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陸軍少年学校物語  作者: 崎ちよ
第5章  葉月「実家に帰らせて頂きます!」
34/81

第34話「姉降臨」

「ダイキチ! 靴をそろえる、お行儀悪い」

 玄関でサーシャに怒られる大吉。

 ロシア人に履物の置き方で説教されるなんて日本人として情けなくないのか。

 ――まったく西の人間は。

 と幸子は思う。

 そんな彼女は靴を脱いだ後クルリと背を向け、ちゃんと靴をそろえた。

「お邪魔します」

 出迎えに来た次郎母にぺこりと頭を下げた。

「お邪魔なんて思ってなかけん、ゆっくりしてちょうだい」

 ニコニコしながら次郎母が応える。

 幸子は一瞬固まって、そして笑顔でありがとうございます、と答えた。

 少しだけ北海道の母親を思い出してしまった。

「こらー、次郎! 手洗いうがい!」

 次郎母が振り向いて先に上がった次郎に声をかけているのに対し、彼は無視してずいずいと廊下を進む。

「洗面所でよーく手ば洗わんと」

 顔を赤くした次郎がひょっこり顔を出し「わかってる」と口を尖らして言い返した。

 同級生を前に子供扱いを受けると恥ずかしくなるお年頃。

「次郎ー! お友達を洗面所に案内せんねー!」

「はい、はい」

「返事は一回!」

「ふぁい!」

 あくまで抵抗する次郎。

 それがお子様なんだと、ここにいる女子は思った。

「お姉ちゃんがお風呂入ってるかもしれないから、男子は気をつけるとよ」

 ぞろぞろと手を洗おうと廊下を進む少年少女に対して母親が笑いながら声をかけた。

「へっ、ね、ねーちゃん」

 急に次郎が立ち止まる。

 サーシャは前を歩いていた彼の背中に顔をぶつけた。

「な、ジロウ、危な……」

 文句を言おうとしたサーシャが固まる。

 ()け反って。

「じーろちゃんっ」

 甲高く、かわいらしい声が廊下に響く。

「な……」

 なんだろうと、ひょこっと首を出した風子が絶句した。

「どーした……って、うわ」

 前の方を見ようとした大吉は急に視界が真っ暗になりもがく。

 一番後ろにいた幸子が前の状況をいち早く感知したため、後ろから大吉の目を塞いだからだ。

 彼女は大吉に「だめ、えっちだから、だめ」と言っている。

「パ、パンツ!」

 サーシャが叫ぶ。

 そう指さして叫んだ先には、小さめの赤いパンツだけを履いた女性が次郎を抱きしめていた。そして、そのぷりんとした胸で次郎の顔を挟んでいる。

「もごっ」

 次郎はなんとか脱出しようともがくが、パンツ一枚の女性に、腕を組むようにして関節をきめられ動きがとれない。

「破廉恥っ!」

 サーシャが目を吊り上げて糾弾する。

「ちょ、何が」

「だ、大吉くんは見ちゃだめ」

 幸子は後ろから大吉に抱き着くようにして目を塞いでいる。

 密着するふたり。

 だが彼女は目の前のありえない光景に動転し、恥ずかしさを感じることなく目隠しを続けていた。

 大吉は思ったよりも弾力のある優しい感触を背中にうけているが、何が何だかわからないため堪能する暇もない。

 むぎゅっ。

 女性が女子たちの存在に気づいたと同時に、その腕に力を加える。すると次郎は「おげっ」と潰れた声で唸った。

 スー。

 彼女の歓喜の顔がみるみるうちに無表情になり、そして、その目が座った。

「……何、この女達」

 声のトーンが一オクターブ下がっている。

「じーろちゃん、ねえ、何?」

「……っ、ちょ、ちょ」

 もがく次郎。

「わたしのじーろちゃんが女子と遊ぶとか……そんな破廉恥ばするなんて、破廉恥ばするなんて、破廉恥ばするなんて」

 念仏のように唱えながら、女子達を睨みつけ圧倒している。

「は、破廉恥とかしてませんからっ」

 風子が叫ぶ。

 じっと風子を見た後、女性は視線を逸らす。

 無視。

「ねえ、かわいいじーろちゃん、お姉ちゃんに()いに戻ってきたとよね、ねえ、いとしのじーろちゃん」

