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セカンド・アース  作者: 九重


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71/154

体育祭 11

借り物競争終了時点での各団の得点は、

魏団・・・293点

呉団・・・304点

蜀団・・・318点

であった。


やはり一般クラスの競技では3年の蜀団に一日の長がある。入場行進で得たリードを少しではあるが広げられた結果に、明哉や内山も満足そうだった。


しかし、このままリードを広げさせてくれないのが、吉田が率いる魏団であり、仲西を支える呉団であった。


続く一般クラス特別クラス入り混じっての男女別100m走では3チームとも互角の戦いを繰り広げ、その次の“お助け綱引き”では、魏団が圧倒的な強さを見せた。


“お助け綱引き”とは、まず一般クラスの生徒だけで綱引きを開始し、その直ぐ後にグラウンド1/4周離れた場所から、特別クラスの生徒がスタートし、駆けつけて綱引きの助っ人をするという競技である。一刻も早く味方の団の綱に辿り着き、綱を引けるかが勝負を決める、力のみでなくスピードも必要とする競技だ。

もちろん、参加する蜀団の武将達も、内山などにコツや勝つためのポイントを聞いて練習をしていたのだが、実際にこの競技を戦った事のある魏団や呉団の武将達と比べれば、やはり動きに無駄が多かった。

蜀団には、経験も力も兼ね備えた戸塚がいるが、それを言えば魏団には典韋(てんい)がいるし、呉団にも甘寧(かんねい)がいる。

転生したこれらの武将は、何故か今世でも堂々とした体格を誇り、しかも日々の精進によって筋肉隆々とした見惚れるような肉体を維持していた。


戦力は互角。

ならば、勝敗を決するのは経験と知識だけだ。

コーナリングの回り方や力の入れどころなどのコツを全員が掴んでいる魏団に、蜀団は敵うべくもなかった。


もっとも惜しい場面もなかったわけではない。

本気を出した羽田のおかげでやる気満々の一般クラスの3年生は、特別クラスの生徒の助け手が入る前に勝敗を決してしまう寸前までいったのだ。


あと少しというところで、ぎりぎり間に合った、この競技の魏団まとめ役堤坂(前世の夏候惇)は、暑さや運動のためだけではない冷や汗をびっしょりかいていた。


「とんでもない奴だな。」


最終的に負けてしまった結果への不満を、嫌味たっぷりに内山に浴びせている羽田を、堤坂は左目を眇めて見詰める。あの内山の不機嫌顔を前に、文句を言えることにも驚くが、こうして遠目に見る羽田の姿が、かつて知っていた誰かと重なるような気がして、胸がざわざわとする堤坂だった。


(奴は、一般クラスの生徒のはずだ。)


一般クラスの生徒でも三国志時代の前世を持つ者がいないわけではないだろうが、羽田がそうだとすれば、自分にこれ程のプレッシャーを与えるような人物が、特別クラスに入らないなんて選択肢を選ぶとは思えない。


・・・そう、“余程の理由”でもない限り。


(まあ、他の時代にも傑物(けつぶつ)はいるしな。)


日本人だと言っていたし、戦国大名の誰かかもしれないと堤坂は思った。


(美濃のマムシとか・・・)


