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ヒーロー、デビュー 4

「ヒイロ、今だ」


 キヨの銃撃を受け、影はあとじさった。キヨの合図でヒイロは剣を構え、影へ襲い掛かった。


「アウス・レイング」


 駆け抜けざまに切り捨てられた思念体は、瞬時に霞となった。


「強ぇ……」


 二人の見事なコンビネーションに、俺は思わず呟いていた。


 結局俺は「邪魔だから動かないでください」とヒイロから待機命令を下され、二人の後ろで大人しく戦いの様子を見学していた。


「量子空間内における個人の能力は、その意志の強さに依るところが大きい。このスーツもそれを念頭に、装着者がより大きな力を発揮出来るよう作られているんだ」


 俺の方を振り返りキヨは言ったが、今の様子を見ていると二人が俺と同じモノを装備しているとは到底思えなかった。

 次にキヨは、襲われた人の元へと駆け寄り、


「意識は無いが、無事なようだな」


 被害者の様子を確認すると、そう告げる。

 その言葉に、俺とヒイロは安堵のため息を漏らした。


「…………」


そこへ突然、物陰から一匹の塊が姿を現す。塊は俺たちの姿を見ると、すばやく身を翻して逃げていった。


「後を頼む」


 キヨは被害者をヒイロに託し、塊を追っていった。

 後を任されたヒイロは、慣れた様子で被害者の肩へ左手を置いた。


「アウス・エル」


 その言葉と共に被害者の姿が揺らめき、やがて空間に溶け込むように消えていった。


「い、今のは?」

「量子空間からの帰還コードです。普通の人間がこの空間に長くいるのは危険ですから」


 「危険」という聞き捨てならないワードに、俺はすぐさま反応した。


「危険って……どうなるんだよ?」

「詳しくは知らないけど、確か『個体を保てなくなる』ってキヨさんが言ってたような……」


 ヒイロが言いかけた時、俺達はさっきとは比べ物にならないほどの激しいノイズに襲われた。


「装置を返せ……」

「!」


 その中に混じって聞こえてきた言葉に、背筋を悪寒が走る。

 そして更にノイズが激しくなったかと思うと、俺たちの目の前にパーカー姿の男が現れた。


「……!?」


 突如目の前に出てきたのが普通の人間だった事に、俺は目を疑う。フードを目深に被っていて詳しい人相は分からないが、そこからのぞく頬は病的なほどに痩せこけていた。


「こい」


 男の掛け声と同時に、俺たちは「影」の群れに取り囲まれた。


「げっ!!こ、こいつは!!」

「しかも、一度にこんな大勢……!?」


 いわばボスの集団を相手にするようなものだった。俺は勿論のこと、ヒイロもこの光景には動揺を隠せない様子だった。

 だがそんなことにはお構いなく、影は俺たちへと向かってくる。


「くそ……」


 俺とヒイロは、覚悟を決めて武器を構えた……が、何故か奴らの攻撃はヒイロに集中する。

 俺の方は影の群れに少しずつ追いやられ、最終的に輪の外へ弾きだされてしまった。


「???」


 訝る俺に、今度はパーカー男がゆっくりと近づいてきた。


「く、来るな!」


 俺は槍で男をけん制するが、只の人間を相手にどう対処していいのか分からない。男へ向けた切っ先は、どうしても定まらなかった。


 しかし男は、人間では到底不可能な動きで俺の目の前へ迫ってきた。


「!?」


 思わず怯んだところに、男の攻撃がクリーンヒットした。相手は素手にもかかわらず、俺は数メートル先まで吹っ飛ばされていた。


「ぐ……」


 息をしようとすると激痛が走る。この痛み、骨までやられているかもしれない。

 俺は立ち上がることも出来ず、ただその場に這いつくばることしか出来なかった。


 男が、こちらへ歩いてくるのが気配で分かる。


「ミキさん!!」


 時間的にヒイロはまだ必殺技を発動できないらしい。流石に、今は影の猛攻を受け流すのが精一杯のようだった。


 スニーカーを履いた足が、俺の鼻先で止まる。


「……」


 男は無表情のまま、俺の装置へ手を伸ばしてきた。


「伏せろ、ヒイロ!!」


 突然のキヨの怒号に、男の手が止まった。


「アウス・レイング!」


 俺が顔を上げるのと同時に、キヨが銃の引き金を引いた。

 銃からは閃光が発射され、ヒイロの周りにいた影の集団は一瞬にしてかき消される。


――あの大群を、たったの一度で!?


 俺は、驚きと感心の眼差しでキヨを見た。


「まだ戦う気なら、相手になろう」


 キヨは男に銃口を向けた。そのまま二人は一瞬睨みあったが、


「チッ……」


 悔しげな表情を浮かべ、男は退散してしまった。

 男の気配が消え、俺は全身から力が抜けていくのを感じた。


「立てますか?」

「何……とか……」


 駆け寄ってきたヒイロに助け起こされ、俺はようやく立ち上がった。


「量子空間での負傷は、ある程度であれば物理領域には影響を及ぼさない。痛覚への刺激は残るだろうが、怪我自体は元の世界へ戻れば治るだろう」


 戦いの度にこんな重傷を負っていては、日常生活もまともに送れなくない。

 半信半疑ながらも、俺はその言葉に少し安心した。


「それにしても、あの男は……?」


 キヨは、男が消えていった空間をなおも睨み続けていた。




 その後、俺たちは一旦基地へ帰還した。


「思念体を操る人間、か……」


 俺とヒイロの話を聞き終えたキヨは渋い表情を浮かべた。


「キヨさんが来なかったら、今頃……すみません」


 そう言って俯くヒイロに、キヨは静かに首を横に振った。


「君たちの話が正しければ、俺が追った奴は陽動……戦力分散が狙いだった可能性が高い。最初にヒイロが駆除した思念体も、殲滅コードを使わせるために仕組まれていたのかもしれないな」

「つまりは、全部装置を奪うための作戦だったってことですか?」

「恐らくはそうだろう」


 奴がそこまでして、俺の装置を狙ってきたということは……


「……じゃあ、あのパーカー男が元の持ち主なのか?」

「でも、だったらなんで無理やり奪い返すなんて面倒な真似をするんでしょう?普通に返してもらえばそれで済むと思うんですけど」


 これまでは思念体を送り込んだ本人に会って、装置を返せば問題は解決するものとばかり思っていたのだが……。

 事態は、俺の思う以上にややこしい事情が絡んでいるようだった。


「いずれにせよ、その男がかなりの執念を持って行動していることは確かだ。今は、とにかく警戒を怠らずにいるしかないだろう」


 結局その日は、それぐらいしか結論の出ないままに解散となった。

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