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陸軍少年学校物語  作者: 崎ちよ
第3章  水無月「学校祭の季節です」
19/81

第19話「恍惚の緑」

「かわいいわね、相変わらず」

「だれが?」

「あなたの学校のこどもたち」

 佐古は興味なさそうな顔をしたまま、グラスの半分ぐらいになった黒ビールに口をつけた。

「先週末、ここに来たんだけど」

「よくうちの学生ってわかったな」

「あなたのところの制服は誰でも知ってるし、バイトの女性もわかったから」

「へえ、バイトなんて雇ってたんだ」

「あなたは夜しか来ないから知らないと思うけど」

 ぐいっとカウンター越しに店長である橘桃子(タチバナモモコ)が体を乗り出した。

「すっごい美人よ、バイトの人、眼鏡美人」

「ふーん」

「そっけない」

 桃子はつまらなさそうに眉をひそめる。

「その言葉に食いついたら、妻にチクリ入れるんだろう? その手にはのらん」

「でた、恐妻家」

「恐妻家で結構」

 佐古はすました顔のまま、自分の坊主頭を撫でた。

「で、どんな学生が来たんだ」

「金髪女子とイケメン男子、それに根暗そうな女子」

「まったくわからん」

「バイトの人がそう言ってたの、私は奥にいたから遠くでしか見てないし」

「もっと、表現の仕方ってあるだろう?」

 夜の喫茶店は人も少ない。

 桃子はサイフォンから抽出した自分用のコーヒーを準備して、手元に置いた。

「相変わらずって、女子はみんなそうよ」

「女子って……よく言うよ、私と同級生だろ、君は」

「『私と同級生だろ、君は』ねえ……なんだか『私』『君』とか偉そう……やっぱり中隊長なんかになっちゃったから?」

 桃子はそう言った後、カップに口を付けながらジト目で佐古を見ている。

「そんな言い方するなよ。あー悪かった、悪かったよ、橘さん」

「桃子」

「桃子さん」

「桃子」

「桃子」

「付き合ってたころは、気軽に呼んでいたのにね」

 彼女はふと目を背け、ため息混じりにそう言った。

「もう二十年か……」

 佐古は、グラスの中の黒い液体を飲み干す。そして、グラスの端についた泡を手元のおしぼりで拭き取った。

「ばか、まだ二十年よ」

「『もう』も『まだ』も、変わらないじゃないか」

「あーあ、あなたはあんなにかわいい奥さんと子供はできているし」

 年とったのはあなただけよ。

 彼女はそういう目を彼に向けた。

「君……じゃない……桃子さんは、相変わらず」

「桃子」

「こだわるね」

「なんか、若返った気がするじゃない」

「結婚していないんだから、普段から若い気分でいられるんじゃないか?」

「なに、そのオッサン発言」

「オッサンだよ」

 そう言った後、佐古は二杯目を頼み小さくあくびをした。

 桃子が少し目を細め、彼の顔を覗き込むようにする。そして、その手元にグラスを置いた。

「疲れてる?」

「四月に子供達が入ってきて、ずっと休みがないからね、しかも夜も寝た後に書類仕事して帰る日々なんだよ……朝は子供達が起きる前には出勤」

「相変わらず大変ね」

「俺たちが学校にいた時も、教官達も同じようなことをしてたと思えば」

「無理しちゃう?」

「無理はしてない、がんばってるだけだ」

 桃子はため息をついて、カップを手に取った。

「あの頃はまったく気づかなかったけれど」

 彼女は少し冷めてしまったコーヒーを口に含んだ。そして、店の奥の方に目をやり、どことなく遠くを見ているようだった。

「守られているってことに気づいたのはずっと後、自分がそういう立場になったりしてから気づく」

「そうね、今思えば夜這いとか、平気でやる人、いっぱいいたしね、あの頃」

「俺はしていない」

「嘘つき」

「……」

「ところで桃子さんが見た金髪の子はたぶんサーシャだな、留学生の優等生、しっかりした子だっただろう」

「優等生? 私の感じだと、特別優秀っぽくは見えなかったけど」

「学業、体力、人間性、優秀、そんな貴族のお嬢さん」

「そうかしら、普通の女の子だった」

「どういうところが?」

「こういう雰囲気のお店にきて、緊張して、注文間違えちゃうような女の子」

「なんだよ、それ」

「バイトの人がそう言ってた」

 そう言って、桃子は少し笑った。

「最後は蹴り飛ばしていたけど」

「は?」

「だから、蹴ってた、イケメン男子を」

「ここで?」

「そう、跳び蹴り」

「跳び蹴り……なんで、そんなことに」

「最初は男子が『貴族のお嬢様だったらこんなところで緊張とか』なんて笑うものだから、痴話喧嘩始まっちゃって『緊張なんかしていない』『間違って紅茶なんて頼みやがって』『女の子が困っているときは、逆にフォローしなさい』とか言い合いになって、最後は男子の方が無視しちゃったのよ」

「無視」

「だから跳び蹴り」

「なんだそりゃ」

「私はちゃんと大人の勤めを果たしたわよ、バイトの人が困ってたから二人のところにいって、男子に『女の子に恥をかかせちゃだめ、あやまりなさい、ついでにこぼした水、それはあなたが拭きなさい』って言ってやった」

