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ゴールデンウィーク 9

仲西邸滞在最終日5月5日の子供の日も無事に過ぎて(もちろん、きっちり1年VS2年の戦闘訓練は行った。何故か周瑜や程普といった2年の中心人物の動きが冴えず、2日目の慣れもあって、1年は昨日より格段に2年に対して攻勢に出ることができた。)、桃たちは、仲西たちに別れを告げる。


別れ間際に、覇月のみならず、荒岡、松永、小黒に佐野までが桃と携帯のアドレス交換をしている姿に、仲西は目をしろくろさせていた。(5人は剛を拝み倒して、なんとかその許可をもらったのである。剛の許可は貰ったからと、「交換してください!」と頼まれた桃は、呉の人って何か順番が違うわよねと思いながらも、まあイイかと交換に応じたのであった。)

当然、1年のメンバーは面白くなさそうだったが、剛が「乱用させない!」と保証したので、渋々認めたのだった。


最後までわけがわからないと混乱気味だった仲西に別れを告げて桃たちは帰る。



ゴールデンウィークも残りは明日1日のみ。



当然全員学校の寮に帰るのだと思っていたのだが、途中の駅で桃は、「(うち)は、こっちだから。」と別のホームへ向かおうとした。


確かに、桃の家は前泊を必要とするほど学校からは遠くない。桃が自宅に帰るのは、充分にわかることだったが・・・


「何で、お前たちまでそっちへ行くんだ!?」


なんと、桃と一緒に翼と利長まで、同じ方向に向かおうとしたのだった。



「あ、俺たち、今日桃の家に泊めてもらうんだ。」



物凄いニコニコ顔で翼がそう言った途端!他の仲間は、大パニックを起こした!!


「な!そんな、私は聞いていませんよ!!」

「貴公ら!抜け駆けだ!!」

「ヒドイ!!桃ちゃん!!私たち一緒のベッドで眠った仲なのに!!」

「ダメだ!桃!!」

「止めろ、危険だ!!!」


あまりの剣幕に、思わず桃は、利長の後ろにコソコソと隠れた。


それがまた、彼らの怒りに火を注いだが、なんとか落ち着かせて、利長が事情を説明する。


(いわ)く・・・


翼も利長も他県出身で、ゴールデンウィークは帰省して、元々明日の夕刻に戻るつもりで予定を立てていたこと。

当然寮にも6日の夜に帰ると届を出していたのだということ。

そして、今回仲西邸に行くことになって早めに戻ってくることになったが、寮に変更届を出し忘れて(・・・)しまった(!?)こと。


「いやぁ、ついうっかりしちゃったんだよねぇ。」


込み上げてくる笑みを抑えきれず、ニヤニヤと笑いながら翼が頭をかく。


「困っていたら、桃が、家に招待してくれたのだ。」


こちらは生真面目な顔で利長が話す。

しかし、よく見れば、その口元は微かに緩んでいた。



「確信犯だろう!絶対に!!!」



天吾の指摘は、誰もが思ったことだった。


「寮には私が交渉します。心配いりませんから、私たちと一緒に帰りましょう。」


セリフだけは親切そうな明哉だが、しかしその瞳は冷たい光を浮かべていた。

美形の怒る迫力に隣に居た猛が、そっと明哉から離れる。


「あの・・・」


利長の背中から、恐る恐る桃が顔をのぞかせた。


「もう、家に連絡してあるから・・・」


桃は、申し訳なさそうに話し出した。


「私、友だちを家に呼ぶのは初めてなの。だから、ママ・・・母が、凄く張り切っていて・・・本当は、仲西さんの家に泊まらなかったら3泊の予定だったのに1泊だけになっちゃった事にも、ずいぶんがっかりしていて・・・その、要は、2人が家に来るのを楽しみに待っているの!」


