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継ぐ想い 2

「ミキ!」


 駅構内まで来た時、前方からキヨが近づいてくるのが見えた。


「キヨ!?」


 俺もヒナカの手を離さないように気をつけながら、何とかキヨの(そば)まで辿り着くことが出来た。


「お前、どうしてここに……」

「話は後だ、一旦駅の外に――……」


 だが俺たち二人を見た途端、キヨは表情を凍らせた。


「ミキ、彼女から離れろ」

「……は?」


 「彼女」と言われても……。俺はヒナカとキヨの顔を交互に見る。

 キヨは硬い表情を崩さず、ヒナカをじっと睨み続けていた。


 と、突然体が後ろへ引っ張られた。


「おい、ヒナカ――……?」


 ヒナカは俺の手を引っ張り、人混みの中を逃げていく。俺はわけも分からず、ヒナカに連れられるままに走った。


 やがて駅の改札をすり抜け人気のない高架下の差し掛かったところで、


「止まれ!」


 どうやら先回りされたらしく、キヨが俺たちの前に立ちはだかった。


「ちょっと待てよ!お前どうかしたんじゃないか?」


 俺はとっさにヒイロを庇い、二人の間に立った。


「……ミキ。物理領域で君と鉢合わせた夜、俺が話したことを覚えているか?」


 確か、前にヒナカに会ったことがあるとかどうとかいう話だったか。


「ああ、それが何だよ」

「ようやく既視感の正体が分かった。彼女は――……」

「違う!!私は……」


 キヨに抗議するように、ヒナカは声を張り上げた。


 しかし……


「私は、アンタみたいな化物じゃない……!」


 今まで聞いたことがない低いトーンの声に、背筋を寒気が走った。


「ミキ、右に避けろ!」


 キヨの声に、俺は反射的に横へ飛んだ。

 直後、何かが脇をかすり抜け、俺は転んで地面に手をついた。


「……っ!」


 かすった箇所に痛みを感じて手をやると、掌に僅かだが血が付いた。


「!?」


 慌てて目線を上げると、手にナイフを握ったヒナカが俺を冷たい目で見下ろしていた。


「ヒ、ヒナカ……?」

「……アンタ、まだ分かんないの?」


 ヒナカはうんざりしたように呟いた。


「私は姫……『姫香ヒメカ』だよ」


 ヒナカ……正確にはヒナカを乗っ取った「ヒメカ」は、ナイフを高々とかざし振り下ろそうとした。


「このっ!」


 そこへ、キヨがヒメカに体当たりを仕掛けた。だがヒメカはそれも難なくいなし、逆にキヨへ膝蹴りを食らわせた。


「化物が出しゃばるなっての!」


 その場に崩れ落ちたキヨを更に蹴りつけようとしたところで、


「止めろ、ヒナカ!」


 俺はすかさず立ち上がり、豹変した妹を後ろから抑えた。


「ヒメカだって言ってんでしょ!!」


 俺の言葉にヒメカは怒りを顕わにする。女子中学生とは思えないような強い力で振りほどかれ、振り回したナイフの切っ先が俺の頬をかすめた。


「アンタから先に殺ってあげる!」


 俺が体勢を立て直す前に、ヒメカが猛然と襲いかかってきた。

 俺はとっさに自分を両手で庇い、目をつぶった。


「……?」


 だが何も来ない。

 目を開けると、ナイフの先端は俺の目の前で止まっている。ヒメカ自身、動かない自分の腕を驚いたような表情で見つめていた。


「『こいつ』、まだこんなマネが……!」


 ヒメカはギリッと歯軋りし、


「今度こそ完璧に叩き潰してやる!!」


 そう言ったきり、妹は気を失った。


「ヒナカ!」

「まずい……奴は彼女の人格を取り込むつもりだ。早くしないとヒナカさんの人格が破壊される!」


 起き上がってきたキヨが、ヒナカを見て表情を険しくした。


「は、早くアイツを追いかけないと!」

「この装置では個人の深層意識にまで潜入することは不可能だが、一つ心当たりがある」


 そう言ってキヨは装置に向かい、


「アウス……」

「ちょっと待てよ!」


 キヨは顔を上げて俺を見た。


「俺も行く。装置のロックを外してくれ」

「君は妹さんの事で前以上に動揺しているはずだ。それでも俺の指示に従えるか?」


 確かにキヨの言うとおりだが、このまま俺一人手をこまねいているわけにはいかない。

 俺はキヨの問いに一つ頷いた。


「……いいだろう。ミユ、聞こえるか?」




 量子空間に立った俺とキヨはスーツを身につけ、更そこから駅の構内に移動した。空間内はかなり不安定になっているせいか、景色の所々にノイズのようなものが走っていた。


「来たな」


 キヨが前方を見据えたまま呟く。その視線の先には、


「いやあ、御機嫌よう。そろそろ来るんじゃないかと思っていたよ」


 いつもの調子で、喋雑がこちらへ歩いてくる。更にその隣には、見覚えのあるパーカー姿があった。


(ユウ!)