「理不尽」

「だって、女の子は大切にしなきゃ」

 満面の笑みで桃子は佐古を見る。

「俺は大切にしていた」

「また、昔の話?」

「共通点といえば、それぐらいだし」

「なに、その言い方、寂しい」

「それに、あの時の同期は俺と小山ぐらいしか残っていない」

「佐古君たちはみんな出て行ったものね」

「たまには、その話をしないと、先にいってしまったみんなを思い出さないと」

「私も行きたかったなあ」

「俺は君が残ってうれしかった」

「なんか、仲間はずれにされちゃった気分」

「……」

「今も」

「仲間はずれにしていない、こうして話しているんだし」

 じっと佐古は桃子の目をみつめた。

「ありがと……私ね、ほんとあの時、佐古君が帰ってきたって聞いてうれしかった……戦争が終わって、なにもかもボロボロになってたけど」

「親まで死んでいたと思ってたらしい」

 佐古は笑った。

「長かったから……」

「あの日のドカーンがあってから四年、岐阜、富山、長野の山の中に籠ってゲリラ」

「四年か……本当にね、死んだと聞いてからも三年待ってた、待ってたけどやっぱり帰ってこなかった、だから待ってなかった」

「それはしょうがない」

「でも、今なら言えるけど、罪悪感はひどかったわ」

「女子って、けっこう割り切れるんじゃなかったけ」

「あ、傷いた……けっこう情の深い女子だったんだよ」

「かなりクールな女子だって印象があるんだけど、デートで手もつないでくれなかったし」

「キスもしていない」

「そう、キスもしてくれなかった」

「私からすれば、あなたが奥手だった記憶しかないんだけど」

「俺からすれば、桃子さんがスラリスラリとかわしていた記憶しかない」

 なんども繰り返した二人の台詞。

 五月が過ぎると、どうしてもこういう話になってしまう。

 二人はあの頃のことをしゃべることで、平静を取り戻しているのかもしれない。そして、二十年前の戦争を話すことが仲間の弔いでもあった。

「不思議、ついこの間のことなのに……みんないないのよ」

「最初の戦闘でほとんど死んだ」

日之出(ひので)中隊長も教官達も」

「そう、中隊長が死んだ後はあっという間にみんな死んだ……何をすればいいかわからないまま、みんなそこに留まって死んでしまった」

「……俺はね、今の子供達が戦場にいったら何をやっても生き残ろうと思う」

「戦場にでも行くつもり?」

「そりゃ、一番いいのは戦場にいかないことだ……今のご時世、たぶん、そういうことになる可能性はとても低い」

「でも」

「でも、最悪のことを考えて、彼らを訓練しないといけないし、俺も準備しないといけない」

「なんか、佐古君、オジサンになっちゃったね」

「立派になったと言って欲しい」

「少佐殿に敬礼しないと」

「ごめん、取り消す」

 桃子はまるで軍人のように、右手をピンっとまっすぐに伸ばして挙手の敬礼をした。

 それを見た佐古は苦笑するしかなかった。

「そろそろ帰るよ」

「もう、そういう時間?」

「日が変わらないうちに帰らないと」

「夫婦円満の秘訣?」

「そう、夫婦円満の秘訣」

「やだ、なんかムカつく」

「どうぞ、桃子さんも、結婚したら?」

「それもムカつく、セクハラ」

「元カレとしての忠告」

「元カレだったら、ただの嫌味」

「フラれた方からの逆襲」

「だから、三年待ってたの」

「結果はフラれた」

「そうね」

 店内に流れるジムノペディの旋律に、桃子の軽いため息が自然と吸い込まれた。

「でも、なんか、そう言われると悲しい」

 彼女は笑顔でそう言うと、彼が飲み干した後のグラスをそっと手にとり、そして飲み口についた泡を見つめた。



 ――いきつけの喫茶店があるから、そこのお姉さんに相談しようか?

 風子はコスプレを回避するために、カフェ係――奥の方で飲み物を準備する係――になんとかすべりこませてもらっていた。

 喜びも束の間、こういった準備はなかなか難しいことに気づいたのだ。なけなしの資金を前にして、どうやって喫茶店の準備をするか、どうすればいいのかわからず、ため息をつくばかりだった。

 それでも、緑が教室の真ん中でニヤニヤしながら部隊の工業用ミシンを縦横微塵に使って、コスチュームを作っている姿を見ると、この係りでよかったと安堵する。

 よくわからない耳や尻尾が服についているのを見たからだ。

 土曜日の午後。

 そんな緑はミシンをガタガタ回しながら、次々に指示をして場を仕切っていた。

 彼女は学生長の宮城京(ミヤギキョウ)や、コヤンキーの松岡大吉(マツオカダイキチ)を手足の様にうまく使っていた。そして、他の男子も顎でこき使い、看板を作らせたり、内装を作らせたりしていた。

