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陸軍少年学校物語  作者: 崎ちよ
第11章  如月「戦火ノヨカン」
68/81

第68話「ごっこ」

 パタン。

 バインダーが机の上に置かれる。

 それに挟まれた文書を見て申し訳なさそうな顔をする日之出晶(ヒノデアキラ)

 決裁と書かれた四角い枠の中は空っぽのままだった。

「誤字が多い、副官にしては珍しいな」

 中隊長である佐古少佐がそう言って彼女の肩を叩こうとした。

 だがすぐに思い直し引っ込める。

 彼は女性がいる職場にまだまだ慣れていない。

 癖なのだ。

 でも、そういうご時世ではないこともわかっていたので途中で思いとどまっていた。

「最近、疲れているのか?」

 部下を気遣うのも上司の仕事。

「すみません……」

 彼女はそう言うと、ページをめくり、赤色のインクで書きなぐられた文字を見てガクリと首を落とした。

 初歩的なミス。

 見返せばすぐわかるようなミス。

 佐古の字で赤線と赤い文字が記入されていた。

「急ぎだったら、もう押しとくけど」

 人差し指と親指で印鑑を握るような仕草を佐古。

 顔を横に振ってますます申し訳なさそうな顔をする晶。

 らしくない。

 そう彼は思う。

 こんなミスはめったにしない。

 しかも、こんな弱気な感じを上司である中隊長にも見せたことはない。

「中隊長、気にしないでください、男です、お、と、こ」

 ため息まじりに意地悪な声を出したのは、向かいの席に座っている同僚の真田鈴サナダスズだ。

「何? 彼氏!」

 と反応する佐古。

 浮いた話が全然ない部下なのだ。

「日之出中尉は年末ぐらいにできた幼馴染な弟以上恋人未満な彼氏のことが……て、危ない! なにすんの、晶」

 消しゴムがペコンと音を立て壁にぶつかる。

 恐怖で鈴の意地悪いニヤニヤ顔が固まっていた。

 彼女は次に罵声がくると思って身構えるが、何も起こらない。

「別に、そんなんじゃ……」

 いつもだったらもっと強い言葉で攻めてくるはずだが、どうも勢いがない。

 固まった鈴のニヤニヤが動き出した。

 今日の晶は大人しい、いける……そう思ったからだ。

「相手は?」

 コソコソっとした声を出す佐古。

 それは彼も同じだったらしい。

「海軍陸戦隊の大川少尉(クソヤロウ)、なーんであんなのと、と思うような男です」

 鈴のニヤニヤ顔が佐古にも伝染した。

「あ? あれか、あの小僧か? ……あんなのが好みなのか」

「そーなんですよ、幼馴染とかそんなんで」

 ちなみに鈴も例の男と付き合い始めた時は、さんざん晶や佐古にいじられたものだ。

 いざかたき討ちという感じである。

「副官、仕事とプライベートはなあ、分けないと」

 佐古は嬉しそうに、おやじ臭むき出しの言葉をかける。

 部下のくせにいつも強く出てくる副官が弱くなっている。

 彼はこの好機を逃すまいと心に決め、ここぞとばかりに逆襲をしているのだ。