 ぱく。

 次郎の耳たぶを唇で挟む。

「え、えええ、は、破廉恥! 破廉恥すぎるっ!」

 サーシャ本日二回目の破廉恥宣言だった。

「じーろちゃん、あんな髪の毛を脱色した不良と仲良くしとると?」

「地毛だっ!」

 今にもとびかかりそうなサーシャを、風子が羽交い絞めにして止めている。

「なに、いい年したおばさんがパンツいっちょで人前に立ってるなんて」

「うるさかねー、不良」

「不良じゃないっ! 地毛! ロシア人」

 サーシャが金髪を逆立てながら反論する。

「不良からお姉ちゃんが守ってあげるけんね、じーろちゃん、ねえ、じーろちゃん」

 ぎゅう。

「ごぼっ……た、たちけ……」

 息ができない次郎の命は風前の灯。

「このお!」

 サーシャが跳んだ。

「ジロウは私の下僕だっ!」

 ひどいことを言いながら次郎の首に手を回し、引き離そうとする。

 次郎の顔が、女性の胸から離れた。

「ぷはあ」

 彼が安堵するのもつかの間、今度はするりと回されたサーシャの腕が首に巻きつく。

「げほっ」

 パンパンパン。

 入った! 入った! と叫びたいが声がでないため、次郎は必死にタップする。

「は、早く、は、破廉恥なんだから、か、隠しなさいよ」

「じーろちゃん、そんな不良に騙されとると? かわいそうに、だからお姉ちゃんは、心配で心配で」

「不良じゃないっ!」

 サーシャはむきになって否定、猫が威嚇するかのようにフシャーと言って半裸の女性に向き合っていた。

 いっぽう風子は身動きできずににいた。さっき、大吉に告白され心が揺れているのに、戻ってきたら裸の女性が次郎に抱き着いているのだ。

 男子がいるのに半裸姿を恥ずかしがる素振りもみせない。

 目の前の状況にただひたすら混乱している状態だった。

「へ、変態……」

 だからこういう言葉が自然と出てしまう。

「ああああああああああ!」

 サーシャの腕をほどき、次郎が叫んだ。

(ヒジリ)姉ちゃん、いい加減にしてくれっ! なんで帰って来てるんだよ! つうか、服着ろよ!」

 その剣幕に、聖と呼ばれた女性が一歩後づさる。

 上田聖、二十三歳大学院生。

 次郎の八つ離れた姉である。

「だって、電話したって出らんし、メールしたって出らんし、わたしのじーろちゃんが、不良になってないか心配で心配で……」

「着信拒否してるって言ってたでしょ!」

「ひどか、こんなに愛しとるとに」

「俺は愛してないっ」

「結婚ばするって約束したことは嘘?」

「それは幼稚園のころっ」

「一緒にお風呂入ってたのに」

「それは中学生までっ」

 げし。

 サーシャが彼の背中を蹴った。

 次郎はその反動で四つん這いになりつつ、恐る恐る金髪娘を見上げた。

「シスコン」

 汚物を見る目とはこのことかもしれない。

「……あ、いや」

 そんなサーシャとは対照的に聖は満面の笑だ。

「寝る前にちゅーしないと眠らなかったのに」

「あれは無理やり」

 次郎が振り向くと、女子達は死んだマグロの目をして彼を見ていた。

 この瞬間、もう二度と昔には戻れないと彼は痛感しながら涙する。

 絶望次郎。

「こんなに愛しとるとよ」

「だから、姉弟(きょうだい)として」

「じーろちゃんの、オムツ変えてやったのに、かわいいちんちんがチンってついてて」

「あーはいはい」

「今はあんなに成長して……ああ、それにじーろちゃんのはじめてもらったのに」

「ちょ、ちょっと誤解生むような発言やめてっ」

 次郎は振り向かなくても、背後の女子から凍るような視線を感じている。

「足にもちゅうしたし、手にもちゅうしたし、おへそもちゅうしたし……」

「あああああああ」

「今でもじーろちゃんはかわいかし」

 聖の視線は次郎の股間に向けられる。

 その目は潤んでいた。

「やめてえええ」

 げし。

 風子がお尻を蹴った。

「シスコン」

 彼女の声は氷点下である。

「上田君……」