 内装は中世の廃城を意識したものだった。

 ドラキュラ伯爵がでてきそうな雰囲気にしろ、と緑は彼らに命じている。

「宮城君、もっと看板は、毒々しく」

「はい」

「松岡君、内装は無駄にごちゃごちゃしないようにして」

「はい」

 いつのまにか絶対服従の主従関係ができていた。

 そんな教場を抜け出し、風子は香林坊から少し離れた場所にある喫茶店に足を運んでいた。

 真田鈴のツテで必要なグッツを貸し出してくれるところを訪問しているのだ。

「あ、ここなんだ」

 そう呟いた男子を風子はジロッと見た。

 男子のカフェ係、上田次郎だった。

「知ってる?」

「あ、うん……ちょっとね……あー、サーシャも来たことがあるはずだよ」

「サーシャ? たぶらかしてデートでもした?」

「んな、たぶらかしたって、たまたまだよ……たまたま」

「男女二人でお茶とか二人きりで歩いているなんていったら、そりゃ、デートでしょ」

 風子もやめた方がいいとわかっているのだが、ついつい次郎には攻撃的になってしまう。

「違うって」

 次郎がそう言った後は互いに黙ったまま、店の階段を登っていった。

「こんにちは」

 白いシャツにほっそりとした黒いパンツ。

 赤い縁の眼鏡の女性が声をかけてきた。

 バイトの女性。

「あら、今日は金髪の子はいっしょじゃないのね」

 と笑顔で一言。

 風子はまず、格好が良すぎる女性に目を奪われ呆けた顔をしていた。だが、その言葉が次郎に向けられたものだと気づき、表情を曇らせる。

「店長に聞いたわ、準備しているから」

 赤縁眼鏡の女性がそう言うと二人を手招きした。

 奥に行くと、赤縁眼鏡の女性と同じような服装をして、濃い茶色のエプロンをつけた女性が現れる。

 店長の桃子だ。

 それから風子と次郎は店長と赤縁眼鏡の女性から、手書きのコーヒーや紅茶の入れ方マニュアルを受け取った。

 少しだけレクチャーを受ける。

「いいんですか、こんなに高そうなものを」

 風子が驚きながら貸し出してくれる器材を手にしたまま桃子に尋ねた。

「気にしないで、前、お店が大きかったときに使っていたものなの……私が継いで、今みたいに小さい店にしてからあまり使わなくなったものだから」

 数年前はケーキ屋と喫茶店が複合した大きなお店だった。

 だが、桃子が引き受けてからは、隠れ家的でお客さんを大切にするような店を目指しているという。

「あの、おいくらで……」

 少し緊張した面持ちで風子が尋ねると、桃子はにっこり笑顔で答える。

「高校生からお金を取るつもりなんてないわ」

「あの、何かお礼だけでも」

「佐古君や小山君に飲みに来てもらうことでチャラにするわ、最近ご無沙汰しているし、ちょうどいいから、そう伝えて」

「は、はあ」

 佐古君と小山君と言われても、風子の頭にふたりの顔は浮かばない。

 あくまで、中隊長と先生でインプットされているからだ。

「鈴ちゃんとか晶ちゃんにも」