 まったく了見の狭いおっさんである。

「なになに? おじさん、相談に乗っちゃうよ、これも中隊長としての指導の範疇だから、遠慮なく」

「遠慮します、それにそれ以上言うとセクハラで、公益通報します」

「むぐう」

 セクハラかどうかはわからないが、女性がそう言うと何も言えなくなる佐古である。

 なにせ、男くさい歩兵部隊ばかりを回ってきたのだ、女性がいる職場が苦手だった。

 困った顔をして佐古が黙っていると、鈴はチラッと晶に目配せした後にしゃべりはじめる。

「金沢の海軍陸戦隊、一個小隊がサンクトペテルブルク付近の軍港の警備に参加するそうです」

 野中少佐たちモスクワにいる日本帝国軍遠征旅団。

 この部隊の兵站線はサンクトペテルブルク付近の軍港から海軍の輸送船などを介して本国と繋がっている。

 この軍港の警備に海軍陸戦隊の一部を増援する動きがあるのだ。

 佐古が天井を見る。

「そのダメ彼氏が行くのか」

「ダメどころかクズなんですが……らしいです」

 キッと佐古と鈴を睨む晶。

「べ、別に、あの子が彼氏になったとかそういうことじゃなくて、幼馴染の子がそういう任務で派遣されるから心配で……」

 と言う。

 ダメとかクズには言及しない。

 ニヤつく鈴と佐古。

「あの子……ですって中隊長、もう重症ですよ」

 ぷぷぷって顔をする鈴。

「べ、別に……とかプププ」

 ふたりは向き合って笑いをこらえた。 

 顔を真っ赤にして佐古を睨む晶。

「あ、こっちだけ」

 自分だけ睨まれた彼は焦った。

 彼女が涙目になっているのも手伝っている。

「いや、ごめん、ほら、真田中尉も謝って」

「……ごめん、晶、ごめん」

「……」

 逆転。

 こんな顔をした晶を佐古は見たことがなかった。

「軍港の警備だろ、ほら後方地域だし、全然危険じゃないよ」

 涙目のまま睨む晶。

「軍港なんて、防空態勢もすごいことになってると思うし、ソ連もそっちまで手が回らないよ」

 後方地域。

 ふと佐古は表情を硬くした。

 ――後方地域だから大丈夫だ。

 二十年前、そういう言葉を聞いた覚えがある。

 ――飛騨まで下がれば大丈夫。

 佐古はギュッと拳を握りその声をかき消した。

 もちろん晶に心配させないよう表情は変えることなく。

「出発は?」

 晶が視線を下げる。

「来週です」

 佐古は晶の頭に手を置いた。

「今日から来週まで休め」

「……でも」

「彼氏がバタバタして休みとれないから休む必要はありませんとか言うなよ」

「……」

「送る方が余裕を持つことは大切だ」

「……しかし」

「でも、も、しかしもない」

 佐古が大きく息を吸う。

「いいか、そりゃ野中少佐とかは……向こうは予備だって聞いてるが、予備ってのは投入されるためにあるからな、ドンパチが始まればやられるかもしれない、軍港勤務……後方地域だって何もないわけじゃない、さっきは安全だとか言ったが、ゲリラは後方地域を狙っているから安全とは言い切れない、野中少佐に比べれば百倍安全かもしれないが、ゼロじゃない」

