第1話 入学式には幻獣に注意せよ! その7
体育館で入学式が始まって30分。
オレ達生徒は立ちっぱなしで校長の話を聞いている。
「幻獣さんは人類が生まれる前から存在しており、彼らか学ぶことはとても多いと思います。それと同じように、幻獣さんが人間界へと来たのは私達人間から学ぶものがあります。我々人類は幻獣さんと共に、何かを学びながら、これからの世界について考えなければなりません」
校長先生の長話は貧血で倒れる生徒が出ていても話し続けるのだろうか、校長の舌が絶好調でまだまだ終わる気配を見せない。それに対して、校長の話を聞いている生徒達はふらふらっとしている。このままだとホントに倒れる生徒が出てきそうだ。
「……おい」
「なんだよ、バムコ」
「あの男、幻獣界じゃ全く喋らんかったのに、人間界だとこんなに舌が回るのか?」
校長も幻獣界へと来たのだろうか。
「しょうもない男ほどよく喋るものだが、ここまで時間をムダ使いするとはけしからん」
マリカはオレの横を通り過ぎる。
「おい! バムコ!」
「つまらん話をする人間に厳重に注意するだけじゃ」
「厳重注意!?」
「そうじゃ。幻獣なりのな」
マリカは不敵に笑い、体育館のステージへと進む。
平井先生は体調が悪くなったと思ってマリカに駆け寄るが、マリカは首を横に振る。
これはまずい。いくら世間の空気を読めないなんちゃってコスプレイヤーとはいえ、権力と逆らうのはいけない!
ステージに上るマリカ、長話をしていた校長も話をやめる。
こういう時、教師達はステージに上らせないように止めるのだがなぜか止めない。まさか、マリカの竜角におびえているのだろうか。
「おい、校長」
「何かね」
「もう良いじゃろう。皆、疲れておる。これ以上の長話は学生達の健康を阻害する」
「私の話はいらないというのかね」
「そうじゃ。さっきから話を聞いておれば、美辞麗句を並べた上辺ばかり話じゃ。幻獣さんと仲良くしましょう? 幻獣はヒトと同じになっておるのに、幻獣さんと仲良くしましょうなど言語道断! そのような言葉はただ自分を気持ちよく慰めているだけじゃ」
うわぁ……、それを校長の前に言うのか?
「ヒトのコよ、おこがましくなるな。どんなに言葉を重ねて理解されたいと思っても、耳にする方は好きな言葉しか耳にせん。これは太古の昔から繰り返されるヒトの愚である」
なんだか良いこと言ってますよ、バムコさん。
「そして校長よ! お主の話には決定的に欠けておるものがある!」
決定的に欠けているもの、それは?
「貴様の話には"オチ”がない!」
校長の話にオチを求めるな!!
「オチのない話を聞かされても面白くない! これは罪じゃ! 断罪じゃ! 厳重なる注意が必要じゃ!」
「厳重なる注意?」
「何、簡単じゃ、校長よ。今度貴様一人で幻獣界へ来るが良い。妾の父、いや、神竜バハムートが貴様に話芸の真髄というものを聞かせてやろう」
校長のカオが蒼白となる。
ここまで見事な顔面ブルーマンは見たことない。
「すいませんすいませんすいません。雇われ校長の身ですいません!」
校長が土下座をして謝りだす。
「長話はやめます。短くまとめます。一言で終わります。なんなら、足も舐めます!」
謝罪中に自分の性癖を白状するな!!
「わかったのなら良い。じゃが校長よ。これは注意じゃ。もし、今度くだらない話をしたら、即刻、幻獣界へと来てもらうからな!!」
「はい!!」
マリカはステージから下がり、元の場所へと戻る。
新入学生達はマリカの後ろ姿へ目を追うのであった。
「……校長の話はこれで終わります。次は教頭の話です」
このあとで話をするのは軽い罰ゲームです。
ステージのマイクの前に立った教頭は軽くお辞儀をする。
「……皆さんの門出をお祈りします」
教頭は怯えながらそれを言うと、一目散、ステージを後にした。
「なんですぐ終わるのですか……」
「学園長から聞いた話だが、我々の想像を超える巨大な竜と大海から姿を表したヘビと燃え盛る火の鳥、そして地面を這う獣を交えて、人間と幻獣との間で協定を結んだ。そのとき、人間側はどんな兵器を使っても勝てないと肌身で知った」
「あの少女のわがままを聞くのですか?」
「キミもわかるだろう。自然の脅威と同じように、人間が逆らってはいけないものがあることを」
「教頭!」
「我々は無力なのだ。幻獣達の要望に応えなくていけないのだ……」
教頭と女性教師の会話が止まる。
スピーカーから自分たちの会話が溢れていたからだ。
「えっと、マイク漏れてた? え、え?」
女性教師はあたふたと慌てる。
「ゴッホン。えー、これから、それぞれの教室の担当を受け持つ先生を紹介します」
つつがなく司会進行しても先ほど発した失言はごまかせないと思います。
「幻獣やべぇな」
「オレたちの中にそんなヤツらが?」
「おいおい、誰が幻獣なんだよ……」
生徒達の間では不安な会話が広がっていく。
「大丈夫ですよ! 皆さん、幻獣協定で守られています! だから大丈夫大丈夫!」
校長の態度を見ていたら、守られている感ゼロなんですけど。
それにしても、幻獣のホントの姿を目の当たりにした校長がこれだけ怖れるとは、幻獣の凄さが何となくわかった気がした。
しかし、なんちゃってバハムートコスプレイヤーのマリカも校長にハッタリをかませるとは恐るべし、コイツの胆力は見習いたいところだ。