だから!ごめんなさい!と桃は謝る。


「え?なんで、桃が謝るんですか?」


「だって・・・私が翼と利長を独り占めするから、みんな怒っているんでしょう?」


桃は上目づかいに明哉たちを見上げた。

関羽と張飛は人気者だからと桃は思う。


「違います!!」


桃のとんでもない誤解に、全員が一斉に否定の声を上げた。

怒っているのは、翼と利長に対してであって、決して桃に怒っているのではないこと。

その内容も、桃が翼と利長を独り占めすることではなく、反対に翼と利長が桃を独占することであること。


「つまり、私たちだって桃ちゃんの家に“お呼ばれ”したいのよ!!」


理子が、全員の思いを代表して叫んだ。


桃は、目をぱちぱちと瞬きする。


「えっと、その・・・流石に全員は・・・」


私の家は仲西さんの家のように大きくないからと、桃は申し訳なさそうに下を向く。


「わかっています。・・・今回のことは、私たちも翼と利長にしてやられました。ここまできては、仕方ありません。きっぱりと諦めます。」


もちろん意趣返しはしますがねと言いながら明哉は、ため息をついた。

おいっ!と利長が、焦った声を上げる。


「ただし、今後はこういった事には気をつけてください。桃、あなたは無防備に過ぎます。」


昨晩だって、理子に阻止されたが、明哉が(うるさ)いでしょうから私の部屋に来ませんか?と誘えば、何のためらいもなく、ついて来ようとした桃だった。


・・・前世で劉備は義兄弟となった関羽や張飛と一緒の寝台で寝る程に仲が良かった。

気の合った趙雲とも一緒に寝た事があったはずだ。


まさか、今世でも同じ感覚でいるのでは?と危惧せざるを得ない。


まあ、桃の家には桃の家族もいるはずなので、よもや可愛い娘を男と一緒に寝かせたりするはずはないが・・・


「桃、今後あなたが誰かと普段とは違う行動をとる時は、必ず私に前もって相談をしてください。」


真剣な顔で明哉が迫る。


「相談?」


「そうです。そのために私がいるのです。何でも相談してください。」


「でも、迷惑じゃ・・・」


「そんなことはありません!」


真摯に言われる。


それでも躊躇(ためら)う桃に、反対側から西村が声をかけた。


「どうか、多川の言うとおりにしてください。」


珍しくも法正が、諸葛亮の言うことに賛成したことに、桃も周囲の人間も・・・誰より、明哉自身が驚く。

しかし、西村の言葉には続きがあった。


「そして、多川と“何か”をする時は、必ず事前に“俺”に相談してください。」


「西村!」


「当然だろう。お前が抜け駆けしない保証なんか、どこにもない。」


明哉と西村はギンッ!と睨みあった。

一触即発の雰囲気に、周囲が固まる。




・・・翼が、そっと桃と利長の服を引っ張った。




「付き合っていられない。行こう!」


「え?でも・・・」


「いいから!」


翼は、右手に桃の左手、左手に利長の右手を掴んで走り出す!

翼的には、最高の状況だった。


「あっ!」


「おいっ!!」


気づいて声を上げる明哉と西村に向かって、怒鳴る。


「文句は、後で聞く!じゃあな!」


嬉しそうに笑いながら、翼は自分にとって何より大切な2人を引っ張って行く。


「翼ぁ〜っ!!」

「貴様!!」

「覚えていろよ!!!」


クラスメイトたちの声を、後ろに聞く。


心が大きく弾んでいた。


かつて自分たちは、永久に変わらぬという決意を持って義兄弟の誓いをたてた。


世に名高い“桃園の誓い”は三国志演義の虚構であるが、翼はあのシーンの中の有名なセリフを殊の外、気に入っていた。



『我ら此処にあるの3名。同年同月同日に生まるるを(ねが)わず、願わくば同年同月同日に死なん。』



まさしく自分たちは、そう願っていた。


前世では叶う事の無かった願いだったが、今世ではどうだろうか?


例え、今世でも叶う事がなくとも、己が死の瞬間まで、2人の側近くにあって心をひとつにしていたいと、翼は願う!


暖かなこの両の手を、決して離すまいと誓う翼だった。






そして、翌日、5月6日、早朝。


利長は目覚めた途端に飛び込んできた、可愛い少女のあどけない寝顔に、息が止まるかと思った。


(え?!・・・)


寝息のかかるほどの側近くに、桃の顔がある。

小さく柔らかな手は利長の長い髪をしっかりと握っていた。


桃の背中には、フワリとくせのある黒い短髪が押し付けられている。

明らかに翼の髪で、翼は桃に顔を押し付ける形で背中から抱きついて眠っているようだった。


あまりの事態に眩暈がしてくる。


(何で、一緒に寝ているんだ!?)