 晶が鈴を見て、そして佐古を見た。

「いいから休暇簿に印鑑押してこい」

 頭の上の手を離す。

 そして、事務所の前の人の気配に気づいた。

「あ、第二中隊伊原少尉は第一中隊に文書を届けに」

 佐古と目が合ったのは隣の中隊の女性小隊長である伊原少尉だった。

 長身がクイッと折られ、お辞儀の敬礼をする。

 ――あっちゃ。

 佐古は頭を抱えそうになった。

 さっきの自分の言葉を聞いていたのかもしれない。

 伊原少尉の様子がいつもと違う。

 ――こっちをなだめたら、今度はこっちか……野中少佐のことが、アレだとか……そういえばそういうこと言ってたなあ、お隣の中隊長。

「……の、野中少佐って……あの、そんなに危ない場所にいるんですか?」

 彼女の少しぷっくりとした唇が不安そうに動く。

 佐古は首を振った。

 安全な場所なんてない。

 二十年前の自分がそう言っている。

 ロシア帝国軍とソヴィエト軍の最前線だって。

 モスクワ近郊にいる帝国陸軍の遠征旅団も。

 サンクトペテルブルグに行く海軍陸戦隊の若いのも。

 この国にいる俺たちも。

 そして、ふと彼は思った。

 どうもおかしい。

 あの陸軍少年学校の特集番組を見てから。

 飛騨に同期三人で行ってから。

 ずっと不安ばかり募り、そして今みたいに悲観的な考えになる。

 まだ、ロシア帝国とソヴィエトが開戦するとは決まっていない。

 いつものように国境付近のにらみ合いやちょっとした紛争で終わるかもしれないというのに。

 あれから、こんな感じなのだ。

 なぜか敏感になりすぎている。

 そんな考えを断ち切ろうと、彼はもう一度顔を横に振った。

 佐古は硬い表情を崩し、笑顔を伊原に向け、心配することがないように話しかけた。



 ■□■□■



 休日。

 いつもの喫茶店に集まる陸軍少年学校の学生達。

 ただ、いつもと違うのは、その中に金澤中央高校の学生服の女子がいるということ。

 そんな彼らはテーブル席を占領するように座っている。

 陸軍少年学校一学年男子の上田次郎、松岡大吉、宮城京。

 女子は中村風子に三島緑、そして留学生のサーシャと山中幸子。

 あと、金中の制服を着た瓜生三和(ウリュウミワ)の八人である。

「作戦会議にあたり、今回はブレインストーミングの方法をとるから」

 次郎がそう言うと一枚の紙をテーブルの上に置いた。

「なにそのブレインストレートって」

 両肘を机に置いたままメロンソーダーをチュウチュウしているのは大吉。

 お行儀が悪い。

「ストーミングだ」

 大吉に肩パンチ。

「横文字にすればなんかすごそうに感じるが」

 冷たいツッコミを入れるのは京。

 クイッとその銀縁の細いシルエットの眼鏡をあげる。

 一学年学生長だけあって、知的な感じがする動き。

「英語わからん」

 ロシア娘が拒否反応。

 次郎は、ふたりには目もくれず言葉を続ける。

「ルールは簡単、ひとつ、相手の意見を否定しない」

 テーブルの上に書かれている文字を指さした。

「ふたつ、奇抜な考え大歓迎、みっつ、相手の意見に便乗おっけー」

 あっそ。

 そんな感じで次郎を見る面々。

「……なんか、いつもとどう違うかわかんない」

 緑がボソッと言う。

 会議とか話し合いとか、そういうことに慣れていない子たち。

 そういうものにルールがあるとか、そんな感覚がないのかもしれない。

「ルールがないと話が拡散するから」

 と次郎。

「相手の意見を否定しないとか……論点拡散しまくりじゃねえ」

 大吉が紙にあるその項目を指さしながら口を尖らせた。

「だから、相手の意見に便乗するんだ、書いていないけど話の腰を折るのは厳禁」

 コホン。

 京の咳払い。

「まあ、とりあえずやってみようか」

 さすが学生長。

 話を進めるのがうまい。

「で、司会は京でいい?」

 もちろんそれに便乗する次郎。

「……わかった」

 いい奴である。

「議題はここにあるから」

 バン。

 テーブルに差し出される二枚目の紙。

『敵は何の目的で何を目標とするか』

 チラッとそれを見たサーシャがしゃべった。

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」

「なにそれ」

 大吉が頭の上に疑問符が浮かんでいる。

「孫子」

「ソンシ」

