、どこか嬉しそうに見えた。

「この魔方陣の使い方まではわからないから、ここからはクマに任せるが、計画の説明を簡単にしておく」

「うん」

 意気込む眞子は鵺の言葉に耳を傾けた。

「まず、俺の体をクマに貸す」

「うん」

「クマが元凶を倒す」

「うん!」

「それで終わりだ」

「えー! 計画じゃないじゃない」

 眞子は力いっぱい叫んだ。だが鵺はしれっと答える。

「細かい所は魔女じゃないから説明できんし、しても眞子にはわからん」

「だからってあんまりだよ。大体それじゃ、私は何を手伝えばいいの」

 折角の意気込みが萎んでしまう。眞子は脱力して項垂れた。



―――29


 クマが文字を連ねていく。

 そこには世界に起こっている出来事と何をしなくてはならないかが記されている。正直な話、鵺にはそれが真実だと言われても信じられない。しかし実際に自分はクマに会い、現実世界での悲惨な状況を知っている。そして何よりクマの娘に会っている。信用するしか他にない。

「なあ、クマ。この魔方陣でどれくらいの時間が持つんだ?」

 今、眞子は居ない。一度目覚めてもらい、あることを頼んでいるのだ。すぐに戻ってくるが、その間に鵺は出来るだけ細かい状況をクマに教えてもらっていた。

 クマが紙に“わからない”と文字を記した。

「……リリンはさ、お前のこと口では何ともなく言っていたけど本当はすごく心配してるんだと思う。気配がないということはこの世にいないってことなんだろう。姿を見せて元気なところ見せてやれよ」

 クマは鵺をじっと見上げた。その様子が可笑しかったのか、鵺は微笑を浮かべる。藤色の瞳がクマを見つめていた。



―――30


「よーし、眞子。でかした」

 眞子の手にはウサギのぬいぐるみが握られていた。

「しかし悪いな。使ってもいいか」

「いいよ。この子も何かに使ってもらえるなら本望だよ。それで、私は二人を待てばいいの?」

「ああ。時期が来れば都度説明をする」

 眞子は鵺にぬいぐるみを持ってきてくれと頼まれたのだ。鵺が現実から魔方陣をもって来れたなら、眞子にもそれを持ってきてもらうことが可能だと判断したのだ。そしてちゃんと眞子はウサギのぬいぐるみを持ってきた。

 クマより少しだけ小さなウサギのぬいぐるみ。クマがウサギを覗き込んで、その下敷きになる。

「こら」

 鵺がクマを持ち上げて、膝の上に座らせる。

「クマ――じゃない、先読みの魔女よ。始めてくれ」

 眞子が見つめる中、鵺の魔方陣の書かれた手がクマの手と重なった。


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