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セカンド・アース  作者: 九重


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体育祭 14

騎馬戦の進行ルールは各種あり、各学校によってさまざまな取り決めが存在する。


意識を盛り上げるために、各団の(のぼり)を立ち並べ、準備と称して派手な煙幕を焚く学校もある。

太鼓を打ち鳴らし、勇壮なサウンドトラックを効果音に入場行進を行い、大将による宣誓や前口上が述べられるという学校も多い。

戦意高揚のために校歌などを歌う学校もあるだろう。


桃にとって幸いな事に、南斗高校にはそれらの儀式は一切なかった。


そんなものがなくとも、騎乗した武将達が戦場となる競技場に入場してくるだけで、否が応でも応援する生徒たちや観客の興奮は高まるのだ。


大きな歓声が上がる。


誰もが息をのんで見詰める中で、戦いの火蓋が切られた。




騎馬戦開始の合図と共に、吉田も仲西も陣地を飛び出し進軍を開始した。

自陣で万が一にでも討たれる事があれば、倍の得点を相手に与えてしまうのだ。

当たり前と言えば当たり前の戦法と言えた。

目指す敵の陣地内か、最悪フリー区間に拠点を構えたい両軍だ。


・・・蜀団も、開始の合図と共に、本隊から3つの組が飛び出して行く。


その構成は、


1 翼(張飛) 利長(関羽) 蓮(徐庶)

2 悠人(黄忠) 陸(厳顔) 天吾(龐統)

3 串田(呂布) 牧田(劉表)


であった。


翼たちは魏の陣地へ

串田と牧田は呉の陣地へ

悠人たちはフリー区間へと駆ける。


いずれも(みなぎ)るような戦意と勝利への意欲で弾け飛ぶような勢いだった。




ぐんぐんと迫りくる彼らを見た魏と呉の部隊は、迎え撃つべく腕に覚えのある武将を繰り出してくる。


たちまちのうちに、競技場のあちこちで戦いの花が咲いた!


華々しく打ち合う姿に観客席から再び大きな歓声が上がる!!


騎馬戦の興奮のボルテージは、開始早々最高潮に上がっていった。




そんな中で、残りの蜀団は、誰もが意外に思う動きをとる。

なんと彼らは自陣の中で、桃を中心とした守りの陣を敷いたのであった。


その布陣は・・・


桃を中心に、

左に明哉(諸葛亮)

右に内山(荀彧)

正面前方に戸塚(許褚)

戸塚の左に聖(趙雲)

戸塚の右に隼(馬超)

左後方を猛(糜竺)

右後方を不破(馬良)

そしてその最後方に西村(法正)


という配置だった。


実は、この配置を決めるのには一悶着あった。


明哉を初めとした名だたる名士の多い1年の“馬持ち”だが、名士・・・(すなわ)ち文臣が多いということは、言い換えれば、戦闘力が低いということだった。


もちろん、五将軍が揃っているし、呂布のような一騎当千の規格外の強者もいる。

1年の20騎以外にも許褚までいるのだから、1年の戦力が他の学年に比べて格段に劣っているというわけではなかったが、17騎を選ぶとなると、難しい問題が生じる。



錚々(そうそう)たる顔ぶれの名士たちの誰1人、自分が降りますとは言わなかったのだ。



17騎ぎりぎりしかいない魏からみれば、ぜいたくな悩みに、明哉は頭を悩ませる。


明哉にしてみれば、内山や西村といった自分の命に従うかどうかもわからない軍師は、練習ではともかく、本番では必要なかった。


むしろ、居てもらっては面倒な存在である。


彼らを入れるくらいであれば、同じ軍師でも自分に忠実な馬謖や、そうでなければ王平あたりを入れたいのが本音だった。


しかし、明哉がそう言って、はいそうですかと引き下がるはずのないのが、内山であり西村だ。



「私に下がれと言えるのは、“留侯”くらいなものです。」


憂い顔をますます深くして内山はそう言い放つ。

“留候”とは、漢高祖劉邦(りゅうほう)を皇帝にしたてあげた謀臣であり史上最高の”王佐の才”である張良(ちょうりょう)字は子房(しぼう)のことである。

曹操が荀彧を「我が子房ができた。」と喜んで迎えたというのは有名な話だ。



一方西村も、


「他はともかく、事、軍事にかけては、お前より俺の方が上だ。名士が多くて抜けろというのなら、外れるのは俺よりもお前の方だろう。」


堂々とそう言った。


明哉とて、言い返してやりたいことは沢山ある。しかし、ここでそれを言い出せばどちらも一歩も引かない言い争いが延々と続くことになるのは明らかだった。

名士同士、論戦を繰り広げるのも明哉にとっては望むところなのだが、残念ながらそんな時間が無い。



結局内山も西村も17騎の中に入る事になった。


本陣を守る武将は、戸塚と聖、隼の3人のみである。

あとは、猛が武芸に秀でているくらいだ。


いくら三国志最強といわれる武将、許褚がいるとはいえ、大将を守る本陣の守りとしてはいささか頼りないように思えるのは、仕方のないことだろう。


魏団と呉団がこれに目をつけないはずはないと思われた。


「心配いりません。以前から話しているとおりです。私たちは全力で、桃あなたを守って勝利を手に入れます。どうかご安心ください。」


明哉の言葉に、桃は苦笑した。


少しも心配などしていない桃である。



「・・・良い策だ。」



落ち着いてそう返した。


少し瞠目した後で、明哉は黙って頭を下げる。

前世と同じく、聡明にして強く優しい主君に満足していた。


「皆、気を抜かないように。魏も呉も必ず攻撃をしかけてきます!」


来ないわけにはいかないだろうと明哉は思う。


例え、どれほど蜀の守りがあからさまな誘いを匂わせていても、此処を攻撃しない手を城沢や荒岡が選ぶはずがない。


それが罠だと疑ったとしても、彼らは必ず火中の栗を拾いに来るはずだった。


此処には、大将である桃の他に、明哉、内山、西村のAランク3人。残り5人もBランクというメンバーがそろっているのだ。(利長は、作戦とはいえ自分がCランクになることに、強い不満を言い立てていた。いつだって劉備の武将の第一位であることを誇りとしている関羽なのだ。桃自身が、(なだ)めてなんとか納得させたのだが、それでも「なんで俺が、隼や聖より下なんだ。」と最後までぼやいていた。)


しかも、蜀の陣地内である。

倒せば2倍の得点をもらえるこの状況を見逃せるはずがなかった。



今はまだ遠い、魏と呉の騎士に目をこらす。


(いつでも来い!)


闘志を燃やしつつ、静かに待ち構える明哉たちだった。

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