利長は呆然と昨晩の記憶をたどった。


はじめて会った桃の家族は、明るく闊達(かったつ)な、桃によく似た面差しの母親と、物静かで落ち着いた雰囲気の、物凄いイケメンの父親という2人だった。

桃は1人っ子なのだそうで、両親ともに桃をとても大切にしている様子が見てとれた。


夕飯の席も、とてもアットホームな空気で、出された家庭料理はどれも凄く美味しかった。男の子のいなかった家庭で、翼と利長が桃の3倍は食べる様子に、両親ともに目を丸くして、特に母親は「いっぱい食べてくれて嬉しい!」と手放しで喜んでいた。


流石に父親は、娘の初めて連れて来た友だちが男2人だったことに、多少複雑そうな様子は見せたが、娘の本当に嬉しそうな姿に、まあ良いかと無理矢理納得していたようだった。


「・・・男1人より、ましだ。」


小さくそう呟く声が、利長の耳に届いて、その心情に多少同情してしまった。



・・・同情していたのに、今のこの状況は何だろう?



確か、夕飯を食べて、与えられた客間に落ち着いてから、お風呂を先に入らせてもらって、桃がどうしても利長の髪を自分が乾かしたいと言い張ったから、多少くすぐったく感じながらも髪の手入れをまかせたのだ。


利長の、いつもは一つに結わえてある真っ直ぐな長い黒髪に、桃は嬉しそうに指を滑らせた。


「やっぱり凄くキレイ。本当は、いつも触ってみたかったの。」


うっとりと桃が呟くものだから、利長は柄にもなく赤くなる。

自分の肌が浅黒かったことにこの時ほど感謝したことはなかった。


「ちぇっ!俺も真っ直ぐな髪が良かった。」


遅れて風呂から上がって来てタオルでガシガシと自分のくせのある短い髪を拭きながら、翼が悔しそうに呟く。


「翼の髪も柔らかそうで好き(・・)よ。終わったら私が整えても良い?」


桃の言葉に、あっという間に機嫌を直した翼は、大きくうん!と頷いた。


「桃の髪は、俺が乾かす!」


「うん。お願い。」


そんな風に笑い合っていたはずだった。


とりとめのない楽しい話をして、夜も更けて、桃の母親がまだ風呂に入っていなかった桃に、いい加減にしてお風呂に入って寝なさいと告げに来たのは夜の11時過ぎだったと記憶している。

何だか名残惜しい気分だったが、確かにもう遅いからと風呂に入る桃に就寝の挨拶をして、自分と翼は布団を並べて眠ったはずだ。


桃は、当然の事ながら自分の部屋で眠ると言っていたはずだった。


どう考えても、こうなった理由が思いつかない。


もう一度目の前の可愛い寝顔を見詰める。



「う・・・う〜ん。」



微かに開いていた赤い唇から、可愛い声が漏れた。



そのまま桃の頭が、利長の方に、すり寄るように動いて・・・白い額が、コツンと利長の唇に当たった。



「!!○▽・☆△〜・○!」



利長の受けた衝撃は言葉にならなかった。


浅黒い肌でもはっきりとわかるほどに顔を真っ赤にして、利長は飛び起きる!!


が・・・


「!痛ッツ!!」


利長は、桃が自分の髪を掴んでいたことを忘れていた。

案外しっかり握っていたようで、引っ張られた痛みで、桃の上に倒れそうになった利長は、慌てて両手を桃の顔の両脇について体を支える。


つまり、桃の上から覆い被さるような体勢になったということだ。



そこに・・・



「お早う。今日の予定を考えれば、そろそろ起きた方が良いんじゃな・・・」



時間を見て、親切に桃の父親が、利長たちを起こしに来てくれたのだった。

イケメンな父親は、そこに居るはずのない愛娘の姿と、その愛娘が・・・1人に押し倒され、1人に背中から抱きつかれている様子をを見て、ピキッと固まった!!




「!!・・・も!桃ぉっっつ!!!」




悲痛な父親の絶叫が、朝の相川家に響き渡った。

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