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46-50

―――46


『セロイア=フォン=カルツォーネ』


 クマが突然煙に包まれる。すぐにそれは消えるが、そこには眞子の見たことのない男の人が立っていた。

「セロイア!」

「やあ、リリン。やーっと会えた。眞子もありがとう」

 やさしい表情で微笑むセロイアは、鵺の体に移ったときのようにオレンジ色の髪をしていた。

「その前に俺の上からどけ。重い」

「ああ、ごめん」

 気付けばセロイアの下敷きになっていた鵺が抗議の声を上げる。

「シュバイトさんもありがとうございました。助かりました」

「こっちはいい迷惑だったけどな」

 巻き込まれた形になった鵺は心底嫌そうな表情を作った。リリンを押し付けられて、体も貸してやる羽目になって、散々だったのだ。それもある意味当然と言える。だが、それだけでもなかったとも思った。

「まあ、俺でも世界救済に手を貸せたのなら、悪くはないが」

「素直じゃないわね、シュバイト」

「うるさい。お前が主に迷惑をかけてくれたんだぞ。先読みの魔女、こいつをさっさと引き取ってくれ」

「何言ってるのよ。あたしは迷惑なんてかけてないんだから」

 鵺とリリンが口論を始める様を、セロイアは笑いながら見ていた。それはとても幸せそうな笑顔に、眞子には見えた。



―――47


 鵺とリリンの喧嘩が終わると、セロイアが眞子に話しかける。

「眞子さん、僕らの世界のことに巻き込んでしまいすみませんでした」

「ううん、いいよ。魔法使えたし、それに私もつらい時に助けてもらったから」

「そう言ってもらえると助かります」

 セロイアがそのやさしい表情で微笑むと、眞子もはにかんだ笑みを浮かべた。

「セロイアさんはもう、行っちゃうの?」

「そうですね」

 眞子もセロイアも互いに寂しいと思った。だが二人ともそれを口にはしない。口に出してしまえば、眞子は泣いてしまいそうだったしセロイアは別れがたくなることが目に見えていたからだ。

「鵺さん……じゃなくて、シュバイトさん」

 眞子がはじめてちゃんと彼の名前を呼んだ。呼ばれた鵺は珍しく屈託のない笑みを浮かべる。

「やっと覚えたな」

「うん。やっと覚えられたよ。私、シュバイトさんがやさしいってこと知ってるよ。いっぱい助けてもらって嬉しかった。ありがとう」

「それなら俺の方こそ、助けてもらったよ」

 何もした覚えがなくて眞子が首を傾げると、鵺ことシュバイトは眞子の頭をわしゃわしゃと掻き回した。

「俺でも誰かを助けられるってことを教えてくれた。ありがとう。元気でやれよ」

「……うん!」

 眞子は大きく元気よく頷いた。



―――48


「ところでシュバイトさん」

「ん?」

「娘を預かっていただいてありがとうございました。貴方なら護ってくれると思っていました」

 リリンとシュバイトは顔を見合わせる。護る護られる関係ではなかったはずだが、と二人は思ったのだ。だがセロイアは二人の様子など気にした風もなく喋り続ける。

「誰かと共に居ることは苦痛ではなかったでしょう? リリンも、人が上辺だけではわからないことを知ったでしょう?」

 二人はまたも顔を見合わせる。その顔には何故か複雑な感情が乗せられていた。二人の関係をよく知らない眞子は面白そうに笑っただけだった。

「なんで俺を選んだんだ?」

 眉間に皺を寄せてシュバイトが訊ねる。眞子も続いて手を挙げた。

「あ、それは私も教えて!」

「期待されても深い意味がある訳ではありませんよ。二人とも僕の先読みによって選んで、眞子さんは加えて魔法の存在を否定しない存在であったからです。言わば二人とも必要な存在だった。そういうことです」

 セロイアは説明をしたが、眞子とシュバイトは納得いかないような顔をした。それを予想済みだったのだろう。セロイアは嘆息するだけに留めた。

「でも、選んでくれてありがとう。夢の中しか会えなかったとしても、とっても楽しかったよ」

 それでも眞子は笑顔を作り、まもなく訪れるであろう別れに備えた。



―――49


 眞子と三人が向かい合わせになって立っている。

 セロイアとリリンは杖を手に、掲げた。

「それでは、本当にお世話になりました。眞子さん、元気で」

「うん。セロイアさんも、シュバイトさんもね」

「ああ、……これをやろう。俺にはもう必要のないものだ」

 シュバイトが首から提げていた星型のペンダントを眞子の手に落とす。子どもの玩具のような代物で、不思議に思った眞子だが彼の表情が思いの他やわらかいもので疑問は口にしなかった。だがシュバイトの方から簡単な説明をくれた。

「これは俺に昔仕えていたメイドがくれたものだ。幸運のお守りだよ。つらい時はそれを見て俺達を思い出せ」

「ありがとう。大切にするよ」

 手の中にしっかりと握りこんで、眞子は礼を言った。


「それでは、眞子さん」

「はい。さようなら」

 霧の夢が晴れる時がやってきた。

 眞子は笑顔で別れを告げる。

「またいつか、夢の中で会いましょう」

 セロイアは一度目を伏せて、やさしい表情を浮かべた。

「じゃあな」

 シュバイトは明るく叫び、眞子に手を振る。


 そしてセロイアとリリンがより高々と杖を掲げた。



―――50


「……おい。なんで、また霧の中なんだ?」

 くたくたに疲れ果てて眠りについたシュバイト=フォン=アルカデッタは夢の中でうんざりとぼやいた。霧の夢から離れたはずなのに、その日彼は過去に何度も通った夢への道を歩いていた。


「あれ? 見たことがあるような……?」

 名誉の負傷を負っても毎日を強く過ごしていた佐久眞子はその日、霧の夢の中にあった。見覚えのある懐かしい夢はもう見れなくなっていたはずなのだ。しかし、彼女は其処に居た。


 やがて二人は相見え、

「お?」

「あ、シュバイトさんだー」

「元気にしてたか」

「はいー。そっちこそ」

「ところで何故こんな所に居るんだ?」

「それは私が訊きたいです」

「……はあー。今度は一体なんなんだよ」

「それはあの人に訊いてみましょうか」

 笑い合い、

「……ああ」

「ねえ」

 彼を呼んだ。



【了】


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