第1話 入学式には幻獣に注意せよ! その3
空木学園。空木市にある巨大な学園。
昭和元年、空木神社にある空木の如くにそびえ立つ大樹のごとく、日々の成長を教育理念の下、設立された学園である。
空木学園は有名ではなかったが、現学園長が若き幻獣を生徒として迎え入れると宣言したことで、一気に名を知られた学園へとなってしまった。
幻獣達が来ると聞いたことで、元々この学園へと来る予定だった生徒の大半が別の学校へと受験することになった。しかし、オレみたいな物好きな人間が空木学園へと行ったので、新入生徒の数はプラマイゼロと言った所だろう。
空木学園の校門前に、マスコミがカメラを用意して、オレら生徒を写している。
確かに、若き幻獣さんが空木学園へと向かう画は誰もが見たがるシーンではある。
しかし、マスコミが幾らカメラで幻獣さんを撮っても、幻獣さんは人間と見分けのつかないため、撮るだけムダである。
ただ一人、マリカを除いて。
「ほぅほぅ、他の生徒がいるのに、皆、妾達を撮っておるのぅ」
「オマエの角が目立っているからなんだよ!!」
マリカの角を見たマスコミ達は、一斉にフラッシュの光を焚き付けて、写真を撮りだす。
こんなコスプレイヤーの姿を写真に撮った所で恥なのに。
いやいや、それよりも、こんな奴と一緒に全国デビューなんてしたくない。
「一気に走り抜けるぞ!」
オレたちは自分のカオを隠しながら、駆け足で走る。
「どうして走るのじゃ!!」
「恥ずかしいからに決まっているだろう!」
「なんでお主はそんなに恥ずかしがり屋さんなんじゃ!!」
「検索ワードランキングで上位になりたくないだけだ!」
フラッシュの中をダッシュし、オレたちは空木学園の校門をくぐった。
空木学園の生徒達が集まっている場所まで走ると、掲示板が見えた。
「ひなみ、バムコ、オレらのこれから通う教室が何処か探そうか」
と、二人に声を掛けるが二人の姿が見当たらない。
「迷子かあいつら?」
ひなみは運動オンチな所があるからわかるが、マリカまで足が遅いとは。やっぱり、アイツはバムコだ。
「まあ、いいや。オレの名前は」
掲示板に集まる生徒達をかき分け、オレの名前を探し出す。
苗字が枕野ということもあり、貼り紙に掲載されている名前はだいだい下の方にあると目星をつけながら探す。
1年2組
……
枕野 相治
竜王 マリカ
オレの名前はすぐに見つかった。
ついでにオレの名前の下にいたマリカの名前まで見つけてしまった。
絶対、なんかトラブるぞ。
そんなことを思いつつ、生徒の山から抜け出す。
「おっと」
生徒の山で視界がふさがれていたこともあってか、誰かとぶつかった。
「だいじょうぶか?」
オレは正面を見る。
青いショートカットの少女、ぶかぶかの学生服を着ている小柄なコだ。
「だいじょうぶ」
そういうと、カノジョは物静かに掲示板に群がる生徒を見ている。
どうやら、カノジョは自分の名前を探そうとしているが、生徒達が邪魔で見ることができないようだ。
「名前、見てこようか?」
「別にいい」
「良くない。時間がないぞ」
「時間か」
その言葉が重くのしかかったのか、カノジョはしばらく口を閉ざした。
「ウナバラ」
「うなばら?」
「海原舞。海の原っぱと書いて海原で、舞は舞う」
「ああ、海原舞ね。わかった」
オレは生徒達が群がる掲示板へと再突入する。
平泳ぎをするようにかきわけながら、海原舞の名前を探す。
1年2組
海原 舞
ああ、このコも同じクラスなんだ。
そんなことを思いながら、舞の待つ場所へと戻る。
「どうだった?」
「オレと同じクラス」
「オレ?」
「ああ、オレは枕野相治。よろしく」
ふと、考え違いしていたことに気づく。
「――じゃなくて、1年2組」
「1年2組」
「そう。1年2組」
「1組でもなく3組でもなく――」
「2組」
「2組か」
舞は感慨深く頷く。
「よろしく」
オレは軽く挨拶する。
「よろしく」
舞もたどたどしながらも挨拶をした。
――人助けもしたことだし、ひなみを探すか。ついでにマリカも。
そんなことを思いながら左右を見渡す。
しかし、ひなみの姿もなければ、マリカの姿もなかった。
「枕野相治」
舞はオレをフルネームで呼ぶ。
「何だ?」
「1年2組は何処だ?」
「えっとな」
前もって、オープンキャンパスで1年のクラスを見ていたこともあり、何処に1年2組があるのか知っている。ただ、それを口で説明するのはけっこう難しい。
「何処にあるかは知っているんだが、それを説明するのは」
「案内して」
「案内?」
「できる?」
「できるって言えばできるんだが」
ひなみと一緒に行きたかったんだが。プラス、マリカも。
「じゃあ、連れてって。あなたも行くでしょう」
「それはそうなんだが」
「わたしが幻獣だからイヤなの?」
「え?」
幻獣?
角とかそういうのないんですが。
「幻獣って、知らないで声を掛けたの?」
「ああ。そうだけど」
「そう。ちゃんとヒトになりきっているんだね、わたし」
舞はうんうんと頷く。
「それで枕野相治。わたしをここで放り出して、あなただけが1年2組へ行くの?」
「ヒト聞き悪いこと言うな」
「じゃあ、連れて行て。悪い条件じゃないはず」
「わかったわかった」
ひなみには悪いが、ここはこの舞という幻獣の女のコと一緒に行くことにしよう。