「何それ、ロシア人?」

「日本人のくせに知らないとか」

 侮蔑の色が浮かぶサーシャ。

「いや、サーシャ、中国人だから、そのひと」

 突っ込みを入れるのは次郎。

「あ、今『相手の意見を否定しない』を破った」

 金髪の下にある青い目がジト目になっている。

「否定じゃない、事実を」

 と。

 ブレインストーミング。

 子供たちには難しい手法である。

 わいわいやっているうちに、コホンと咳払いする京。

 司会。

 そんな京が口を開く前に、ずっと沈黙していた三和が口を開いた。

 いつも横に髪を結んでいるが、今日は珍しくしていない。

「敵は仮置きだけど、コミュンテルンの工作員、ソヴィエト本国の日系人かもしれないし、極東共和国の人間かもしれない」

 その言葉にビクッとする幸子。

 極東共和国からの留学生だから無理はない。

 もちろん、そんなことは三和も知っているが容赦しない。

「極東共和国って、山中さんもいるんだから」

 そう次郎が抗議するが三和は目を合わせない。

 留学生なんて、その国の情報組織の末端である。

 そんな人間をどうしてこの話し合いの中にいれているのか、三和はそこが気に食わないのだ。

「共和国は……テロとか、そういうことはしない、今回は中立を表明しているし、わたしも……」

 幸子が苦しそうに言葉を出す。

 何を言っても、白々しく聞こえるかもしれないと思ったからだった。

「幸子ちゃんを信じる」

 そう言って手を握ったのは緑だ。

 幸子を見つめる目が潤んでいる。

「わたしも」

 風子はそう言った。

「サチコが嘘をついていないことは信じる、極東共和国が関わるかどうかは別にして」

 冷静な声のサーシャ。

「……」

 三和は口を閉じたまま。

 司会の京が本題に入る。

 何を目的にするのかは全会一致で『日本帝国軍の撤退』だった。

 次に目標。

「では、その目的を達成するために、学校で目標となるのは」

「はーい」

「次郎」

 挙手が早い次郎。

「俺たち」

「……あ、そう」

 と大吉。

「ありえない」

 とサーシャ。

「ほら、便乗しようよ、あっそうですませず……それにロシア娘、いきなり否定しない」

「へいへい」

「はいはい」

 誠意の欠片もない二人の返事。

「じゃあ、もし俺たちが殺されたら」

 京が話を続けた。

 さすが、学生長である。

「親が悲しむ」

 と緑。

「ブラコン姉が悲しむ」

 と風子、チラッと馬鹿にした視線を次郎に送る。

「ミハイルお兄上様が悲しむ」

 と大吉。

 あ、それはサーシャお嬢様だけだっけ。

 と余計なことを言ったため、彼女の蹴りがテーブル下で炸裂した。 

「きっと、怒るんじゃないかな」

 風子がそう言うと、幸子もうなずいて口を開いた。

「ソヴィエト許すまじ……って」

「国際社会も敵にまわす、少年少女を殺した悪逆非道な組織だ、と」

 三和が棒読みに近い抑揚のない声でそう言った。

「だからありえないと言った」

 次郎に対して勝ち誇ったような顔をするサーシャ。

「それで戦争やべーよやべーよってならない?」

 そう言ったのは大吉、次郎側につくようだ。

「わたしたちはそうなるかもしれない」

 風子がそう言って顎に右手の人差し指を当てた。

「……でも、お母さんとか二十年前の戦争を知っている人は、やられたらやり返すというかもしれない」

「風子さんがそう言うなら、そうだ、きっとそーだ、俺風子さんの味方」

 大吉はそう言ってすぐに意見を変えた。

 まあ、どうでもいいことなのかもしれない。

 あまりにも現実離れした光景だから想像できないのだろう。

 彼ら学生達が血を流し、四肢が切断され、倒れている。

 戦場だったらそこらへんで見かけるであろう、そんな姿は。

「大吉……はや」

 もはや次郎はツッコミを入れることしかできない。

「もしかしたら、あの戦争を知っているからこそ、大きな悲劇になる前にやめようと言う人がいるかもしれない」

 幸子がそう言う。

 彼女達は大きな声でけっしてあの戦争を否定できないが、祖父を戦争で亡くした祖母がぼそっと『戦争さえなければ』と言っていたのを思い出していた。

 祖父は、新潟から富山を抜け、飛騨の方で戦死したと聞いている。

「でも、たくさんの人が怒ると思う」

 緑が口を開く。

「悲しむ人もいっぱいいると思うけど、怒りに向かうエネルギーの方が大きいと思う」

