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セカンド・アース  作者: 九重


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閑話 中間考査結果

南斗高校のテストの成績は各学年上位50名が掲示板に貼り出される。


当然のことながら、その多くは一般クラスの生徒だ。

なにしろ南斗高校の一般クラスの偏差値は、桃の第一志望だった高校よりも高いのである。

無試験で入れる特別クラスの生徒が敵うわけがなかった。


・・・そう、本来であれば、敵うわけがないと考えるのが普通である。


その当然とも言うべき予想を覆す結果に、桃は唖然とする。

特別クラスの生徒の成績は、桃の予想をはるかに上回るものだった。




3年の1位は、内山だ。


「・・・凄いですね。」


「生まれてこの(かた)、1位以外をとったことはありません。」


感嘆した桃に、内山はさらりとそう答える。

そうあって当然。そうでない方がおかしいという言い方であった。


桃はため息しか出ない。


2位に一般クラスの生徒が入り、3位が吉田というのが3年ベスト3の不動の順位だそうだ。

卒業までにこの順位を覆してやる!というのが、学業面での吉田の野望らしかった。


真面目にやれば内山を脅かせるはずの城沢は、いつも10位辺りをウロウロとしている現状だという。

少しも勉強せずに遊んでばかりいて、この成績をとれる城沢は、ある意味内山よりも凄いのかもしれなかった。



2年の1位はこれまた当然のように、荒岡である。

2位が仲西で、2年のこのワンツーフィニッシュ主従も入学以来変わらない順位であるらしかった。


小黒や佐野も常に10位以内には入っているということだ。ゴールデンウィーク期間中、仲西にたっぷり引っ張り回されたはずの彼らの成績に、桃は驚くしかなかった。


その桃のおかげで、2年特別クラスの今回の中間考査は、昨年に比べて赤点をとる人数が激減したそうだ。

あまりに顕著な結果に、流石の仲西も昨年はやりすぎだったかなと反省したという話だった。


「お礼です。」と言って、手作りのクッキーを持ってきて桃にそう報告した荒岡に、桃はひたすら恐縮する。

見惚れるような美しい笑顔と共に渡されたクッキーは、どこの有名パティシエが作ったのかと思う程に、見た目も味も申し分のない一品だった。


超絶美形で文武両道で、おまけにお菓子までプロ並みに作れる荒岡に、桃は呆れる以外ない。

前世よりハイスペックなんじゃないかと思われた。



しかし、ハイスペックは荒岡だけではなかった。


掲示された成績上位者の中に、当然のように入っている何人もの前世の“名士”たちの名前に、桃は驚く。(貼り出された成績優秀者の、特別クラスの生徒の名前の脇には、前世名(自称)が記入されている。一般クラスの生徒たちから「この方の前世は誰ですか?」と繰り返し何度も尋ねられる教師たちの自衛策であった。)