 幸子は同情の声だった。

「強く生きよう、シスコンでもまだやりなおせるわ」

 こういう称号(レッテル)に対しては、どこまでも優しい彼女である。

「違う、違うんだ」

「だって、おっぱいもよく触ってたし」

「そ、それは幼稚園」

「中学一年生」

 しれっと、やばいことを言う姉である。

「次郎、お前……」

 この場の空気では声にだして言えないが、心のなかではうらやましくてしょうがない大吉。

 彼は男兄弟しかいない。

 少しだけ羨望の眼差しを向けていた。

 四つん這いになった次郎の太ももにローキックをいれるサーシャ。

 彼女にも兄はいるが、こんなにイチャイチャするような兄妹ではなかった。

 だから理解どころか、異様さしか感じない。

 実際のところ、あの妹好きツンデレ兄はそういう態度を一度もとったことがない。彼女自身はそんな兄の愛情をまったく感じたことがなかった。

 これはこれで、こじらしている兄妹愛なのだが……。 

「シスコン、変態」

「変態じゃないっ」

「シスコンは認めるんだっ」

「そういうツッコミはやめてよっ!」

 次郎はそんな悲鳴に似た声で反論しながら立ち上がり、聖を風呂場の脱衣場に押し込もうとする。

「え、いっしょにお風呂に入ってくれると? お姉ちゃんうれしかー」

「違う、早く消えて……」

「だって、この前いっしょに入ったのは一年前……」

「サバ読むなっ! 三年前!」

「不良と付き合うから、お姉ちゃんに対して、こんなに扱いが雑になっとるとね……」

 彼は聖の言葉を無視し、ぐいぐいっと脱衣所に押し込みドアを閉めた。

 押し開けようとするドアをお尻で抑えている。

「シスコンだ」

 とサーシャ。

「うん、シスコン」

 と風子。

「……(ナマ)シスコン」

 幸子がつぶやくように言う。

 こんな姉と弟の関係は漫画の世界だけだと思っていた彼女。

「そういう言い方はやめて」

 次郎は泣きそう声で訴えるが女子三人は無視。

 相変わらず冷たい視線を彼に向けたままひそひそ話しをしている。

 ぽんっ。

 大吉が肩を叩いた。

 次郎が見上げ二人の目が合う。

 彼は目を細めて無言でうなずいた。そして、思いつめた顔で口を開く。

「……お前、童貞じゃなかったんだ……」

 みるみるうちに次郎の顔が真っ赤になった。

「違うわっ!!」

 家中に響くような大声で次郎は叫んだ。

 こんな理不尽なことがあっていいのだろうか、と天井を仰ぐ。

 遠くから叫ぶ、母親の「やかましかっ」と言う声が響いていた。

 ――絶望すぎるっ。

 嘆いても、次郎は不幸な星の下に生まれているからしょうがない。

 そうやって、姉事案は落ち着いていった。

 なんだかんだで、その後の夕食、お風呂と、安定してドタバタは続く。

姉弟(キョウダイ)仲良かとよ」

 夕食の間べったり次郎にくっついている聖を見ても、この家族は動じていない。

 まったく違和感なく、普通にすごしているのだ。

「沖縄の大学院で海洋なんとかとかいう研究ばして忙しかけん、帰ってこんって聞いてたとやけど」

 母親の言葉に次郎は頷く。

 彼はそう聞いていた。こんな姉がいる家に同級生を連れてこない。

 だが、聖は予定を変えていた。

 どうも次郎が夏休みで帰ってくる、しかも留学生の女の子を連れてくると聞いたものだから、居ても立っても居られず、研究そっちのけで帰ってきたようだ。

「ちょっと、人の話が聞こえなかったり、人の気持ちがわかんなくて、変わった子だけど、悪い子じゃなかけん」

 なんて母親がそんなことを言うが、さんざん被害にあった風子達は愛想笑いをしてごまかすことしかできなかった。

 食事が終わった後、庭で昼間に買ってきた花火で楽しみ、そして十一時には床についた。

 ハプニングと言えば、花火をくるくる回してはしゃいでいた大吉の坊主頭を少し焦がしたとか、庭の向こうにある古い蔵を見たサーシャが、刀剣召喚? 刀剣召喚? と騒いでたぐらいだ。