 風子は考える。

 真田中尉は学生の間でも、鈴ちゃんと裏であだ名をつけている。

 晶ちゃんがあの颯爽姐さん日之出中尉とは気づかない。

 わからないが、とりあえず頷いた。

「それだけでいいんですか?」

「うん」

 笑顔で応える桃子。

「ありがとうございます」

 そう言うと、風子と次郎は深々と頭を下げた。

「いいの、私も学校祭は顔を出すから、楽しみにしてるから、その時タダで飲ませてくれたらうれしい」

 桃子はそう言いながら微笑む。

 風子はなぜかその笑顔がとても幼く、自分たちと同年代に見えた気がした。



「ああああ、狐耳できた、狐耳、サーシャの狐耳、かわいい、かわいい、ああああ」

 そんな不穏な言葉を吐きながら、ゴツイ工業用ミシンを唸らせていた緑。

 そんな音や声が響いていた教場だったが夕暮れ前の今はひっそりしている。

 風子は一人、いわゆるゴスロリと言われる衣装を手に取り、鏡の前でそれを体に当てていた。

 誰が着るためのものかは知らないが、なんとなく気になったのだ。

 そして、絶望した。

 ――絶対に似合わない。

 どう考えても、風子にこれが似合うとは思えなかった。そして、もしこれを着て「いらっしゃいませご主人様」なんて台詞を吐く自分を想像した瞬間、鳥肌が立った。

 だが、それはそれで、女子力ってものが負けた気もする。

 彼女はおずおずと上着を脱いでそれに袖を通してみることにした。

 カチューシャらしきものを頭に乗せる。

 くるり。

 鏡の前で回転してみた。

 ついでに、スカートの裾を持ち、お嬢様的な礼をしてみる。

 なんとなくお約束の動作だからしてみた。

「むう」

 彼女はこんな所を人に見られたら、きっと恥ずかしくて声も出せなくなって、一目散に逃げてしまうんだろうと思った。

 もう一度鏡を見るが、やはり似合うとは思わない。

 彼女はため息をついて、クルッと回ってみた。

 スカートの裾がふわりと浮く。

 回転が止まると、スカートの裾がゆっくりと元の状態に戻り太もも付近にパサっと触れる音がした。

 風子の表情が変わる。

 回転した時に、さっきと違う風景があったことに気づいたのだ。

 首をぐいっと後ろに向け、サーと血の気が引くのを感じる。

 教場の入り口に人影があったからだ。

「あ」

「あ」

 彼女と同時に同じ音を出したのは次郎だ。

 間髪を入れずに彼女は予想していた行動と別のことをしていた。

「何、チラ見してるんだゴルァ!」

 風子は手元にある、三〇センチぐらいの角材を投げつけた。

 阿呆な顔をしたままの次郎は一瞬真顔になり、慌ててそれを避ける。

「あ、危ない! 当たたったら、まじ、下手すりゃ死ぬって」

「のぞき! 変態!」

 きっと、この短いスカートだ。

 クルッ、フワッとした時にパンツを見られたかもしれない。

 そう思うと、彼女はだんだんと頭に血が上っていった。

「中村が勝手に着替えてただけだろ、ここはみんなの教場なの」

