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公式ファンクラブ

南斗高校の特別クラスの一部生徒には、“公式ファンクラブ”なるものが存在する。

会員は、希望する一般クラスの生徒。

最小発足単位は10人以上で、会長、副会長、事務局などが組織だてられクラブの運営にあたる。

その目的は、対象となる特別クラスの生徒の支援とファンクラブ会員同士の交流だ。


多少の特典のあるこの“公式ファンクラブ”は、主だった特別クラスの生徒には必ずと言って良いほどに存在するものだった。


そもそも、南斗高校の高い“人気”の理由は特別クラスの生徒の存在にある。


憧れの三国志の英雄たちと同じ高校に通いたい!という目的で、ほとんどの一般クラスの生徒は、高い倍率を乗り越えて南斗高校に入学するのだ。

それなのに、苦労して入学してみれば、一般クラスと特別クラスとは棟も違い、寮も別々になっている。普通に学校生活を送っていては、一般クラスの生徒が特別クラスの生徒に会えることは、共通の学校行事以外ほとんどないのである。

これでは、一般クラスの生徒は詐欺にあったようなものだった。


かといって、一般クラスの生徒が始終特別クラスの棟に入り浸り、お目当ての生徒にキャアキャア言って群がっているようなことになるのも困る事であった。

そんなことになっては、肝心の特別クラスの生徒の方が南斗高校を倦厭(けんえん)してしまう。(もちろん、城沢のように、いつだってキャアキャア言って騒がれたい!と希望する者もごくまれにはいるが。)

それでは元も子もなかった。


この双方のためにできたのが、“公式ファンクラブ”方式だった。


この”公式ファンクラブ“を通して、一般クラスの生徒は、南斗高校に入学した特権を感じとり、特別クラスの生徒も一定のルールの元、節度ある接触を一般クラスの生徒に求めることができるのであった。


特権の1つに、特別クラスの生徒の普段の学校生活や主に軍学の授業の風景を定期的に映像で見られることがある。


(じか)に見る事は叶わないが、学校側によって、特別クラスの生徒の同意の元、撮影されたその映像は、プロ顔負けのハイクオリティなものだったりした。(撮影は、屋内であれば各所に設置された防犯も兼ねた定点カメラで行われるし、屋外は超高性能な望遠カメラで行われるため、撮影される側に撮られているという実感はほとんどなかった。)

普通では近寄れもしない人のアップの顔や、戦略の詳しい解説つきで編集された戦闘シーンの画面は、一般クラスの生徒の目を惹きつけ離さなかった。


もっともこの特権は、公式ファンクラブに入らなくとも一般クラスの生徒ならば、1回は誰でも見る事ができた。だが公式ファンクラブに入った生徒には、公開期間内の間ならば繰り返し何度も見られる事に加えて、入会特典の1つとして、対象人物のアップの映像の静止画を己のパソコンに取り込むことができるのである。

ファンにとってみれば垂涎の的の画像といえるだろう。


大好きな人の特別なものを手に入れるため、一般クラスの生徒は、こぞって目当ての人物のファンクラブに入会するのだった。


もちろん、対象相手のファンクラブが存在しない場合は、同好の士を募ってファンクラブを立ち上げる。


一般クラスの生徒の熱意には、並々ならぬものがあった。




そして、そうしてできたファンクラブを特別クラスの生徒は、基本公認しなければならない。


それは、特別クラス生としての恩恵(無試験での入学や格段に安い入学金、授業料等)との交換条件のようなもので、学校の校則にまで(うた)われているものだった。


立ち上がったファンクラブそのものに余程の瑕疵(かし)が無い限り、そのファンクラブは公認される。


そしてまた、ファンクラブは1人につき1つと決まっていた。

例外は認められず1人の生徒にいくつものファンクラブが乱立するという事態は起こらない。ファンクラブ内での争いごとは、当然のように禁止されていて、会員全てで仲良く対象者を応援することが基本コンセプトであった。


それほどのファンクラブではあるが、公認したからといって、特別クラスの生徒が特にしなければならないことは何も無かった。


ファンクラブの役員からは、定期的にクラブの活動内容等の報告が上がって来るが、それを見る見ないもその生徒の自由である。


要は公認することが重要なのであった。


もちろん、中には自分のファンクラブの者と積極的に交流する生徒もいる。

城沢などはその代表格と言えるだろうが、そこまでいかなくとも、例えば吉田は、自分の創った四言詩などをファンクラブの会報に載せているし、仲西や荒岡といった不特定多数との交流に慣れた者は、定期的なお茶会に参加したりもしていた。


“公式ファンクラブ”と一言(ひとこと)の元に言っても、その有り様は多種多様なのだと言えるだろう。




入学式から1ヶ月半が過ぎた。


確かに、そろそろ1年生にも“公式ファンクラブ”ができ始める頃ではあった。


中間考査の結果が貼り出され、それに時を合せるように1年のオリエンテーション合宿の映像も公開されて、既に明哉、利長、翼といった1年のメインメンバーのファンクラブはできてはいた。

何せ彼らには、入学する前からの【孔明さま命!】というような固定ファンが沢山いるのである。


しかし、人気のある英雄であればあるほど、偽物の数も多い。


大好きな英雄を見誤るわけにはいかない!と、どの生徒が本物かを見極めるために、映像やその他の情報を一般クラスの生徒は、目を皿のようにして注目したのであった。


その彼らの目にも明哉たちが本物なのは間違いないと映ったようだ。

早々にファンクラブが設立され、着々と会員数を伸ばしているのが現状だった。




一方、“相川 桃”は、劉備の最有力候補ではあるが、女性な上に本人が認めていないという困った事情があった。


可憐な女子生徒は1年生の学年代表となり、オリエンテーション合宿では、見事3年の吉田を倒している。(件の映像が流れた時、見ていた者たちは、興奮して大歓声を上げた。吉田ファンの悲鳴もあいまって、物凄い騒動になり、教師陣を慌てさせたものだった。このためこの映像の公開期間はとても短く『幻の映像』と呼ばれている。)入学式での初々しい代表挨拶もあって、ファンクラブを作りたい!入りたい!という動きは、当初からかなりあったのだが、やはり前世がはっきりしないということがネックになって、現実化していなかったというのが、これまでの事情である。


当然の事ながら、そんな事情を少しも知らない(気にしていない)桃は、“公式ファンクラブ”という制度はおぼろげに理解していても、自分には関係ないものだと思っていたのであった。





その桃に現実を突きつける相手が、この場に来ようとしている。


周囲に緊張感が満ちた。

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