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セカンド・アース  作者: 九重


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現在 夢のあと(番外編)

明哉は、ゆっくりと目を開ける。



(懐かしい・・・)



目覚める直前、明哉は前世の夢を見ていた。

益州を制したばかりの頃の、嬉しくも恥ずかしいような思い出の夢。


・・・結局前世の諸葛亮が劉備と一緒に寝たのは、あの時だけだった。


(私は、陛下の寝顔をじっくり見る事が叶わなかった。)


諸葛亮が見た劉備の寝顔は、亡くなって後の眠っているかのような死に顔だけだ。


思い至って、ゆっくりと頭を振る。

思い出せば、劉備の死は、今も胸の張り裂けそうな哀しみを明哉に与えた。

もう二度とあんな思いはしたくない。



頭を振ったことで、明哉の体は揺れた。



「う・・・う、ん。」



傍らで小さな吐息が漏れるのが聞こえる。


「?!」


驚きながら、同時に自分の隣に重さと温かさを感じて、明哉はそちらをそっと見た。



明哉の肩を借りて・・・桃が眠っていた。



(!!)


そこは、明哉の部屋のソファーの上だった。

桃と明哉は互いに体を相手に寄りかからせながら眠っていたようだった。


パサリと静かな音をたてて、明哉の膝の上から開いていた教科書が滑り落ちる。


そう言えば、わからない問題があるからと夜中に明哉に質問にきた桃と、2人ソファーに座って勉強していたのだと思い出した。


・・・期末テストが終わり、桃の順位は大幅に上がった。

勉強会の成果が如実に表れたもので、参加していたメンバーはいずれも成績を上げていた。(もちろん、1位の明哉は上がりようがなかったが・・・)


戸塚など赤点が1つもなく、高校生活始まって以来の追試のない結果を、なかなか自分でも信じられないようだった。

本当に自分は追試を受けなくとも良いのかと教師に詰め寄っていた姿が皆の笑いを誘った。


しかし、桃の成績は上がったとはいえ、10位以内には入れなかった。

この1年の顔ぶれでは、それは至難の業だと思われるのだが、自信満々に桃を10位以内にしてみせると豪語していた内山は、その責を負って桃の指導係から外されてしまう。


このため期末テスト以降、次のテストまでの間の桃の勉強を、明哉が見る事になったのだった。

桃はこれでもう十分だと言ったのだが、明哉がこのチャンスを見逃すはずがない。

勉強会は今まで通り続けても、今回のように突発的に2人きりで勉強できる機会を、他のメンバーに譲るわけにはいかなかったのだ。


明哉の目論見どおりに2人きりで勉強して・・・

連日の球技大会の練習で疲れ切っていた桃と明哉は、おそらくそのまま眠ってしまったのだろうと思われた。


カーテンの隙間から朝の光が射し込んでいる。


もう朝なのかと思いながら、今が夏で布団をかけずとも風邪を引く心配がないことに明哉は感謝した。



・・・桃の寝顔をそっと見る。



体をすっかり明哉に預け、安心しきった表情で眠る桃の姿に、明哉の胸は高鳴った!!


伏せられたまつ毛は長く、唇は赤く、肌はなめらかで柔らかそうだ。


あまりにドキドキと心臓が脈打つので、この音で、桃を起こしてしまうのではないかと怖くなる明哉だ。



それほどに明哉は幸せだった。



前世では見る事の叶わなかった、生きて呼吸して眠るその姿を飽きることなく明哉は見続ける。



幸せな時間が過ぎていった。



・・・・・・・・・・・・



早朝、いつものように早々(はやばや)と桃を朝食に誘うため部屋を訪ねた理子が、桃の姿が見えずに大騒ぎするのは、もう少し時間が経ってからの事になる。


騒ぎを聞きつけた全員で桃の大捜索が始まるのはその後だ。


明哉に報せに来た拓斗が、眠る桃とそれを優しく見守る明哉の姿を見つけて、言葉にできないような意味不明の叫び声を上げるのは更にまたその後で・・・




桃の、いつもどおりの、賑々しくも楽しい1日がもうすぐ始まろうとしていた。





幸せな明哉に見守られて、桃がどんな夢を見ているのかは、誰も知らない。


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