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ヒーロー、デビュー 2

「なっ『無い』!?そりゃどういうことだよ!!」


 その冷淡な口調に俺の怒りが再燃する。そんな俺には構わず、ブルーは静かに話を続けた。


「その装置は、常に所有者の状態を監視している。一部の『特殊な状況』を除くと、装置を外すことが可能なのは、所有者の生体反応が消失した場合のみだ」

「生体反応の消失って……死ぬってことじゃないか!?」


 なんて理不尽な仕様の代物だろう。俺自ら進んで装着したわけでも無いのに、これじゃ本当に呪いのアイテムだ。


「じゃあその『特殊な状況』ってのは!?」


 俺はなおも食い下がった。


「あまり頻繁にあることではないが……。その装置は、装着者の死亡時以外では『適合者間での譲渡』のみが可能となっている。つまり君は、もともと装置を持っていた何者かからそれを譲り受けたということだ」


 俺の場合、「押し付けられた」と言った方が正しい気もするが。


「装置を外したければ君から元の所有者へ返還するのが一番早いが、今のところそれは無理だろう?」

「そ、そうだけど……。でも、あの化け物が『返せ』って言ったってことは、その『元の持ち主』ってのはどうしても装置を返して欲しいってことだろ?俺に無理やり押し付けといて、あんな仕打ちは無いんじゃないか??」

「大体装置が目的なら本人が直接出向いてくればそれで済むのに、やり方が随分と回りくどいですよね」


 確かにレッドの言う通りだ。

 言ってることとやってることがあまりにも矛盾していて、相手の目的が何なのかさっぱり分からなくなってきた。


「……いずれ、はっきりする時がくるだろう。ただ現状分かることは、今後も奴らは装置を狙って来るだろうということだ。一般市民を巻き込むのは不本意だが、しばらくは行動を共にしてもらうしかなさそうだな」

「え……?」


 だんだん話の雲行きが怪しくなってきた。顔からも、血の気が引いていくのが分かる。


「それだけでなく、思念体の駆除にも同行してもらう。装置を所有している以上は、自分自身の身を守る術は学んでおいたほうが有益だろう」

「キヨさん、本気ですか?」


 このブルーの意見に、俺の無様な戦いっぷりを見ていたレッドが少し不満そうに聞いた。


「仕方が無い。万が一俺たち二人の手が間に合わなければ、危険に晒されるのは彼だからな」


 そこまで聞いて、俺の中にある疑問が浮かんできた。


「あの……ここにいる二人以外にメンバーは?」

「そんなのいませんよ。今まではそれで何とか間に合ってたし……」

「言わば俺たちは『非公式』な存在だ。どこかの組織に帰属している訳ではないんだ」


 俺は目の前が真っ暗になった。

 こんな高度な技術を駆使してるんだから、少しは立派なヒーロー組織を想像していたのに……。


「何せ『君の住む世界』に思念体が出現し始めたのがここ最近の十数ヶ月、それも出現場所は『君の住む街』の周辺が殆どだからな」


 かなり重大な話の気もしたが、不安と絶望に打ちのめされた俺の耳にはろくすっぽ入ってこなかった。


「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺は……まあ、キヨでいい」


 俺の気分などお構い無しに、ブルーが右手を差し出してくる。


「……緑山、幹継」


 俺がノロノロと手を差し出すと、「キヨ」はそれを力強く握り返してきた。


 それからキヨはレッドのほうを向く。

 レッドは観念したようにため息をつき、


「『日阪緋色ひさかひいろ』……ヒイロでいいです」

「よし。今日はもう遅い、そろそろ解散しよう。この装置があれば、互いにテレパシーで意思の疎通が可能だ。何かあればすぐに連絡しよう」


 こんなちっぽけな機械を外すだけのはずが、事態がここまで面倒な方向へ進展するとは……。

 こうして不本意ながら、俺はこいつらのヒーロー稼業を手伝わされる派目となったのだった。




 翌日。

 俺は、充血した目を瞬かせながらトーストをほお張っていた。テレビから流れてくるヘッドラインに目もくれず、黙々と紅茶で流し込む。


「ツグ兄……昨日は良く眠れた?」


 俺の様子を心配したヒナカが、向かいの席から尋ねてきた。

 親は早朝から深夜まで仕事のことが多いので、我家の食卓はほとんどヒナカと二人きりだ。


「ああ、ちょっと疲れが溜まってるだけだから……」


 俺は出来るだけ穏やかに答えた。せめて妹との朝食ぐらいは、面倒なことは忘れて健やかに過ごしたい……。


 そのときちょうど、テレビのニュースは朝の特集コーナーへと切り替わった。


「今月14日で、『夢ヶ丘線脱線事故』からちょうど十年が……」


 突然流れてきたその言葉に、身体が思わず強張った。

 すぐさま目の前のヒナカの様子を確認すると、口へ運びかけたティーカップをテーブルへ戻したところだった。


「そっか、もうそんなになるんだね」


 平静を装ってはいたが、その手が小刻みに震えているのを俺は見逃さなかった。無言でテレビを睨んで立ち上がると、電源ボタンをオフにした。


「もう、バスが来ちゃう……」


 ヒナカは慌しげに鞄を取り、


「じゃあ、行くね?今日は先生のところに寄るから、帰り遅くなるよ」

「ああ――…」


 「気をつけて」と声をかける暇も無く、ヒナカは足早にリビングを出て行った。やがて玄関扉の閉まる音が聞こえ、家の中は静まり返る。


「……」


 俺は、妹が出て行った扉をいつまでも見送り続けていた……。


 ……が、俺のしばしの物思いは玄関のチャイムによって中断された。


「なんだ……?」


 ヒトの家を訪ねてくるにはまだ時間が早い。いぶかりながらも玄関へ出てみると、


「おはようございます」


 そこにはヒイロが立っていた。


「ヒ、ヒイロ!?それにその制服……!」


 ヒイロが着ているそれは、明らかに俺の高校のものに見える。


「またいつ奴らが襲ってくるか分かりませんから、しばらく『ミキさん』に張り付くことにしました。それなら襲われる心配も減るでしょ?」


 ――やっぱりそれか……。


 俺の心は一気に厳しい現実へと引き戻された。


 それにもう一つ、聞き捨てならない単語が……。


「……『ミキ』って、俺のことか?」

「苗字も名前も言い辛いんで、端折はしょってみました。それとも『ミドリさん』の方が良かったですか?」


 正直どちらも気に入らないが、もはや訂正させる気力すらも湧いてこない。


「『ミキ』でいいよ……。ちょっと支度するから待ってろ」


 ヒイロをそのまま待たせ、俺は家の中へ引き返す。五分後、俺はヒイロと家の門を出た。

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