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セカンド・アース  作者: 九重


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ゴールデンウィーク 10

「すまないっ!」


利長と翼に向かって頭を下げる桃の父親に、利長は、「気にしないでください。」と声をかけていた。


あの後、イケメンな上に規格外れに強かった桃の父親に、利長と翼は問答無用で投げ飛ばされたのだった!

いくら利長が、自身に起こった事態に、ついていけずに呆然自失としていたとしても、翼に至っては寝こけていたのだとしても、この2人が無抵抗に投げ飛ばされるなんて事は前代未聞の事だった。


あまりに見事な桃の父親の体の動きに、咄嗟に受け身をとりながら一瞬見惚れてしまった利長だ。

この“男”を、絶対敵に回したくないなと強く思う。


しかし、それより更に驚くべきだったのは、桃の陽気な母親だった。


夫の叫び声を聞いて台所から“おたま”を持って駆け付けてきた彼女は、一瞬にして状況を見てとると、興奮したまま尚も利長に掴みかかろうとした自分の夫の眉間に“おたま”を投げつけてクリーンヒットさせたのだ。


コーン!というイイ音がして、父親はその動きを止める。


()めろ!!」


迫力満点の従わざるを得ない母親の声が響いた。


「!!」


時間が止まったように、全員の動きが止まる。


エプロン姿にそぐわない鋭い視線でその場を睥睨(へいげい)する桃の母親を、利長は、父親以上に逆らってはいけない人物と頭に刻み込んだ。

この2人の前世が、いったい“誰”だったのか、いつか聞いてみたいと思った利長だった。


その騒動の最中(さなか)に、桃がようやく目をこすりながら起きだす。


「おはよう。・・・あれ?どうしてみんな、いるの?」


全員脱力したことは、言うまでもなかった。


結局、利長がなんとか誤解を解くことができたのは、桃が完全に目を覚ました後だった。

桃の説明によれば、


風呂から上がった桃は、そういえば自分の髪を翼が乾かしてやると言っていた事を思い出して、律儀に客間に戻ったのだそうだった。

しかし、当然の事ながら、既に翼も利長も眠っていた。

どうしようかと考えている内に、眠気に負けてその場で寝入ってしまったみたい(・・・)?という話だった。


みたい(・・・)?と言うのは、桃がはっきり覚えていないせいである。


「気持ちよさそうに眠っているなぁって思ったところまでは覚えているのだけれど・・・」


ごめんなさいと謝りながら、桃はそう言った。

父親共々頭を下げる様子に、母親が「本当に困った父娘(おやこ)ね。」と呆れ果てている。


「全然平気ですから、本当に気にしないでください。」


な?と翼に同意を求めながら利長は話す。

しかし・・・


「全然平気じゃない!」


翼は叫んだ。


「だって俺は、何にも覚えていない!!せっかく桃と一緒に寝られたのに少しも記憶がないなんて!!・・・気がついたら投げ飛ばされていて!!そんなの、あんまりだ!!!」


兄哥(あにき)は、桃の可愛い寝顔をじっくり見られたっていうのに、俺だけ不公平だ!と悔しそうに叫ぶ姿は、あまりに正直すぎる。

あんなに、しっかり桃に抱きついておいて、そのセリフはないだろう?と思う利長だが、ここは口を閉じておいた。


桃の父親の目に剣呑な光が宿っているのだ。


勘弁してくれと利長は天を仰いだ。





それでも、何とか平穏に朝食を済ませ、礼を言って翼と利長は桃の自宅を後にする。

また来てねという桃の母親の優しい言葉に、必ず!と約束して、桃も一緒に3人で家を出た。


寮には、今日の夕方までに入れば十分なのだ。


どこに行く?と相談した彼らは、ありきたりではあったが、カラオケからゲーム、気軽なスポーツなど複数の娯楽をひとつの施設で楽しめる“複合アミューズメント施設”に足を運ぶことにした。東京の名所を桃に案内してもらっても良かったのだが、まだどこも混んでいるだろうと予想された。