 ミユの声が聞こえているのかいないのか、ユウは無言で俯いたままだった。


 キヨは喋雑から視線を移さず、


「ヒメカの人格は、お前がヒナカさんを誘拐した時に見つけ出したんだな」


 キヨの言葉に、俺も喋雑へ目を向けた。喋雑はククッと笑い、


「無意識層の片隅に厳重な『ロック』を見つけてね。試しに開けてみたらあの子が閉じ込められていたんだ。何か色々と『思うところ』がある様子だったから、いつものお節介で協力してやることにしたのさ。ククク……」


――こいつがヒメカを……!


 思わず詰め寄ろうとした俺を、キヨは手で制した。


「せっかくだから、『彼』もお披露目しよう」


 奴が仰々しく指を鳴らすと、横に立っていたユウに異変が現れた。


「ぐ……」


 ユウは頭を抱え、こちらへヨロヨロと歩み寄ってきた。


「ユウ?」

(マって!ヨウスがおかしい……)


 ユウは数歩で立ち止まると、顔を上げる。


 俺の方を窺うその目は、黒一色で塗りつぶされていた。


「やれ」


 喋雑が一言そう言うと、ユウの腕が黒い刃物に変形した。


「テキ……シマツ……」


 ユウが振りかざした腕をとっさに槍で防ぐが、今のユウの力は以前戦った時の比ではなかった。


「そのままユウを引きつけてくれ!」


 キヨが俺の横を走り抜け、真っ直ぐ喋雑へ向かっていった。


「ちょっ……!」


 一体何をする気だろう。俺はその意図も分からず、ただユウの攻撃を必死で受け流していた。


「こいつを先に始末しろ」


 喋雑が命令すると、ユウは強引に俺を突き飛ばし凄まじい速さでキヨへ迫った。


「ま、待て!」


 その後を追いかけ足を攻撃するが、ユウのスピードが鈍ることはない。

 キヨはチラリとこちらの方を振り返り、


「アウス・レイング!」


 素早く真後ろへ必殺技を撃つ。キヨは後を確かめることなく向き直り、喋雑へ肉薄する。

 だがキヨの攻撃を、ユウは危ういところで躱していた。


「キヨ、まだだ!」


 身体の一部を削り取られてはいたが、それでもキヨを止めるには十分だった。

 ユウのつきだした腕は、キヨの胴体のど真ん中を深々と貫いた。


「どうやら少し、急きすぎたようだね?」


 喋雑はさも愉快そうに笑い声をあげた。


「キヨッ!!」


 俺が武器を握りしめ足を踏み出そうとしたとき、キヨがゆっくり振り向いて俺を見た。


(来るな!)

「!?」


 頭の中に響いたキヨの声に、俺はとっさに足を止めた。すると高笑いし続けていた喋雑の背後から、


「えいっ!」


 突然ぼんやりと透けて光るシルエットが飛びかかった。


「ミユ!?」


 予想外の襲撃に、喋雑が珍しくうろたえてる。


「……小賢しいガキがっ!」


 喋雑は力任せにミユを振り落とし、地面へ叩きつけた。


「こいつを始末しろっ!」


 キヨを無造作に投げ捨て、ユウはミユへと迫った。


「ミキ、これを!」


 そのとき、ミユが俺に向かって何かを放り投げた。

 慌ててキャッチすると、それは「鍵」だった。


「??」


 俺は手の中の鍵に首をひねる。すると喋雑は自分の手を確認し、


「奴から『解除コード』を取り戻せっ!!」


 ヒステリックに叫び散らす。

 それにもユウは従順に従い俺の方へ向き直ったが、ミユがその行く手を邪魔した。


「そのカギをヒネって!」


 俺は慌ててミユの言うとおりにする。すると視界は歪み、暗く沈んでいった。

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