案外日本の戦国武将好きな堤坂だった。


“余程の理由”に思いいたらないあたりに、夏候惇の人の良さが表れているのかもしれない。



その後も競技は、ほぼ予定通りに進んだ。


一般クラスは蜀団が有利。

特別クラスは魏団が有利。

呉団は、どちらも良くもないが悪くもない。


そういった傾向で、午前の部が終了した時点での各団の得点は、

魏団・・・1,149点

呉団・・・1,140点

蜀団・・・1,146点

となっていた。


僅か9点差の中に3チームがひしめく状況に興奮は否が応でも高まる。


午後からのプログラムは・・・


一般クラスの生徒による応援合戦であるパフォーマンス。

特別クラスによる騎馬戦。

団対抗リレー。


の3つだけである。


パフォーマンスは、応援部門として別に採点され、それだけで雌雄を決するために競技としては加点されない。


結果残る競技は、騎馬戦とリレーの2つだけだといって良かった。

配点の高さから考えれば、騎馬戦を制した団が優勝となるのは間違いないと思われる。


そのため、各団とも昼休み時間を削って騎馬戦の準備に追われる破目になった。


何度も言うようだが、騎馬戦は本物の馬に乗って戦われる競技だ。

今年は、一番“馬持ち”の人数が少ない魏団の17人に合わせて、各団17人と17頭で争われることになっている。

それでも、あわせて51騎の騎馬が勝利をかけて戦うさまは、勇壮さと迫力で他の競技を圧する。


このため、馬が十分に駆けられ尚且つ観客に危険がないようにと、騎馬戦を含んだ午後からの競技は、会場を移して戦われることになっていた。


南斗高校に隣接する競馬場のような馬場が午後からの体育祭会場だ。


生徒、教員はもちろん、観客も全員が昼休み時間を利用してそちらに移動していた。


広大な馬場に初夏の日差しが降り注ぎ、暑さをやわらげる爽やかな風が吹き過ぎる。


相変わらずの、南斗高校の桁外れの施設の大きさに頭を抱える桃だった。



「桃!!」



名前を呼ばれて、桃は頭を上げる。

青々と広がる芝生の上で、大きなシートを広げた桃の母が両手をいっぱいに振って桃を招いていた。


「こっちよ!こっち!!」


桃が目をやるそこには、桃の両親とその友人たちがいる。


桃の母たちの他にも、広い馬場のあちこちにシートが広がり家族そろっての食事風景が繰り広げられていた。中には日よけのパラソルを立てている家族もいて、色とりどりのシートと相俟ってカラフルな光景が広がっている。


目をチカチカとさせながら桃は近づいた。



「凄い!!」



見れば、シートの中央には、サンドイッチ、おにぎり、中華ちまきといったピクニックランチがたっぷりと並んでいる。


それを見た”翼”は、素直に感嘆の声を上げた。

可愛い顔をキラキラとさせて、感動する翼に桃の母はご満悦だ。


「本当に、俺たちまでご馳走になって良かったのですか?」


嬉しそうにしながらも遠慮がちに聞くのは”利長”だった。



そう、桃は、1人ではなかった。



桃の母は、“お友だち”をランチに招きなさいと桃に言ってきたのであった。




午前の部終了後、生徒たちは思い思いに昼食をとり午後からの競技に備えて休憩することになっている。


全寮制である南斗高校特別クラスの生徒は、応援に来ている家族と一緒に食事をとる者が多かった。


しかし、中には翼や利長といったような遠方の他県から来ている生徒もいる。平日に行われる体育祭を遠路はるばる見に来る家族はさすがに少なかった。

翼も利長も無理して来るのは止めてくれ!と家族に言ってある。

交通費だけでいくらになるのか考えるだけでも怖い。そんな余裕があるのならおこづかいに回して欲しい!というのが、高校1年生男子としては当然の考え方だろう。


そういったわけで、騎馬戦の準備もあるし、早々に昼食を済ませようと食堂に向かった2人を呼び止め、桃は、一緒に食べないかと誘ったのだった。


「ママが、はりきっていっぱい作り過ぎちゃったから、良かったら一緒にどうぞって。」


桃の“お誘い”を・・・断るはずのない翼と利長だった。



そのやりとりを見ていた、明哉たち他のメンバーの動きがピタリと止まる。


ギン!!という強い視線を感じた桃は、おずおずとみんなに笑いかけた。


「あの・・・他の人も、お昼の用意が無い(・・)人は、一緒に食べない?」


本当にいっぱい作り過ぎちゃったから、他の人も誘ってきていいわよと桃の母は言っていたのだった。



桃の言葉に、全員が「食べる!!!」と言って手を上げる!



あまりの勢いに、桃はビクッと震えた。


「あの、さすがに全員は・・・」


いくらなんでも大勢すぎると桃は思う。


桃の言葉を聞いた明哉たちは、互いに睨みあった。


「・・・隼!お前はさっき妹が応援に来ていると言ったばかりだろう!!」

「それを言うなら串田だって!!」

「てめぇ!余計な事を言うな!!」

「剛は、さっき2年が”仲西家特製豪華弁当”を用意してありますって、迎えにきていたじゃないか!!」

「明哉だって、借り物競争で一緒に走った3年の美女からのお誘いを、家族と食べるからって断っていたのを聞いたぞ!!」

「あんなものは、方便です!」

「ひでぇ!!チクショウ!イケメン死にやがれ!!」

「猛は文菜ちゃんと2人で食べるんだろう?!」


喧々諤々とした言い争いに・・・桃は、呆れて言葉もなかった。


大騒動の末に、晴れて桃と一緒にランチを食べる権利を勝ち取ったのは、翼と利長以外は、明哉と聖、それに西村の3人だった。


明哉の家は都内の大きな病院だそうで、両親とも平日に休むことができず来ていないのだと言った。聖は翼たちと同じ他県出身者、西村は都内とはいえ南斗高校とは離れた市に自宅があるのだそうだった。


他にもさまざまな理由をつけて、桃と一緒にお昼を食べたがる者たちは多かったのだが、既に昼食の手配をしたりしてお昼のあてがある人には今回は遠慮してもらった。

手回し良く2組の弁当の手配をした天吾が、悠人や陸に怒られていたのが哀れだった。




幾分緊張しながら、明哉たちは桃の両親に初対面の挨拶をする。



「まあ!カワイイ(・・・・)子たちばかりね!!」



嬉しそうに桃の母は、ニッコリ笑った。

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