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セカンド・アース  作者: 九重


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学年末決戦 17

運の悪い(・・)ことに、そこは望楼の端で手すりは低く、よろけた桃は自分の膝程の高さしかないその手すりにぶつかる。


・・・今更言うのもなんであるが、望楼とは遠くを見渡すための場所であり、当然周囲に壁などはない。


桃の体は、あっという間に傾いて外へと放り出された。



「桃っ!」



見開かれた黒い目が、叫ぶ吉田を見る。

咄嗟に駆け出した吉田に向かい、助けを求めるかのように白く小さな手が差し伸べられた。




空に放り出され、そのまま落ちていこうとするその手を、駆けつけた吉田は必死に握る。


間一髪で掴んだ手を引き寄せようとして・・・果たせなかった。




吉田を責めるなかれ。


ファイト一発!で有名な某栄養ドリンク剤のCMのような力技は、現実にはとても難しいのである。

決して桃の体重が重いとか吉田の腕力が足りないなどという問題ではない。


望楼という高い場所から足を滑らせて投げ出された体を、自分を支える固定具1つない状態で掴まえ持ち上げるなんていう超人技を、18歳男子高校生に求めるのは、あまりにハードルが高すぎだろう。




結果、吉田は桃に引き摺られ、2人仲良く落ちていく破目になった。




幸いにしてこの望楼は、下の階の中央に一回り小さく建っているタイプで、落ちていく先はすぐ下の階である。


その高さおよそ3m。


棒高跳びの世界記録が6m超えで、走り高跳びの記録は2m台だったよなと、吉田は役にも立たないことを思い出す。


(ああ、でもどっちも厚々としたマットが敷いてあったな。)


自分達の落ちる先にそんな便利なモノがあるはずもないことは、十分承知の上である。

床がコンクリートではなく木の板であったことがせめてもの救いなのかもしれなかった。


余程打ち所が悪くない限りは死ぬことはないだろうと思いながら、吉田はぎゅっと桃の体を引き寄せる。


守るように腕の中に抱き締めた。


トンと桃の体が胸に当たる。



(絶対に守る。)



決意と共に尚深く抱え込んだ。




この間、わずか1秒にも満たない間の行動である。


邯鄲(かんたん)の枕”の故事ではないが、実際にはわずかな時間の間に、吉田の心は実に多くのことを考えたようだった。(“邯鄲の枕”とは中国の故事で、なんでも夢を叶えてくれるという枕を貸してもらった青年が50余年にもわたる波乱万丈の人生の夢を見たのに、目覚めれば粥が煮えないくらいの短い時間しか経っていなかったという、とんでもない“夢オチ”話である。)




吉田は、くるだろう衝撃に備えた。



・・・・・・・・・・・・



しかし、予想に反して吉田を襲ったのは、ガンッ!という堅い床に叩き付けられる衝撃でもなければ、気絶するような強い痛みでもなかった。


ドサッ!というなんとも生温かい感触が吉田を抱きとめる。



「グエッ!最悪。何で一緒に落ちて来るんだ?」

「桃、無事ですか?」

「てめぇっ、いつまで桃を抱き締めてやがるんだ?!さっさと離れろ。」



ギャアギャアという、うるさい怒鳴り声が吉田の耳に届き、?マークを浮かべている間に吉田の腕からは桃が奪い取られていく。



「桃、桃、平気か?」

「お怪我はありませんか?」

「よく、無事で。」



あっという間に、桃は翼や荒岡といった1、2年の仲間たちに囲まれて見えなくなった。



わけがわからず呆然と座り込んでいた吉田の前に、代わりのように城沢と堤坂が現れる。


「陛下、ご無事ですか?」


「良かった。怪我はないようだな。」


ホッと安堵する2人の顔を見て・・・吉田は思わず叫んだ。



「どういうことだ!?」



―――吉田と桃は、一騎打ちをしていたのである。


その戦いの中で、桃は疲れから足を滑らせ手すりから落ちた。

それを自分は助けようとして助けられず、2人で落ちたはずだった。


白熱する戦いの中で、起こってしまった不運な“事故”。


なのに、何で自分たちをまるで待ち構えていたように受け止める“奴ら”がいるのだ?!



吉田は、かつてない程に混乱していた。



「・・・俺たちは、まんまとはめられた(・・・・・)んですよ。」


城沢が深くため息をつく。


「なっ?」


「全て桃さんたちの(はかりごと)だったんだ。」


堤坂はそう言うと、自分の胸元を指差し吉田に見せてきた。

そこにはベットリと朱液の赤がついている。


「俺も・・・」


そう言って後ろを向いた城沢の首元にも、くっきりと赤はついている。


「2人が・・・桃さんとお前が、望楼から飛び出した瞬間にやられた。」


他の奴らも同様だと堤坂は悔しそうに呟く。




確かに、戦いの一時休戦は一騎打ちが終わるまでの間であり、その一騎打ちは戦う2人のどちらかが望楼の外に出た時点で強制終了となるルールではあった。


一事休戦がとけたからには、敵に攻撃するのは争い合う者同士当たり前のことである。


だからと言って、主君が落ちてくるという非常事態にそんなことをはじめる不忠者など、いるはずはなかった。




・・・それが、元々わかっていた(・・・・・・)ことでもない限り。




あまりの事態に口をパクパクと開け閉めする吉田に更に追い討ちがかかる。


「陛下もですよ。」


おずおずと城沢は吉田の胸を指差した。




―――そこには、見事な白が一直線に心臓の上を横切っていた。




その白をつけられる人物は、たった1人しかいない。

吉田は、落ちていく最中、桃を抱き寄せた時にトンと胸に衝撃があったことを思い出した。




「・・・・・・っ!」




計ったように頭上から雄叫びが聞こえる。


「魏の最後の旗、とったぞっ!!」


「私たちの勝ちです。」


それはこの場にいない、利長と明哉の声だった。





「・・・桃ォォっ!!!」





吉田の叫びが周囲に響き渡った。

桃ちゃん…鬼です。

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