「ゴールデンウィーク最終日なんだから、思いっきり遊ぼう!」


翼の提案に笑って頷く桃と利長。

とんでもない前世を背負う彼らもまた間違いなく、遊びたい盛りの高校1年生でもあった。



そして、結果、彼らは熱い視線を浴びまくっていた。



「ねぇ、凄い!」

「チョーかっこイイ!!」

「ヤバイよね?」

「あっちの子、可愛い!」

「天使みたい!!」


キャアァ〜!!という女の子たちの歓声が聞こえる。


ちなみに可愛くて天使みたいなのは、翼である。


桃たちは、3on3のストリートバスケットボールゲームをしていた。


翼や利長、桃の中にバスケの経験者がいるわけではないが、3人でできるゲームということで安易に選んだのが3on3だったのだ。

攻守交代のめまぐるしいこのゲームを、当然と言えば当然の事ながら、翼と利長は楽々と制していた。

相手チームはある程度の経験のあるチームらしかったが、なにせ動きと迫力が違う。


素早い動きで相手を翻弄した翼が利長にパスし、長身を生かした利長のダンクシュートが鮮やかに決まる。

ポニーテールの長い髪が、しなやかな動きに合わせて、サラリと揺れた。


「きゃあぁぁぁっ!!!」


何時の間にか集まったギャラリーの女の子たちから悲鳴のような声が上がる!


(凄いわね。)


桃は、ひたすら感心していた。

これで2人共、バスケの経験は中学の授業くらいだというのだから呆れる以外ない。


もっとも、この2人と一緒にいる桃も、ただ立っているだけでは、なかった。

このへんかな?と見当をつけて立つ桃に、時折パスが回って来て、桃はそれをすぐにまたパスして返していた。


「ナイスパス!」


空中でパスを受けたまま、シュートして見事に決めた翼が、かけてくる声にニコリと笑って返す。


今度のギャラリーの歓声には、男の声も交じっていたようだった。


この状況で活躍したいなどと思うような桃ではなかったが、全然参加したくないかと聞かれれば、それは違う。時々でもボールに触れられて、桃は十分満足だった。


そんな桃をギャラリーの主にバスケ経験者の男たちが感嘆して見詰めていた。


「あの()、すげぇ良い位置にいるよな?」

「あぁ。全体の動きをよく見ている。」

「パスも絶対此処だって場所に出すし。」

「あの()が、あいつらをコントロールしてんじゃねぇか?」


あながち間違った見方でもなかった。


それが、彼ら3人の戦い方である。

前世の長い戦いの中で培われた完璧な以心伝心。

互いにどんな言葉もいらず、合図も目配せすらいらない。

各々自由に動き回る中でも、誰がどの位置にいるのかわかり、次にどんな行動に出るのかも当たり前のようにわかる。

その神ががり的な動きの中で、何時だって中心は桃だった。

何より優先されるべきは、桃の意志であり桃の“心”だ。

だからこそ桃は、必要最低限しか動かず、激しい動きなど少しもしなくともこの場を支配しているのだ。


(決めろ。)


桃は無意識の内に思う。


ドリブルで切りこんだ翼が、そのままシュートを決めた。


「キャアァッ!!可愛いっ!!!」


「可愛いって!なんだよっ!!!」


「うっ!キャアァァァ〜!!」


周囲の黄色い歓声に翼が怒鳴り返して、ますます大きな悲鳴が上がった。


翼が苛々し出した頃、丁度タイムアップになって、ゲームが終わる。

当然ながら、桃たちの圧勝だった。


異様な雰囲気に、ため息をついた利長はこの場を離れようと提案した。

苦笑しながら、桃も賛成する。


相手チームは、もう1ゲーム!せめて、次の再戦の約束をしてくれ!と申し込んできたが、丁重にそれを断った。


利長と翼が断っている間に、どこからか現れた男たちが、桃に「うちのチームに入らないか?」と誘ってきたのを蹴散らして、3人で移動を開始する。


次は何をしようかと話し合っている彼らの目の前に、可愛い女の子の2人組が現れたのは、その直ぐ後の事だった。

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