「変態!」

 風子はまるで、憧れの服を人に隠れて着ているみたいだと思った。

 そんな自分がとてつもなく恥ずかしくてしょうがない。

 二人の間に沈黙が流れる。

 つらい沈黙だ。

 その沈黙を破ったのは悲鳴のような歓喜の声だった。

「きゃあああ! 似合ってる、似合ってる!」

 一瞬にして、風子はまた全身に鳥肌を立てた。

 まるで邪魔な障害物のように次郎を押しのけて教室に入って来た緑。

「実はね、これ、ふーこちゃんのために作ってたの!」

 ニコニコ顔の緑。

 鼻息は荒く、ずいぶんと興奮していた。

「ほら、これとか、うん、やっぱり合う合う」

 緑はそう言いながら、風子のまわりをぐるぐる回り、腰にぶら下げているバックからいろいろなゴスロリパーツを出す。そして、直立不動の風子をどんどん着飾っていった。

「あわわわわ」

 風子は情けない声を出しながら、恐怖に打ち震えている。

 と、その時だった。

 ガチャ。

 ドン。

 次郎が緑に引き続き、また新たに突き飛ばされた。

 入り口に立っていると、邪魔なのだ。

「抜け駆け、ダメ!」

 サーシャだった。

 仁王立ちである。

 挑戦的な眼差しで風子を見据えるが、一瞬にしてそれが恐怖に変わる。

 その視線の間に立ちはだかるように緑が飛び込んでいた。

 キラキラした目をしながら鼻息が荒い緑。

「ほら、サーシャちゃん! ふーこちゃんに対抗するためにも、この衣装! ほら、着て、着て! お願い!」

 大興奮。

 彼女の声がいつもより一オクターブ高い。

 ふわり取り出した衣装。

 狐耳のカチューシャ。

 白い巫女服。

 しかもミニ。

 緑の趣味、その闇は深かった。

「い、いや」

 ずん。

 緑がニコニコ赤い顔をして、サーシャに息が届くほどまで距離を詰める。

「着て」

「ひっ」

「着、て」

「う、うん」

 一瞬にして、緑の趣味の犠牲者になるサーシャ。

「ね、きっとかわいいから! 上田君なんか目じゃないぐらいに、男子の目を引くから! 着て、着て、お願い、着て、今着よ! 今!」

 後ずさるサーシャを壁際まで追い詰めつつ、緑は衣装を押し付ける。そして、緑は訝しげな目を、教室に唯一いる男子に目を向けた。

 目が据わっている。

 声も低い。

「ねえ、女の子が着替えるのよ……わからない? 変態だってことに気づかないの」

 怖い。

 風子もできればこの場から逃げたいところだが、それより先には「ごめんなさ」と「い」を言い終える前に、次郎は教室から逃げていった。

「じゃあ、邪魔者もいなくなったし……」

 緑の恍惚とした目、夕陽のせいではなく、確実に瞳の奥が光る。

 風子とサーシャはなんともいえないドロっとした汗を流した。

 まさにホラーの世界だった。

 緑。

 なんて……。

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