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セカンド・アース  作者: 九重


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体育祭 13

当たり前ではあるが、騎馬戦とは、馬に乗った騎士同士の戦いである。


南斗高校の騎馬戦は、3つの団が一斉に戦う乱戦形式だった。

ルールは以下のとおりである。

1 勝敗の決定は、時間制限方式で行われ、時間内により多くの騎馬を倒し、それにより獲得した得点数の多いチームが勝ちとなる。

2 競技開始の合図とともに、各騎馬は馬場内を自由に移動し、敵の団の騎馬を倒すことができる。

3 倒し方は、オリエンテーション合宿同様、朱液のついたスポンジを刃の代わりにした武器で戦い、致命傷を与えた者を勝者とし、敗けた者の持ち点を得る。

4 敗けた騎馬はその場で競技から脱落する。

5 馬場内は、中央をフリー区間とし、周辺を3等分して各団の陣地にあてる。

6 騎士にはランクを与え、各ランクにより持ち点が異なる。

  各ランクと人数、持ち点は以下のとおり。

  大将   1人・・・50点

  Aランク 3人・・・30点

  Bランク 5人・・・20点

  Cランク 8人・・・10点

7 敵陣地内で、その陣地の騎士を倒した場合は、得点は倍となる。

  逆に自陣内で、倒した場合は1/2

  得た得点は、全て団のものとなり、得点を得た騎士が倒されても、その騎士が獲得した点は、無効にならない。

ただし、制限時間内に全ての騎士が倒された団は、その時点で敗者となり今まで得た点も全て無効とされる。


「・・・て事は?」


長々とした明哉のルール説明に焦れたように翼が声を上げた。


明哉は大きくため息をつく。

今日の本番までの間に、既に何度か説明したはずの事をもう一度繰り返した。


「つまり、私たちが・・・

 魏の陣地で吉田を倒せば100点。

 蜀の陣地で倒せば25点。

 フリー区間もしくは呉の陣地で倒した場合は50点がもらえるという事です。」


ふ〜ん?と翼は言った。


「まあ、いいや。そんな面倒な計算やっていられるか。第一、誰が何点かなんて覚えらんねぇ。指示はお前らが出すんだろう?俺はその指示に従って戦う。それでいいな?」


結局そうなるのかと思いながら明哉は頷いた。

まあ、その方がやりやすいのも間違いない事ではあった。


「そのとおりです。作戦は(かね)て伝えてあるとおりです。練習通り、各自、己の役割を踏まえて行動するように。そうすれば必ず勝てます。」


自信満々の明哉の言葉に、「応!」と15騎の騎士が答える。

明哉の作戦に対する異論反論は既に検討しつくしていた。何度も練習を重ねて、後は実行して成果を得るのみである。

それでも実戦に挑めば、思わぬ事が起こるだろう。それらの事態に臨機応変に対応し、最終的にこの戦いに勝つ準備はできていると明哉は思った。


必ず勝って、この体育祭で桃の立場をより強くするのだと、明哉は決意していた。


今の桃の立場は、1年の“仮代表”だ。

この体育祭の成績で本代表となれるかどうかが決まる。

もっとも、今更桃を差し置いて1年の本代表になろうなどという(やから)がいるとは思えないが、あまりに無様(ぶざま)な成績で負ければ、今後そんな人物が現れないとも限らない。


(私の主君は、桃だけです!)


