第1話 入学式には幻獣に注意せよ! その8
始業式が終わり、学生達は体育館から出て行く。
教室へと戻る足取りが重い。
それもそのはず、教頭と女性教師のこそこそ話がスピーカーに乗ったことで、一気に幻獣さんに対する恐怖感が広がってしまった。
マスメディアの情報操作によって幻獣は危険な存在ではなかったと教えられていたのだろうか。
いや、今になってはそんなのどうでもいい。ただ、泥の沼を歩くような速さで教室へと帰る生徒達の不安感は、どんな手を使っても拭うことができないだろう。
まったくバムコのヤツ、いらんことをしやがって。
クラスメイトのカオを見て、オマエが幻獣か? と詰め寄る人狼ゲームが始まってる。
このままだと人間と幻獣の信頼関係が崩れてしまうだろう。
「いやいや、スゴかったね!」
脳天気な声がオレの耳元に入り、そちらへと見る。
髪の短い男子生徒、美少年のカオをしている。
見たところ、スポーツマンっぽい。
「ボクは大島陸。陸って呼んで」
「オレは枕野相治だ。よろしく」
「よろしく。それで、あのマリカちゃんだっけ? スゴいね、カノジョ! 校長をノックダウンさせるなんて」
「あれはなんちゃってバハムートコスプレイヤー、略してバムコだ」
「え、それなら言うならナム……」
「ホント、バムコはホントに好き勝手してちゃって。アイツの言動でホントの幻獣さんが困っているぞ」
「え? カノジョ、ホントの幻獣さんでしょう?」
「そんなわけない。幻獣は人間と同じようになっているんだろう? 人間界に迷惑を掛けないために。なのに、アイツは頭に角を生やして、わざと幻獣と呼ばれようとしている」
「カノジョだけ特別じゃないの?」
「特別?」
「幻獣の力を制御できないとか」
「ああ、そういう設定もあるね。オレの邪眼が抑えられねえって、ピョンと角が出ているとか」
「そうそう! それだよそれだよ!」
乗るなよ! そこはツッコめよ!
「もし、キミは幻獣界に行って、他の幻獣へとなりきろうとして、人間のカタチが出ていたらどう言い訳する?」
「それはまだ幻獣になりきれないって――」
「マリカちゃんも人間になりきれないから、幻獣の姿を残しているんじゃない?」
「え?」
「多分、マリカちゃんはマリカちゃんなりに、幻獣と人間の架け橋になろうとわざと幻獣の姿を残しているんだろう」
「……考え過ぎじゃない?」
「考え過ぎじゃないよ。もし、ボクに角が残っていたら帽子とかそういうの被るから」
「そんなの学園側が許さないだろう」
「頭に角を付けるコスプレの生徒には注意しないの?」
「それを言われたら困るな」
「そういうこと、マリカちゃんはバハムートの娘という立場を考えて、自分の役割をこなしているんだろうな」
「……役割か」
そんなこと、考えたこともなかった。
「って、なんてね、冗談冗談」
「冗談かよ!」
「マリカちゃんについて、色々と知っていると思ったけど、何も知らないの?」
「今日会ったばかり」
「それにしては、けっこうマリカちゃんと話していたけど
話していたのはアイツの繰り出すボケにツッコミを入れていたからだ。
生まれながらのツッコミ体質がつらい。
「いや、それはあいつのコスプレ設定が痛いぐらいで」
「もしカノジョがしているのがコスプレなら確かめる方法はあるよ」
「あの角を取るのか?」
「違うよ。でも、マリカちゃんの性格を考えたら、多分、成功するよ」
陸はぼそぼそと耳打ちする。
「なるほど、それでわかるな」
「でしょう」
「ありがとう。試してみるよ」
これはマリカの正体を確かめる方法として最適だ。
次の時間が楽しみだ。