 大吉は相変わらずアホで、サーシャは日本文化を誤った書物で勉強していることが改めて証明された。

 床についた男子二人は、昨日のように夜話をしようとしたが、なんとなく大吉の態度がぎこちなかったため話が続かなかった。

 大吉はつい風子の話が出てしまいそうなので、不自然な感じになっているからだ。

 会話と会話の間が切れ、そしてその間がどんどん長くなっていき、いつの間にか二人とも眠っていた。

 静かな夜。

 昨晩とは違い、開けっ放しの窓からはぬるい風が入っている。

 それでも寝る前はタイマーをつけて扇風機をかけていたから、快適とまでは言えないが十分寝れた。

 ――ふう。

 まだまだ夜明けにはほど遠い時間。

 大吉はもぞもぞと体を動かす。

 昼間の告白のせいで興奮状態が続いているのだろうか、昨日とは違って体が火照っていた。

 男子二人はパンツいっちょとタオルケットで寝ている。

 まだ、完全に目覚めていないのだろう、目を閉じた状態で「ううー」と寝言とも寝息ともとれない声次郎は出していた。

 なんだか熱源が近い。

 大吉の寝床は次郎の寝ているものとは離れている。

 人が通れるぐらいの間を置いて布団はひいていた。

 次郎の寝癖が悪くて、自分に近づいてきているんじゃないだろうかと思ったが、さっきの声の位置を考えるとどうも違う。

 ごろん。

 熱源から離れようと、相変わらず目を閉じたまま寝返りをうつ。

 その時だった。

 大吉が寝返りをうつまえにぐいっと引き寄せられたのは。

 汗ばんだ肌にぷにっとした感触。

 もぞもぞとお腹のあたりがさすられ、一瞬にして鳥肌が立つ。

 混乱から立ち直る。

 女性特有の甘い香りに包まれていることに気付いた。

 しっとりとした、空気。

 柔らかい感触のものが背中に押し付けられていた。

「あわわわわわ」

 目がシャキーンである。

「むにゃむにゃ、じーろちゃん……むにゃ」

 夕方に聞いたあの声だった。

「いただきまーす」

 むにゃむにゃ言いながら、背後の女性が口を開ける。

 あーん。

 ぱく。

「きゃああああああ!」

 大吉は首筋に、柔らかな感触を感じた瞬間、貞操の危機を感じ悲鳴をあげた。

「どうしたっ」

 がばっと立ち上がった次郎は、薄暗い中でもつれている大吉と女性の姿を見て、硬直した。

「ひ、聖姉ちゃん」

 がらっ。

「な、何?」

 襖を少しだけ開いて顔を覗かせた風子が目を見開く。

「ま、松岡くんっ」

「ち、違う、中村これは違う」

「じーろちゃんっ」

 むぎゅうと音がしそうなぐらい、大吉が聖に締め付けられた。

「た、(たち)けて……」

「うそ……」

 風子の頭の上に幸子の顔が現れ、これまた目を見開いて驚く。

「だ、だめ、松岡くんは、私が……」

「へっ!?」

 幸子の言葉にびっくりした風子が頭を上げる。

 ごん。

 幸子の顎と彼女の頭が衝突し、声にならない唸り声をふたりはあげた。

「どーしたのー」

 今度はまだ、寝ぼけているサーシャが、幸子の頭の上から顔を出してきた。

 襖の間に女子の頭で三段トーテムポールが作られた。

「すわっ、この破廉恥女!」

 くわっと目を見開き、サーシャは勢いよく前に出ようとする。

 が、女子三人は密着状態である。

 幸子がバランスを崩し、その重みで風子が潰れ、結局サーシャは足を取られ、前に雪崩を起こすようにして顔面から畳に落ちた。

「あら、おはよう」

 少女達が、なんとか絡まった体をほどき態勢を整えた頃、ひよこ座りで上半身だけ起き上がった聖は大きなあくびをしていた。

「女子と男子が夜中に同じ部屋にいるのは感心せんね」

 まったく的の外れたことを平気で言う聖。

「破廉恥女! ダイキチに何を!」

 サーシャがまくしたてる。

「ん? ごめーん、じーろちゃんと間違えたとよー」

 まったく反省していない態度で聖が答えた。

