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学園祭 5

南斗高校学園祭当日。

桃は、頭を抱えていた。


「・・・やっぱりこうなるんですか?」


「まあ、仕方あるまい。」


「特別クラス特典の見返りのようなものだからな。」


両脇から返って来る声は、既に達観しているのだろう落ち着き払っている。



学園祭のオープニングセレモニーが開かれるメイン会場となる大講堂。ここの飾りつけ自体が、一般クラスの1学級の出し物になっている会場は、バルーンアートや生け花で豪華に演出されている。


その中心に桃は居た。


しかも体育祭同様、お立ち台のような舞台の前列に3人で並ばされているのだ。

当然3人とは、桃、吉田、仲西のことであった。

体育祭と違うのは、真ん中が桃で、左が吉田、右に仲西という並び順くらいである。


3人共、威風堂々とした君主風の衣装を身につけている。

自分の動きと共に揺れて広がるゆったりとした上衣の裾と幅広の長い袖に、ため息がこぼれる。


はっきりきっぱりコスプレにしか見えなかった。




「何で?」


「まあ、学園祭といえば、最近では定番だからな。」


「客寄せパンダみたいなものです。」


確かに動物園のパンダになった気分である。

大講堂をぐるりと囲むギャラリー席には、開会式前だというのに父兄や卒業生、他校の生徒や何の関係もないはずの一般人などがワンサカ押し寄せて来ている。

その全ての視線が桃たち3人のいる舞台に注がれていた。


居心地の悪さナンバー1である。




「入場制限が出ているらしいですね。」


そう言ったのは、桃の後ろに立つ明哉だった。

頭に綸布(かんきん)をかぶり長めのゆったりとした着物を身にまとい、大きな羽扇で優雅に口元を隠している。

スラリとした体に軍師のいでたちがとてもよく似合っていた。


「だいたいどこの高校も同じ時期に学園祭をしているはずなのにな。」


呆れたように言うのは、明哉と並んで桃の背後に控える利長である。

豪華な刺繍の施された着物の下にズボンをはき、その上から意匠をこらした派手な防具を身につけていた。

腰には桃には持ち上げる事さえできないのではないかと思われるような大刀を()いている。

こちらも見惚れるような将軍姿であった。


2人並んだその美しさに、ギャラリーのあちこちからため息がもれている。



一方、吉田の後ろには、軍師スタイルの内山と将軍スタイルで目には眼帯をつけた堤坂(夏候惇)がおり、この3人は3人で落ち着いた渋い雰囲気をグッと出していた。

威厳漂う3人に男性陣や年配のご婦人たちから称賛の眼差しが送られている。


そして、仲西の背後には、名士の格好をした剛と将軍スタイルの荒岡がいた。

当然、仲西と荒岡、そして何気に可愛い剛に、女性陣から熱い歓声が飛んでいる。




なんでもこのコスプレは、歴史研究クラブによる発表の1つで、事前の全校アンケートの結果から、学年や軍学の授業の振り分けに関係なく、魏、呉、蜀それぞれ3人ずつ選ばれた代表による三国志時代の服装に関する研究発表なのだそうだった。


ただのコスプレもそう言われると何だか偉そうに聞こえるから不思議である。


吉田の後ろの内山も仲西の後ろの剛も、居心地悪そうにしかめっ面をしていた。まあ、内山に限ってはいつもどおりの顔と言えるのだろうが。


「昨年は、私は呉の軍師衣装だったのですがね。」


美々しい将軍姿の荒岡はそう言って苦笑する。


「どっちにしろ、お前は最高だ。」


「ありがとうございます。」


素直に臣下を褒める仲西に、荒岡も嬉しそうに礼を言った。


その2人の様子に、またもやギャラリーから一種異様な悲鳴が上がる。

高校生女子+αのパワーは、半端なかった。




「この様子では、また今年も“ミスター”は荒岡が取りそうだな。」


そのパワーに呆れながら吉田がそう呟く。


「ミスター?」


何の事かと桃は聞き返した。


「え?桃は、知らなかったのですか?」


「ミスコンだ。学園祭にはつきものだろう?」


明哉と利長の言葉に、桃は口をポカンと開ける。


「・・・ミスコン?」


ミスコンとは、今更語るまでもないが、未婚女性の中から誰が一番美しいかを競うものである。

確かに学園祭では開催されることが多いイベントではあった。


なんでも南斗高校では、学園祭でミス&ミスター南斗を選ぶのだそうで、このオープニングセレモニーを飾るコスプレ・・・元へ、歴史研究クラブの発表に出た人物は、ミスコンへのエントリーが自動的に行われるという事だった。



昨年のミスター南斗高校は、当然のように荒岡である。



「もちろん次点は私だ。」


そうでしょうねと桃は、半ばあきれながら、そう言ってくる仲西に相槌を打った。

ミスコンでこの美しすぎる主従コンビに敵う者がいるとはとても思えない。


それにしても、この三国志の武将だらけの高校で、ミスコンはあまりにもミスマッチだろうと思ってしまう。


(だって、女子がすごく少ないのに。)


確かに一般クラスには多くの女生徒がいるし、理子をはじめとした特別クラスの女子も皆レベルが高い美少女ばかりだが、それでも三国志とミスコンは桃の頭の中では結び付かなかった。



あらためてここは、セカンド・アースなのだと思い知る。



「あ、じゃあ昨年のミス南斗はどなただったんですか?」


ふと気になって桃は聞いてみた。

時折見かける今の2年や3年の女子生徒も美人揃いであるように見えるが、実は、桃はあまりよく知らない。

ひょっとしたら(べん)皇后とか歩夫人とかの生まれ変わりの女生徒もいるのかしら?と桃は思う。(ちなみに、卞皇后は曹操の妻であり魏の文帝となった曹丕の母である。歩夫人は孫権が最も寵愛したといわれる夫人であった。)

1年に劉備のかつての夫人たちがこぞって転生しているのだから、2年や3年に孫権や曹操の夫人が転生していても不思議ではないだろう。



桃の質問を聞いた途端に、荒岡の表情は暗くなった。


仲西の笑顔は引き攣り、吉田は細い目をますます細くして、意地の悪い笑みを浮かべる。



「荒岡だ。」



「違います!」



吉田の言葉を荒岡は直ぐに否定した。


「え?」


一瞬桃は何が荒岡なのかよくわからなかった。



「去年のミス南斗高校は、荒岡だ。」



「違います!!」



「最多得票がお前だったのは、間違いようのない事実だろう?」



荒岡は悔しそうに唇を噛んだ。




・・・要は、ミスもミスターも荒岡への得票がダントツに多かったのだそうだった。


流石にミス南斗高校は、男の荒岡への票は無効票になり次点であった当時3年生のアイドル並みに可愛い女の子になったのだが、その得票数は荒岡の半分にも届かなかったそうだ。


「決して私が女装したとか、そういうわけではありません!」


何だか必死に荒岡は桃にそう訴えかける。



その麗しすぎる顔を見て、まあそれも仕方ない結果なのかもと、桃は納得する。



美しすぎるのもたいへんなのねと、同情する桃であった。

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