今も昔も変わらない唯一無二の存在。


前世も今世でも、その存在を支え、共に歩むために自分はあるのだと明哉は思う。

自分たちが、この高校で巡り会ったのは運命(さだめ)だったのだと信じていた。



・・・一般クラスのパフォーマンスがもうすぐ終了すると連絡が入ってくる。



彼らは、蜀団の騎馬の待機場として設けられた競技場の南端に居た。魏団は中央奥。呉団は北端に待機場を設けられている。

パフォーマンスが繰り広げられているのは競技場正面で、そこからは遠いため彼らには、パフォーマンスの様子はほとんど見えなかった。

連絡に来た運営係の生徒の話では、大方の予想どおり、羽田の指揮の元、一糸乱れぬ迫力ある踊りを披露した蜀団が、応援部門の優勝を(さら)いそうだった。


「敗けるわけにはいきません。」


内山の言葉に、明哉も頷く。



「桃。」



明哉の呼びかけに、1人後方に居た桃が顔を上げた。


桃は既に騎乗して的盧の首を優しく叩いている。


その頭上には、煌びやかな礼冠(らいかん)が輝いていた。

それは、各団の団長の(しるし)だった。


各団の大将は、当然団長が務める。


とはいえ、桃は女子生徒だ。男子生徒に比べれば力の差は歴然だった。

大将という一番高くランク付けされる者に、これ程大きな差がでるのは不公平といえるだろう。

そのため、蜀団には騎馬戦の間だけ他の誰かを団長の代理とすることが認められていた。


・・・しかし、その権利を明哉も内山も必要ないと、言われたその場で断った。


それを聞いた桃は戸惑う。


「それでは私が、足手纏いになるのじゃないの?」


桃は、今の自分が“弱い”存在だという事を知っている。力にしても速さにしても、男子生徒に敵うべくもないのだ。

騎馬戦に出場する51騎の騎馬の中で一番弱いのが桃だと言える。


その最弱の存在が最高ランクの高得点を持って戦いに臨む。


敵にとって桃は“かっこうの的”であり“狙い目”のはずだった。


「桃、あなたには、誰であろうと指一本触れさせはしません!」


だから、大将として安心して騎馬戦に参加してくださいと明哉も他の者たちも懇願した。


「桃が大将としているかいないかでは、私たちの士気がまるで違います。皆、桃を守るために全力を尽くしますし、勝利を得ようと努力します。桃の存在はプラスにこそなれ、マイナスには決してなりません!」


そんなものかしら?と桃は思う。


内山や他の者たちも、明哉の言葉に大きく頷くので、それならと桃は決意した。

戦って戦力になれるとは思わないが、自分がいるだけで皆の精神的な支えになれるのなら、今更その立場から逃げよう(・・・・)とは思わなかった。


大将として騎馬戦に参加する。


桃の決意は、案外簡単にストンと自分の中に落ち着いた。



的盧の力強く太い首を桃は無意識に撫でる。

張り詰めた力を、その毛並の下に感じた。


酷く落ち着いていながらも、戦いの前の高揚感が徐々に湧き上がってくる。



自然に桃は微笑んでいた。



その顔のままに、明哉たちを見れば、皆、息をのんだ。



「・・・陛下。」



思わずといったように、明哉はそう口にした。



「良い天気だな。」



騎乗して高くなった視線で、空を、周囲を見回し、桃は言った。


心が・・・静かだった。


不思議に凪いだ自分の心が、いつもの自分でない(・・)ことに、桃は気づいていた。

いや、これこそが“自分”なのかもしれない。


繰り返される(・・・・・・)転生の、一番最初の“自分”。


いつの世も“自分”は、この人物の深く激しい悲哀を受け継いでいた。


・・・この“自分”がこんな風に凪いで己の側近くに感じられることが、最近は多い。

これまでの前世には感じられなかったこの感覚は、明哉や翼、利長といった、この人物に近しい者が側にいるためではないかと桃は思っている。


あまりに静かに自分の中にいるから、どこからどこまでが今の自分で、どこが最初の“自分”なのか、わからなくなる。



(だけど・・・イヤじゃない。)



元々同じ人間なのだ。

区別する方がおかしいのかもしれなかった。



最後のパフォーマンス演技が終わったのだろう、大きな歓声が此処まで届く。

桃たちの出番だった。


ゆっくりと桃は、16騎の仲間を見渡す。


戦陣に臨む興奮に、内から輝くような気を放つ頼もしい戦士たち。


最後に明哉に目を止めた。



「・・・勝つか?」



静かに、明哉に問いかける。


明哉は、一瞬息を止めた。

何か言いたそうに口を開きかけて・・・閉じる。

きつく噛んだ唇を、直ぐにゆるめて短い答えを返した。



「はい。」



静かな、しかし力強い返事だった。


桃は、スッと手を上げ自分の頭に触れる。

そこには、礼冠の脇にフワリと揺れる羽があった。


明哉のくれた羽だ。


桃は、笑った。



「ならば・・・勝て(・・)!」



桃の言葉と表情に、明哉を除く全員が瞠目し、次の瞬間には一斉に拝礼した。


「はっ!!」


明哉だけが桃をひたと見詰める。



「仰せのままに。」



いつの世も変わらぬ答えだった。



桃は、満足そうに笑を深くする。



「出陣!!」



明哉の声が、青空高く響き渡った。

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