たった一つのやり方
【第36回フリーワンライ】
お題:
冷たい方程式
花
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
幾百億の星々が瞬く漆黒の空間を、巨大な質量が渡っていく。
白々とした星空を切り取るそのシルエットは、まるでエイのような三角形をしていた。無論、生物ではあり得ない。
惑星間航行船〈シャピアロン号〉――地球発、木星行きの開発開拓船である。
数十名のクルーを内包した船は、背景の星々に比べる止まっているようにしか見えなかったが、極めて順調に航路を進んでいた。
〈シャピアロン号〉は船内が複数のブロックに分かれており、問題が起きた時はシャッターを下ろして相互連結を解除、分離することも出来た。
そのブロックの中でも重要区画の一つにバイオ・プラントがある。そこは植物、食物の生産と空気の循環を行うバイオ・スフィア――つまりごくごく小さな限定的地球環境だ。
新鮮な空気を生み出す場であり、命の源であり、クルーの憩いの場でもある。
今、そこで三人の人間が額を付き合わせて議論を行っていた。
「今日で何日目になる?」
「……ちょうど百日目だ」
「そうか。ではやはり覚悟を決めなければならんな」
「待ってくれ、本当にそれでいいのか?」
「くどいぞ。これについては散々話し合ったはずだ」
「納得したわけではない」
「いいか、我々の使命を思い出せ。他を生かすにはこれしか方法がない」
「しかしそれでは……おい、お前はそれでいいのか? 黙ってばかりで」
「納得は出来ない。でも、正しいことだと思ってやるしかないじゃないか」
「それは……」
「最善ではなくとも、次善ではあると思いたい。――いや、この選択が最良になると信じる」
「冷たい方程式……か」
「私だって好き好んで犠牲を出したいわけではない……では、いいな?」
「覚悟は決まってる」
「くそ……仕方ない」
リーダー格の男が、ぐっと、道具を持つ手に力を込めた。
ぢょきん
それはあまりにもあっさりと刃を食い込ませ――落とした。いつもは寡黙な大男が、背中を丸めて、涙を浮かべながらそれを拾い上げた。
「ジョゼ……」
それは、まだ、開花する前の薔薇の蕾だった。
地球出発後、球根から育て始めた本物の薔薇だ。地球と隔絶し、人工物に囲まれ、壁一つ隔てた向こうは無情な死の世界だ。しかも任務中とあっては、クルーの気が休まる時はない。もし綺麗に開花させることが出来れば、これ以上の癒やしはないだろう。
三人はバイオ・プラントの管理保全担当だった。だが、如何せん、宇宙飛行士の訓練は十全に受けたエキスパートであろうとも、植物を育てるのはずぶの素人であった。
植物育成の知識と勉強は積んでも、初めての間引き作業にあたって、一から育てた花には思い入れもひとしおだったのである。
実に大げさに、大の大人で宇宙のスペシャリストたる彼らは、花の間引きを行った。
『たった一つのやり方』了
『冷たい方程式』+『ガニメデの優しい巨人』+『たったひとつの冴えたやりかた』
……よし、SFだな!
シャピアロン号は名前しか出てない上、『たったひとつ~』をカウントするのも強引過ぎるけども。