「じーろちゃんと、久々にいっしょに寝ようかなーと思ってきたと、でも、なーんか間違えて」

「なーんかじゃない、なーんかじゃ」

 ガルルルル。

 サーシャは四つん這いで狼を思わせるような威嚇をしている。

「大丈夫、わたしはじーろちゃん一筋ばい」

「そういう問題じゃねえっ!」

 飛び掛かりそうなサーシャを幸子と風子が抑える。

 たぶん、離したら実力行為にでるはずだ。

 一応、お客の立場である。

 家の人間に暴力行為などあってはならないという常識はあった。

 ……この場合、常識とはなんであるか、そこから考える必要はあるが。

 それは置いておく。

「姉ちゃん、いいから出て行って!」

 次郎がそう言うと、聖は「不良に騙されているとよ」「前はお姉ちゃんお姉ちゃんって自分からお布団に入ってきたとに」「おっぱい触らないと寝れんかったとに」なんて、問題発言をしながらしぶしぶ去っていった。

「大丈夫か、大吉」

 次郎が声をかける。

「よかったな、願ってたラッキースケ……」

 ごん。

「後頭部はやばい後頭部はやばい」

 次郎が頭を抱えながら、畳の上に転がる。

「……」

 蹴ったのは幸子だった。

「まったく、西の人間って、みんなこうなの……」

 彼女はそう言いながら頭を抱えている。

「姉のしつけぐらいちゃんとやってよ」

 彼女はもしかして、次郎姉が大吉に対して大変な行為をしてしまったんじゃないかと考えたが、そんなことを聞けるはずもなく、悶々としていた。

 そこで、次郎が無責任な発言をしたものだから、カチンときて、たまっていたものが爆発してしまった。

 ふと、幸子は大吉をと視線が重なった。だがなぜか、彼は思いっきり目を伏せてしまった。

 同様に次郎も明後日の方向に視線を向ける。

 訝し気な表情の幸子。

「さ、幸子ちゃん」

 風子が慌てて幸子の下半身に抱き着いた。

「も、戻ろう」

「え、何?」

 ずるずる。

 襖の奥に消えていく三人。

 くぐもっているが、わーとかきゃーとか聞こえる。そして、壁の向こう側から幸子の息を飲む音が男子二人にはっきりと聞こえた。

「気付いたな」

「うん」

 大吉の言葉にうなずく次郎。

「青だったな」

「うん」

「女子も四角いのがあるんだな」

「うん、ボクサータイプ」

「あれは、あれでいいかも」

「うん、いい」

「次郎のねーちゃんのはノーカウントだけど、今のはワンカウントだな」

「ああ、ワンカウントだ」

 男子二人、そんな話で盛り上がり、余韻にひたっている。

 そんな、アホな男子達がいる部屋の襖の向こう側では、女子達が必死に幸子を慰めていた。

 大丈夫暗くて見えてないからと、サーシャと風子が繰り返し言うが、幸子は顔を薄暗くてもわかるぐらい真っ赤にして、そして涙目になっていた。

 彼女の布団の上には、ぐちゃぐちゃになったタオルケット。

 それといっしょに寝間着のズボンが絡まっていた。

 しばらくして落ち着いた幸子は自分の寝相の悪さをどうにかしないといけないと深刻に考えた。

 乙女の危機的状況である。

 いっぽう男子は、二日も続けていいことが起こったことに対して、ラッキースケベの神様に感謝の祈りをささげていた。

「神よ、仏よ、スケベ様よ」

 天井に両手を掲げる男子ふたり。

 目が合ってニヤッと笑う。

 ばっかじゃねえの。

 大吉は風子に振られたぶん、バカみたいにはしゃいでしまう自分に対して。

 そう思った。

 ――勇気を出したぶん、なんかご褒美もらったぽい。

 彼はそう思う。

 そうもしなければ元気がでない。

 そんな大吉の葛藤を次郎が知るはずもなく、ニヤッと笑い返した。

 それぞれの思い。

 五人の高校生たちの二日目の夜はこうして過ぎ去っていった。

 

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