「よりリスクが低くて確実なものを狙う」

 三和がそう呟くように言った。

 こうして『目標俺たち』の話は終わる。

「ほか」

 京がそう言うと、手も挙げずに大吉がしゃべり出した。

軽歩兵補助服(ケイホ)、あれ一応最新兵器だろ」

「どこにでもあるんじゃない?」

 とサーシャ。

「うう」

 唸る大吉。

「つぎ」

 京が容赦なく大吉の議題をぶった切った。

「サーシャ、前も狙われてたし」

 と言ったのは緑。

「サーシャ狙ったって、うちの国はどーとも思わないんじゃね?」

 次郎がそう言った途端、悲鳴を上げる。

 テーブルの下で、キックがさく裂していた。

 足癖の悪い美少女。

「むかつく」

 と彼女は言い放った。

「まあ、あの時は私を襲ったのはあいつだし、それに狙いは私の国との関係悪化」

 じっと彼女は青い瞳で三和を睨むが、そんな相手はまったく動じない様子。

「仕事」

 淡々とした口調の三和。

 少し嘘が混じっている。

 二回目襲ったときは思いっきり私情が入っていたから。

 でも、恥ずかしいから無かったことにしている。

「教官たち……は、ないか」

 とりあえず言ってみたという感じの風子。

「軍人狙うなら、もっと中央のお偉いさんかなあ」

 と京。

「確かに」

 うなずく風子。

 乾坤一擲のテロである。

 ただでさえ、軍隊を動員して原発や空港、港湾施設、国会議事堂や中央省庁などのハードターゲットは警備を強化しているのだ。

 一度やってしまえば二度とできない。

 そんなことをそもそもこんな地方の学校でするのかなんて結論に至ってしまうのは目に見えていた。

 彼ら学生にもわかることだった。

「でも、可能性はゼロじゃない」

 三和はそう言う。

「軍事施設でもソフトターゲットとそんなに変わらない、そして動きは間違いなくあった」

 淡々と、でも少し力強く言っている。

 もし。

 三和は思う。

 この帝国で厭戦機運が増して、遠征旅団が撤退すれば彼女の父親は帰ってくるだろう。

 でも、帰ってくる場所が違う状態になっていたら、彼は悲しむだろう。

 彼女がこうして動いているのは、それが理由だった。

 そして、ゼロじゃない可能性をゼロにするために、労力を惜しまないのはプロとして忍者の末裔として叩き込まれてきたことだった。

「結局わからないということで」

 とまとめる京。

 がっくりする八人。

 わかるはずがない。

 作戦会議ごっこ。

 ごっこに過ぎない見積。

『敵の目的と目標』

 ゼロではない。

「なんだっけ、中国の戦争マニアの人が言ったこと」

 次郎がテーブルに伏せてたままサーシャにそう聞いた。

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず……だけど、何?」

「三千年前のおっさんがそんなこと言ってるんだからすごいなっと」

「それを知るために、どれだけ人類が三千年かけて無線を作り、コンピュータを作り、衛星を浮かべたのに……結局、ゲリラやテロリストにはどうしようもない……敵は自由意志を持っているということに阻まれる」

「何それ?」

 サーシャが言うことはたまに難しい。

 軍事知識が将校レベルはあるだけに。

「敵は自由意志がある」

「そりゃそうだよ」

「だから、手段をいっぱい持ってて、状況が変化すれば、それに合わせて、いやそうなる前に一番使える手段を使う」  

「へ?」

「だから読めない」

「大きな軍隊が動けば、衛星で見える……でもひとりひとりの動きを探るには、建物の中にいる人間の動きを探ることができるほど、まだまだ時代は進んでいない」

「はあ」

「ほんと、日本の学生って軍事の常識を知らない」

「……いや、知ってもうれしくないし」

 次郎とサーシャの横合いからチャチャを大吉が入れた。

 そんな大吉と次郎に軽蔑の眼差しを向ける、容赦ない金髪娘。 

「残念ながら」

 ため息をつく。

「我が帝国ではそれを常識にしておかないと、生きていけないから」

 彼女はそう言うと、ムスッとした顔で砂糖多めの冷めた珈琲をゴクリと飲んだ。

 窓の外は金沢では当たり前の景色である吹雪。

 ふと、モスクワの今を彼女は思い浮かべていた。


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