一国の命運を掌の上で躍らせていた謀士たちであれば、当たり前の結果なのかもしれなかった。

彼らにとって定期テストなど、何ほどのものでもないのだろうと思われた。



そして、今回初めて成績を貼り出される1年生の結果は・・・。


1位は、当然と言えば当然ながら明哉だった。

2位が拓斗。3位が剛。

三国の文臣第一位が並ぶ1年のベスト3は壮観だ。


全て自分と同じ1組の生徒だったことに、何だか嬉しくて「おめでとう。」と言った桃に、


「当然の結果ですが、ありがとうございます。」


「たまたま運が良かっただけで・・・」


「大したことではないが、桃に言われると嬉しいものだな。」


三者三様に、でも全員嬉しそうに返してくれた。ちなみに、上から明哉、拓斗、剛のセリフである。


4位に西村が入り、5位が牧田。以下天吾、蓮、不破に清水に芽生等、特別クラスの生徒の名前が上位にひしめく。

しかも、全員ほぼ満点に近い、もの凄い僅差の中での勝負だった。


一般クラスの生徒から見たら、何の冗談だ?と思うような1年のテスト結果は、全校中の注目を浴びた。



・・・桃は、上位50名には入っていない。



何度も言うが、ここの一般クラスの偏差値は桃の第一志望だった高校よりも高い(・・)のである。

当然の結果だった。


それでも2桁代の順位だった桃は、そのことに何の不満もなかったのだが、結果を聞いた内山は少し眉を(ひそ)めた。


「次のテストからは、私が勉強を見ましょう。なに、すぐに10位以内に入れますよ。」


いやいや、無理だし!第一そんなこと望んでいない!!と桃は思う。

盛大に顔を引き攣らせた。


「余計なお世話です。桃の勉強は私が見ます。3年生は受験でお忙しいのですから、無理なことはなさらないでください。」


明哉がさり気なく桃を内山から引き離す。


「私が、たかが(・・・)受験なんかに時間をとられるはずがないでしょう?」


離された距離をきっちり詰めて、内山は明哉を睨んだ。


3年生なのだから、ウソでも受験でたいへんなフリをして欲しいと桃は思う。全国の高校3年生に申し訳なかった。


明哉も明哉で、そこで内山の言葉がさも当然のような悔しそうな顔をして、視線を逸らさないで欲しい。


前世で、中国漢王朝の、人口20万人につき1年1人しか朝廷に推薦されない“孝廉”という官僚昇進システムの中で生きてきた彼らにしてみれば、日本の受験など確かに苦もないことかもしれなかった。(ちなみに、荀彧は27歳の時に孝廉に挙げられている。この時、諸葛亮は9歳。諸葛亮が成年に達した頃には漢王朝は形ばかりになっていたので孝廉どころではなかったはずだった。)


何はともあれ、現状に何一つ不満の無い桃は、内山と明哉の申し出を丁重に断ろうとする。


しかし・・・


「遠慮はいりません。」


「桃が何位であろうと、私の“想い”は変わりませんが、どうせなら良い成績をとった方が良いですからね。」


どんな“想い”がどう変わらないのか明哉に聞いて見たかったが、何だか墓穴を掘りそうな気がするので、自粛する。


ニコニコと親切心いっぱいの2人の申し出に、進退窮まる桃だった。



・・・さて、気になる戸塚の成績だが、なんと、赤点がたった2教科だけ!という快挙?(戸塚談)だった。

その赤点も、1ケタ代などという問題外のものではなく、あと少し頑張れば赤点を脱出できるというレベルで、戸塚史上最高の結果だということだった。


全部のテストを返してもらった後で、大喜びで報告に来た戸塚は、その勢いのまま、桃を軽々と抱き上げて、クルクルと回った。


「キャッ!」


目のまわりそうになった桃は、慌てて戸塚の頭にしがみつく。


その様子を見た周囲の気温が、グンッと下がったのは、仕方ないことだろう。


運良く(悪く?)その場には内山も居て、桃が戸塚の勉強を見てやっているのだと聞いた内山は、今後戸塚の勉強は全て自分が見ると言い出した。


「いや、ありがたいが“敬侯”の教え方は俺の身に余る。俺は今までどおり桃に教えてもらいたいと思う。」


敬候とは、荀彧の諡号である。


小さく舌打ちした内山は、では全員一緒に勉強しましょうと提案した。


「俺は、桃と2人きりの方が・・・」


非常に正直な希望を戸塚は述べる。

当然周囲に居た全員から却下された。


何だかんだの話し合いの結果、桃たちは夕食後の勉強時間を食堂に隣接したコミュニケーションルームの1室で共にする事を決める。

参加は自由で、強制も強要もしないと決めた自主勉強会だが、話し合いに参加した手前、出ないわけにはいかないわよねと思った桃が真面目に出席するために、1年の主だったメンバーは、ほとんど集まるようになった。

当然内山も、自分の成績優秀なブレーンを引き連れて参加するため、その勉強会はたいへん実のあるものになったのだった。




今後の1年のテスト結果が、ちょっぴり楽しみな桃だった。

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