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セカンド・アース  作者: 九重


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卒業式 1

「愛しています。桃。」



ストレートな告白に、桃は固まる。


いや、別に驚くことではないのかもしれない。

目の前の明哉からの愛の告白は、これがはじめてというわけでは決してない。クリスマスには、これでもかという程甘い言葉をもらっている。


ただ、朝の6時という早朝に、しかもこれが本日3人目だという告白を聞いては、桃は驚かざるをえなかった。

ちなみに他の2人は、早朝一番(5時前だったと思う。)に部屋に押しかけてきた翼と、その翼をこんな時間に非常識だろうと連れ戻しにきて、叱りつけながらもしっかり自分も告白してきた利長だった。


「いったいどうしたの?」


「私が桃を愛していることは、どうもしないことです。」


そういうことではないと分かっているはずなのに、しれっと答える明哉は性質(たち)が悪い。


軽く睨みつければ、「そんな顔も可愛いですね。」と笑いながら今度は別な答えを返してくれた。


「今日は、卒業式ですから。」


卒業式と言えば、告白ですよね?と聞き返されて、桃はそうなの?と首を傾げる。


考えて・・・


「えっ、でも明哉たち(・・)が私に告白するのは違うでしょう?」


・・・気がついた。


卒業式の告白は、もうこれで会えなくなる3年生が絡むのが定番のはずである。

告白する側、される側、あるいは両方の場合もあるだろうが、そこには必ず卒業生という特殊な立場の人間がいる。だからこそ卒業式に告白というイベントが成り立つのだ。

今日は卒業式ではあるが、3学期の終業式はもうしばらく先だ。明哉たちとはこれからも毎日顔を合わせることになる。


今日告白する必要性を全く感じなかった。


「曹操や、荀イクだけに告白させるわけにはいきませんから。」


至極真面目に明哉は桃の疑問に答える。


―――要は、明哉たちは、吉田たちに告白されるであろう桃が、うっかり流されてOKするのを懸念しているのであった。


「曹操も荀イクも人をたぶらかす天才ですから。」


そして、桃は優しすぎると明哉は思う。懐深く大らかで自分のことよりも他人を思いやる気質に満ちた主君は・・・ある意味危なっかしかった。

吉田や内山の口車に乗って頷きでもしようものなら、言質を取った彼らがどんな行動をとるかわかったものではない。その前に自分たちだって桃を愛して求めているのだと、桃には思い知っていてもらう必要があった。


「ともかく今日は、誰からどんな告白を受けても答えを返さないでください。」


私だけは別ですがと言いながら、明哉は桃に懇願する。



・・・それは告白してくれる相手に対して随分酷い対応なのではないだろうか?


悩む桃に、くれぐれも!と念を押して明哉は帰っていく。

早朝から疲れた桃は、この後自分がどんなに疲れるか、この時は全くわかっていなかった。





―――その後、桃は告白されまくった。


定番の3年生・・・吉田や内山、城沢はもちろん、明哉と同じ懸念を抱いた2年の仲西、荒岡や、1年の仲間たち。


その数は数えるのもイヤになるほどだった。


最後に来た戸塚などは、他の者に自分が遅れをとってしまった事に酷くショックを受けて固まる。


「・・・早い者勝ちではないのだろう?」


当たり前です!と声を荒げた自分は絶対悪くないと、桃は思った。




「・・・みんな、どうかしたとしか思えないわ。」


桃の嘆きに、何故かその話を聞いた理子は目を輝かせる。



「ステキ!まるで乙女ゲームのエンディングみたい。」



ね?!と理子が言えば、文菜をはじめとした女生徒のほとんどがキャァッと笑いさざめく。


「乙女ゲーム?」


「そうよ。桃ちゃんたら知らないのっ。」


信じられないっと言いながら、理子たちは口元に手を当てて桃を見てくる。



―――卒業式がはじまる直前の一時(ひととき)

数少ない女子生徒たちは全員集まり、3年女子卒業生全員に手渡す生花コサージュの仕上げ作業をしていた。

なんでもこれは南斗高校特別クラス女子生徒の伝統的イベントだそうで、色とりどりの花々と可愛いリボンで作られたコサージュはどれも気合の入った一品だったりする。


その1つを、いつ見ても大きいなと思う胸の前に捧げ持ちながら、理子はうっとりと説明してくれた。



―――曰く、乙女ゲームというものは、主人公のヒロインが複数(・・)の攻略対象の男の子たちとイベントを重ねながら親密度を高め、最終的に条件を満たした者との各種エンディングを迎えるというものらしかった。


「もうっ、こんな事も知らないなんて、桃ちゃんはゲームをしないの?」


・・・いや、桃とてゲームを全くしないという訳では決してない。しかし、小さい頃から病弱であまり親しい友人がいなく、しかも一人っ子という境遇の桃は、友だちとゲームで盛り上がるという経験がまるでなかったのだった。

当然、根を詰めてゲームにのめり込むような事もなくて(そんな事をすれば、一発で熱が上がり寝込む事になってしまうのは確実だ。)桃のゲームの知識は、誰でも気軽にできる、赤い服と(ひげ)がトレードマークの配管工が飛び跳ねるゲームくらいなものだった。



乙女ゲームなどやったこともなく・・・。

乙女ゲームのエンディングでは、条件をクリアした攻略対象者がヒロインに告白してくるのだという事を、桃は今日はじめて知った。


「その告白に正しく答えるとその人との恋愛エンディングになって、すっごく素敵なスチルが見られるんです!」


以外にも力説してきたのは、5組の橋本芽生だった。



「○○の○○さまのベストエンド見ました!?」

「キャアァッ、見た見た!もう悶絶ものよね。」

「私は△△さま。」

「そっちもステキです。」



女子高校生の異様な盛り上がりに、桃はついていけなかった。


―――ということは、今日桃に告白してくれた誰かに桃が返事をすれば、桃はその人との恋愛エンディングを迎えるのだろうか?


「ビジュアル的には、絶対生徒会長か副会長ですよね!」


生徒会長とは、仲西。副会長は荒岡のことである。


「立場的にも鉄板です!」


千怜・・・前世の呉夫人はうっとりと目をうるませる。


「そんなこと、多川くんが黙っているとは思えません。」


ビジュアル的にも負けていませんしと言う芽生・・・諸葛亮の黄夫人は、明哉一押しのようだ。


「あら、ビジュアルならうちのクラスの立木くんだって・・・」


真帆・・・甘夫人は、桃の相手は1年であって欲しいと願う蜀代表だった。ちなみに1年であれば誰でもOKというアバウトな思考の持ち主でもある。


「私は、お兄さま以外の方でしたら、どなたでもかまいませんわ。」


文菜・・・麋夫人の発言は、たいへんわかり易い。

そもそも猛には告白されていないと桃が言えば、文菜は本当に嬉しそうに頬を染めた。

コメントするのもいやになるようなラブラブぶりである。


「そんなのダメよ。桃ちゃんはオールエンドを目指さなきゃ!」


そうでなきゃ、友情エンドねと主張するのは、やっぱり理子だった。

オールエンドとは、特定の誰かではなく全員で幸せになりましたというようなエンドなのだそうだ。友情エンドについては説明する必要もないだろう。




少女たちは、喧々諤々(けんけんがくがく)と、どんなエンドが桃に相応しいかを楽しそうに主張し合う。




完全に面食らい、その話し合いに置いて行かれた桃は、言葉を挟むこともできずに、手元のコサージュに視線を落としたのであった。

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